欧州宇宙機関(ESA)は2026年8月31日と9月1日(現地時間)に、寿命が尽きた人工衛星2基を南太平洋上空へ落下させた。2000年に打ち上げられ地球の磁気圏を観測してきたクラスター衛星「サンバ」と「タンゴ」である。2基の衛星は大気圏に再突入した後、数十個に砕けて燃えた。
スターリンクをはじめとする低軌道衛星網が急速に拡大し、寿命を迎えて大気圏へ落下する衛星も増えている。これに伴い、再突入の過程で発生するアルミニウムなど金属粒子が上層大気にどの程度流入し、大気環境にどのような影響を及ぼすのかを確認する必要性も高まっている。
ESAはこれを直接確認するためトンガから観測航空機まで飛ばし、サンバとタンゴの最後の瞬間を追跡した。航空機に搭載した30基の観測装置のうち29基が衛星の再突入を捉え、衛星が燃える瞬間にどのような物質が溶解し蒸発するのかを測定した。ESAは今回の観測で得た資料を、再突入過程と大気への影響を分析するのに活用する予定である。
◇ 廃衛星を燃やす際にアルミニウムも蒸発…成層圏で既に確認
衛星は秒速数kmの速度で大気圏に入る。この過程で衛星前方の空気が急激に圧縮・加熱されて表面温度が急上昇し、衛星構造物が溶けたり蒸発したりする。とりわけ衛星の構造材として多用されるアルミニウムは、蒸発後に酸素と反応して酸化アルミニウム(アルミナ)といった「金属微粒子」を生じ得る。
金属微粒子とは、主として数十km以上の大気上層部で生成される、nm(ナノメートル・10億分の1m)からμm(マイクロメートル・100万分の1m)サイズの金属または金属酸化物の粒子を指す。衛星の再突入過程で生じた粒子は、高高度にとどまった後、時間の経過とともに成層圏へ降下し得る。
金属粒子はすでに実際の大気中に存在する。米国海洋大気庁(NOAA)の研究チームは、米国航空宇宙局(NASA)の高高度航空機で成層圏のエアロゾルを採取し分析した結果を、2023年に米国科学アカデミー紀要(PNAS)で発表した。
研究チームは、直径120nm以上の成層圏硫酸粒子の約10%で、アルミニウムなど宇宙機由来と見られる金属成分を確認した。研究チームは20種を超える元素比を分析した結果、ロケットや人工衛星に用いられる特殊合金の組成と一致する事実を確認した。
2024年、米国サザンカリフォルニア大学(USC)の研究チームは、国際学術誌『地球物理学研究レター(GRL)』に、質量の30%がアルミニウムである250kgの衛星が大気圏に再突入する場合、酸化アルミニウム粒子がおよそ29.8kg生成され得るというシミュレーション結果を発表した。
一方、再突入により大気に流入する人工物質の量も急速に増えている。2026年1月の国際学術誌『アクタ・アストロノーティカ(Acta Astronautica)』に掲載された分析によれば、2024年に地球大気圏へ再突入した人工物体の質量は約490tで過去最大を記録した。研究チームは同年、衛星とロケットから大気へ流入したアルミニウムの量が、隕石など自然由来で地球に入るアルミニウムを初めて上回ったと推定した。
◇ 酸化アルミニウムはオゾンを破壊するのか…影響はなお不明
科学者が酸化アルミニウムに注目する理由は、この粒子が成層圏でオゾンを破壊する化学反応を促進し得るためである。成層圏の塩素化合物である塩酸と硝酸塩素は、酸化アルミニウム粒子の表面で反応して塩素分子へと変わり得る。塩素分子が日光を受けると反応性の高い塩素原子が生じ、オゾンを反復的に分解する。
ただし、実際の成層圏で当該反応がどの程度起きているかは依然として不確実である。2026年5月に国際学術誌『アース・フューチャー(Earth's Future)』で発表された研究では、2020〜2022年の実際のロケット打ち上げと衛星再突入データを基に、宇宙活動の増加傾向が2029年まで続く場合の大気変化を計算した。
研究チームは、2029年のロケット打ち上げと宇宙物体の再突入による全地球成層圏オゾン減少が約0.02%と微小にとどまると推定した。現時点で想定される水準では、オゾン層全体を大きく変えるほどではないという結果である。研究チームは、オゾン減少の主因が酸化アルミニウムよりも、固体ロケット推進薬に由来する塩素と、ロケットの打ち上げおよび再突入時に生成される窒素酸化物だと指摘した。
ただし研究チームは、実際の観測データが不足している以上、金属酸化物の物理・化学的特性を直接測定する研究が必要だと付け加えた。再突入したアルミニウムがどのような化学物質へ変わるのか、粒子の大きさはどれほどか、どの高度で生成されどれくらい滞留するのか、といった点を測定すべきだという意味である。
スティン・レメンスESA宇宙デブリ担当臨時責任者は「再突入する衛星が正確にいつ、どのように加熱され破砕するのか、どのような物質が生き残るのかについて、より良いデータが必要だ」と述べ、「これにより完全に燃え尽きる衛星を設計すると同時に、大気汚染も防ぐことができる」と語った。