2020〜2021年の冬の一季節のあいだに鶏3000万羽が殺処分された。高病原性鳥インフルエンザ(HPAI)が原因だった。殺処分した鶏に対する被害補償金の支援をはじめ、チキン・卵の価格上昇につながった。核心食材である卵の値上げは、加工食品および外食サービスの価格上昇へ波及する。
(2025〜2026)冬季にも韓国でHPAIが62件発生した。地球温暖化で渡り鳥の移動経路が変化している。主に西海岸地域で発生が多かったが、いまは内陸地方へ拡散している。ウイルス自体も変異している。このままでは毎年数千億ウォンの防疫費用の支出はもちろん、内需市場への打撃が避けられない。
この問題を人工知能(AI)の助けを借りて効果的な対応策を用意できないか。農林畜産検疫本部のホン・スンギル動植物ビッグデータチーム長とデータテック企業ビッグバリューのグルム代表は、人工知能基盤のリスク予測システムを共同で構築した。構築過程で直面した公共AX(人工知能大転換)の限界と課題、克服の過程を整理し、『国家的知能』を刊行した。2日、2人の著者に会い、HPAIリスク予測モデルについて説明を聞き、公共AXの方向性を問うた。
グルム代表は人工知能向けのカスタムデータの生産・管理を強調した。グ代表は「韓国の公共データ開放水準はOECD諸国の中で上位圏だ。データポータルに登録されたデータだけで数万件を超える」と述べ、「ところが実際に活用可能なデータの比率は非常に低い」と語った。グ代表は特に「人工知能が読み取り活用できるデータは全体のごく一部だ」とし、「特定の部処(省庁)が公開したデータを他の部処と連携して活用できるインターフェースがない」と指摘した。
ホン・スンギルチーム長は『人工知能をどう見るか』が重要だとした。ホン代表は「人工知能を単なる道具と見なさず、同僚として見るべきだ」と述べ、「どこからどこまでを人工知能に任せ、以降は全権を取り戻して直接扱う形でプロセス構造を綿密に設計すべきだ」と語った。ホンチーム長は先月30日付で公職を退いた。
以下、2人の著者との一問一答。
─動植物の伝染病は多いが、その中でHPAIリスク予測モデルをなぜ最初に開発したのか。
ホン・スンギル(以下、ホン)「畜産物の中でも卵には特殊性がある。ほとんどの国が需要分だけ生産する。豚肉や牛肉はより多く生産して輸出する国が多いが、卵は自国生産を行い、HPAIなどで生産が急減したときだけ海外から空輸する。韓国では2020年代に入りHPAIが頻繁に発生し、国内の卵の需給に困難が生じた。これを予測し迅速に対応するシステムの必要性が高まった。」
─プロジェクトの目標は何だったのか。
ホン「それまではHPAIが発生すると対応マニュアルに従って動いていた。この枠を破ろうとした。事後対応より、発生前にまずリスクを知らせ備えられる体制を作ることを目標に据えた。」
─具体的にリスク予測モデルの導入によって殺処分の方式や構造は変わったのか。
ホン「これまでは殺処分は拡散を防ぐための手段として活用されてきた。だが今は『感染が発生したが、ウイルスはどこへ向かうのか。経路のコアノードを遮断すればどれだけ防げるのか。最小限の介入で最大の遮断効果を上げる組み合わせは何か』を仮想空間で先に回してから(殺処分の)判断をしている。」
─これによる効果は。
グルム(以下、グ)「まず、距離が近いという理由だけで殺処分を行う農場が減る。国家財政の面でもプラスだ。不必要な予防的殺処分が減れば補償金の支出が減るからだ。」
─殺処分補償金の減少効果はどの程度と予測するか。
グ「分析の結果、20%以上の削減が見込まれると出た。」
─気候変動で渡り鳥の移動経路や伝染病の種類が変わる可能性も指摘される。
グ「地球温暖化の影響で、過去には鳥インフルエンザのクリーンゾーンだった米国でも疾病が発生している。変動性が大きくなった。」
ホン「特に植物防疫分野で気候変動の影響が大きく表れている。植物にとって害虫はウイルスに相当し、上昇気流に乗って国境を高速で移動している。以前は来なかった害虫が韓国にまで流入しており、問題は深刻だ。」
─このように状況が急変すると、既存で確保したデータがなく予測が難しくならないか。
グ「モデリングをどう行うかにかかっている。因果関係を究明するモデル実験をしていると、原因と想定した変数の根本原因まで掘り下げることになる。鳥インフルエンザの原因である渡り鳥の移動経路データを研究していくと、渡り鳥の移動経路の気象状況を把握することになり、これをまた変数として反映するわけだ。」
─現在構築した鳥インフルエンザリスク予測モデルの精度はどの程度の水準か。
グ「海外の他国にも構築したモデルがあるが、これよりはるかに正確だ。リスクモデルの性能は、リスク上位10%の農場を選別したとき、実際の発生農場のうち何%がその中に入っているかで見る。われわれのモデルの精度は56.8%を記録した。全農場の10%だけ選別したが、実際の発生農場の過半が入っていたという意味だ。もし上位20%に対象を広げると精度は75%まで上がる。地域を基準にすると上位20%で95.5%が含まれる。欧州食品安全機関のモデルは上位33%の地域を選別したとき73%を捕捉する。」
─書籍で、人工知能モデルの構築過程でデータ確保の難しさに言及した。特に有意義に見えるデータも脱落する場合が多かった。
ホン「生きた家きんが取引される伝統市場に関するデータが確保できれば、リスク予測モデルの精度を高められると見た。だが当該データを収集する体制がなかった。ある市場は手書きで記録し、ある市場はエクセルファイルで、ある市場はそもそもデータがなかった。整合性の問題が露呈した。将来このデータを継続調査する保証もなかった。持続性を検討し、結局は脱落させた。持続性が保証されないデータを核心変数に採択すると、後でデータが途切れた場合にモデル自体が揺らぎ得る点を考慮した。」
─最終的にどのようなデータを活用したのか。
ホン「数千のデータのうち、実際には60余りだけを材料として使った。疫学調査書を通じて、人工知能が鳥インフルエンザの因果関係を把握した。以後、環境要因と防疫要因、伝播要因、季節要因という4つの軸を変数として整理した。」
─公共AXが話題だが、どの部処が舵を取るかによって目標が変わるという限界がある。
グ「もちろんだ。防疫において渡り鳥は統制の対象だが、環境の視点では保護の対象だ。渡り鳥を妨げたり渡来地を毀損することは生態系破壊と見なされる。もし各部処が自らの目的に合う人工知能を開発するなら、互いに相反する判断を出すことになるだろう。もし統合システムであれば、システム全体が混乱に陥る。」
─どう防がねばならないか。
グ「最高意思決定者が優先順位を定めて判断すべきだ。状況に応じて防疫と生態系保護の優先順位を違えて判断せざるを得ない。これは結局、政治的プロセスだ。」
─国家AXが円滑に進むためのヒントを挙げるなら。
ホン「人工知能を道具と見なさず、同僚と見るべきだ。どこからどこまでを人工知能に任せ、以降は全権を取り戻して直接扱うプロセス構造を設計する必要がある。」
─書籍で人工知能システムの輸出も提案した。
グ「国家の資金で公共AXを完成させた後、これを輸出して新たな価値を創出できる。われわれのシステムがグローバルスタンダードになれば、国家イメージの向上にも寄与できる。家畜防疫の人工知能システムにはまだ国際標準がない。韓国が先に検証されたシステムを国際舞台に披露すれば、これが事実上の標準となるだろう。」
☞ 国家的知能
『国家的知能』は、ビッグバリューと農林畜産検疫本部が共同で構築した高病原性鳥インフルエンザ(HPAI)リスク予測モデルの事例を中心に、韓国の行政が「AI導入」を越えて「AX(AI転換)」段階へ進むための条件を扱った公共AXの実証記録である。単純自動化(RPA)を越え、行政の判断構造と作動方式自体を変えるAXの方法論を、実際の運用事例を通じて解きほぐす。2人の著者の研究成果とインサイトは9日、ChosunBizが主催する「行政AXフォーラム」で聴講できる。