CKD BiO(063160)が米国パートナー企業のヒリス・セラピューティクスと手を組み、ボツリヌス毒素の主要うつ病(MDD)治療薬の開発に挑む。先にグローバル製薬企業アラガンが第2相試験で主要評価項目を達成できず、開発が中断された領域である。
CKD BiOは最近、米国食品医薬品局(FDA)から自社ボツリヌス毒素製剤「ティエンバス」100ユニットのMDD第1相試験計画(IND)について承認を受けた。臨床はヒリスが米国で実施し、CKD BiOは忠北オソン工場で治験用医薬品を製造・供給する。
ボツリヌス毒素のMDD治療可能性が立証されれば、既存抗うつ薬とは異なる方式で抑うつ症状にアプローチする治療薬が登場することになる。既存抗うつ薬が脳の神経伝達物質に作用するのとは異なり、ボツリヌス毒素は末梢神経と筋肉の接点である神経筋接合部でシグナルを遮断し、抑うつ症状に影響を及ぼし得るかを確認する方式である。
グローバル市場調査会社リサーチ・アンド・マーケッツによれば、グローバルMDD治療市場は2026年約64億ドル(約9兆ウォン)から2030年約75億ドル(約10兆6000億ウォン)へ成長する見通しである。
ただし今回の第1相は健康な成人を対象に安全性・忍容性などを確認する初期段階であり、実際のうつ病患者で抗うつ効果があるかどうかは後続の臨床で検証する必要がある。
◇アラガン失敗から9年…Chong Kun Dang pharmaceuticalが「別の製剤」で再挑戦
毒素系抗うつ薬の開発の歴史は2006年にさかのぼる。ヒリス共同創業者のエリック・フィンジ博士がボツリヌス毒素をMDDに適用した初期症例群研究を発表したためである。その後アラガンが開発に乗り出し、2017年に第2相まで進めた。
アラガンの第2相には成人女性MDD患者255人が参加した。ボトックス30ユニットと50ユニットをそれぞれプラセボと比較する24週の臨床で、一次評価項目は投与6週時のモンゴメリー・アスベルグうつ病評価尺度(MADRS)の変化であった。
結果は割れた。30ユニット群ではプラセボ群より抑うつ症状が3.7点多く改善したが、事前に定めた統計学的有意性基準を満たさなかった。50ユニット群でもプラセボ群との有意差は示されなかった。
しかし30ユニット群の3週時と9週時では統計学的に有意な差が確認された。
その後、臨床は第3相に進まなかった。アラガンは2020年にアッヴィに買収され、アッヴィも開発を再開しなかった。
中断されたプログラムの権利はヒリスが引き継いだ。ヒリスは2022年にアッヴィからボツリヌス毒素のMDD治療に関する中核特許の独占ライセンスを確保し、2024年1月にCKD BiOとボツリヌス毒素A型製剤の供給契約を締結した。
アラガンのボトックスとCKD BiOのティエンバスはいずれもボツリヌス毒素A型製剤だが、添加剤構成に違いがある。ボトックスはヒト血清アルブミン(HSA)と塩化ナトリウムを使用する一方、ティエンバスはHSAの代わりにL-ヒスチジンなどを添加剤として用いる。
CKD BiO側は「ティエンバスは動物性原料と添加剤を排した非動物性製品だ」とし、「血液由来の病原体感染やアレルギー誘発の懸念を低減できると期待する」と説明した。
ただし最近の研究では、HSAを含む製剤がHSAを含まない製剤よりも注入後の組織内で拡散する範囲が相対的に小さく示され、製剤が毒素の拡散に影響を及ぼす可能性が提起された。
眉間のように眉とまぶたの動きに関与する複数の筋肉が密集した部位に注射するだけに、注目すべき変数である。毒素が意図した標的筋を越えて隣接筋に影響を及ぼす場合、眼瞼下垂や眉位置の変化といった局所的副作用につながり得るためだ。
◇注射の痕跡が出るのに…「プラセボ」設定も課題
患者対象の第2相からは「盲検」というもう一つの難題が待つ。
ボツリヌス毒素をうつ病治療に活用する根拠には「顔面フィードバック仮説(facial feedback hypothesis)」がある。表情で生じた身体的感覚信号が脳へ伝達され、感情に影響を与え得るという理論である。
ボツリヌス毒素A型製剤は神経筋接合部でアセチルコリン分泌を抑制し、筋収縮を阻止する。眉間に注射すると、脳が眉間をしかめよというシグナルを送っても筋肉が正常に反応できない。表情から脳へ戻る感覚フィードバックを遮断し、否定的感情の連鎖を弱めようということだ。
問題はボツリヌス毒素を投与された患者は実際に眉間が伸びるという点である。すなわち、患者自身が薬剤を投与されたかどうかを察知する可能性が高まる。
患者が自分は実薬を投与されたと認知すると、薬効への期待が症状評価に影響を与え得る。評価者も投与の有無を推測すると、患者の状態を評価する過程でバイアスが介入する可能性がある。
この問題を避けるため、臨床デザイン自体を変えた例もある。フランスのリモージュ大学病院・エスキロール病院のカロリーヌ・セオラト=マルタン(Caroline Ceolato-Martin)博士の研究陣が2024年に発表した「OnaDEP」臨床研究が代表的だ。
研究陣はプラセボの代わりに全患者へボツリヌス毒素を投与するが注射部位を変える方式を採った。治療抵抗性うつ病患者58人を2群に分け、一方にはうつ治療の標的部位として知られる眉間(皺眉筋・鼻根筋)に、もう一方には目尻の外眼角しわを作る眼輪筋にボツリヌス毒素を注射した。
両部位ともボツリヌス毒素を投与するため、患者は「薬を投与されたか」を識別しにくく、両部位ともしわ改善という外観上の変化が現れる。代わりに、どの部位がうつ病治療に有効かは患者に知らせなかった。評価を担当する研究者も注射部位が分からないようにした。「実薬対プラセボ」ではなく「効果が見込まれる部位対そうでない部位」を比較したのである。
CKD BiO側は「臨床の初期段階であるだけに具体的な計画はまだ共有しにくい」とし、「ティエンバスが美容分野を越えてMDDの新たな治療代替として定着できるよう、ヒリスと緊密に協力する」と明らかにした。
参考資料
Toxins(2026)、DOI: https://doi.org/10.3390/toxins18030142
Depression and Anxiety(2024)、DOI: https://doi.org/10.1155/2024/1177925