古生代にも現在と同様に糞が海洋生態系を豊かにする肥料として機能していたことが明らかになった。原始的な海洋動物の排泄物を通じ、前例のない量の有機物が海へ拡散し、動物の種類を爆発的に増やしたという主張である。今日、クジラやペンギンなどの動物の排泄物が海洋生態系の栄養循環に寄与しているのと同じである。
ラッセル・ビクネル(Russell Bicknell)豪州フリンダース大学教授とジュリアン・キミグ(Julien Kimmig)独カールスルーエ州立自然史博物館キュレーターは「世界各地の堆積層でカンブリア紀に消化管と排泄物化石の大きさと複雑性がともに増加した証拠を発見した」と2026年7月4日(現地時間)に国際学術誌「生態学と進化の動向」に掲載された論文で明らかにした.
古生代カンブリア紀である約5億4,000万年前から地球では前例のない速度で多数の動物が出現した。いわゆるカンブリア紀生物大爆発である。三葉虫が代表例である。2,000万年のあいだに地上の主要な動物グループの大半が出現した。動物の構造も複雑になった。眼や鉤爪、歯が生じ、触角・ひれ・尾もこの時期に現れた。
◇排泄物が大きくなり消化器官も複雑化
これまで科学者はなぜカンブリア紀に動物が急増したのか正確には解明できていない。海洋の酸素濃度が急増したおかげだとする説や、気候の安定化や資源を巡る競争が進化の速度を高めたという主張もあった。研究チームは当時の海洋生態系で有機物が豊富になり、生物大爆発を招いたと推定した。
有機物の出所は原始的な海洋動物の排泄物だとみた。今日の深海生物が海面から落ちてくる排泄物に依存している点に着目した。研究チームは仮説を検証するため、当時の地層から出た糞石(ふんせき)を調べた。糞石は動物の排泄物が固まって石のようになった化石で、英語ではコプロライト(coprolite)という。糞石を調べれば消化器官の発達過程もわかる。
研究の結果、世界の堆積層35カ所以上で消化器官と糞石の大きさと複雑性がともに増加したことが示された。ビクネル教授は「糞石は㎜より小さい粒から、殻や他の動物の破片が入った㎝大まで多様になった」と述べ、「これとともに初期節足動物の消化器官も複雑になり、多様な食物を処理できる腸と消化腺が進化した」と説明した。
動物は6億年前のエディアカラ紀に初めて出現した。その後、カンブリア紀初期に複雑な消化器官と排泄物の化石が現れ始めた。消化器官が発達し、より多様な餌を食べ、排泄物中の有機物も豊富になった。ビクネル教授は「化石記録を見ると、摂食戦略の進化が有機物と栄養素の生産・分配と密接に関連し、今日の食料生産に肥料を用いるのと同じ環境を形成したことは明白だ」と明らかにした。
無論、これも一つの理論である。排泄物の増加が先か、動物多様性の増加が先かを解明するのは難しいと批判する科学者もいる。しかし、今日における動物の排泄物が海洋生態系に及ぼす影響を踏まえると、十分に可能性のあるシナリオとみなせるとの意見が出ている。
◇海を蘇らせるクジラとペンギンの排泄物
動物の排泄物に含まれる鉄分は、今日の海洋生態系を肥沃にする肥料となる。米国バーモント大学とハーバード大学の共同研究チームは2010年、「プロスワン」でクジラが栄養物質を海の深部から表層へ汲み上げるポンプの役割を果たすと発表した。
クジラは海底で食物連鎖の最下位にある甲殻類のクリルを食べ、海面へ上がって排泄する。このときクリルの体にあった鉄分がクジラの排泄物を通じて水面に拡散する。植物プランクトンは鉄分を吸収して急増する。クリルや小魚はこのプランクトンを食べて育ち、再びクジラやより大きな魚の餌となる。
クジラの糞が海洋生態系を支えるという事実は、逆にクジラ個体数の減少を通じて裏付けられた。1910年から1970年まで南極海でヒゲクジラ150万頭が捕鯨船の犠牲になった。クジラが消えれば餌であったクリルが増えると考えられたが、結果は正反対だった。クリルの個体数も20世紀半ば以降に80%以上急減した。クジラの糞が消えると海の生産力も低下したのである。
南極海はペンギンの糞の減少で危機に直面した。2023年、スペインのアンダルシア海洋科学研究所はペンギンの糞が失われ、南極の生態系が危機に陥ったと発表した。ネイチャー・コミュニケーションズに掲載された論文によれば、アデリーペンギンが1980年より半減し、南極海に供給される鉄分量もそれだけ減少した。
クジラとペンギンの糞が減れば、海の温室効果ガス吸収も低下する。植物プランクトンは光合成で二酸化炭素を吸収し、死んで海底に沈んで隔離する。世界の海は毎年、人類が排出した炭素の30%をこのように吸収する。クジラやペンギンの糞が減ればプランクトンが十分に成長できず、炭素吸収も減少するとみられる。昔も今も、糞は海にとって貴重な存在である。
参考資料
Trends in Ecology & Evolution(2026), DOI: https://doi.org/10.1016/j.tree.2026.06.013
Nature Communications(2023), DOI: https://doi.org/10.1038/s41467-023-37132-5
PLoS ONE(2010), DOI: https://doi.org/10.1371/journal.pone.0013255