伴侶犬はfMRI撮影中に幸福、怒り、恐怖、悲しみを示す人間の顔画像を見た。このとき脳活動を計測し、犬が顔に現れた感情を識別する能力を確認した。/オーストリア・ウィーン大学 さらに表示 出典: Laura V. Cuaya

犬は共に暮らす人の感情を理解する動物である。単に機嫌が良いか悪いかを知る程度ではない。否定的感情の種類まで区別する。科学者が人の感情に応じて犬の脳がどう反応するかを初めて確認した。

オーストリアのウィーン大学心理学科のラウル・エルナンデス・ペレス(Raúl Hernández-Pérez)教授の研究チームは「伴侶犬は微笑を脳の特定領域で処理し、否定的な表情も種類ごとに区別することが分かった」と10日(現地時間)、国際学術誌『アイサイエンス』に発表した。

先行研究で犬が人間の表情を見分けられる事実は明らかになっていたが、ほとんどが肯定的か否定的かの表情だけを試験した。犬が多様なタイプの幸福な表情や不幸な表情を識別できるかどうかは明確でなかった。

◇肯定的表情は報酬回路で反応

研究チームは伴侶犬の脳を機能的磁気共鳴画像法(fMRI)で撮影した。脳で特定領域が作動すると、その場所に血液が集まる。fMRIは当該領域をまるで明かりが灯ったように示す。fMRIを用いれば、人の表情に犬が反応することを脳レベルで確認できるという意味である。

犬はfMRI装置の中でさまざまな表情の人の写真を見た。第1の実験では、犬8頭に見知らぬ人が幸福な表情を浮かべる写真と中立的な表情の写真を交互に見せ、脳活動をfMRIで撮影した。幸福な顔を見ると、犬の脳では右側頭葉と尾状核が活性化した。

耳とこめかみ付近の側頭葉は情報を処理し記憶し感情を調節する領域である。大脳の深部にある尾状核は報酬回路と関連している。論文の共同責任著者であるロラ・クアヤ(Laura Cuaya)博士は「この領域が反応することは、犬が肯定的な何かを処理していることを示唆する」と説明した。

第2の実験では、犬12頭に幸福、怒り、恐怖、悲しみを表す人々の写真を見せ、脳全体で起こる反応を人工知能(AI)で分析した。犬の脳は幸福な表情を否定的表情3種と60.9〜69.8%の正確度で区別した。やはり幸福な表情は右側頭葉と尾状核ネットワークで反応した。

英国ノッティンガム・トレント大学のブリジット・ウォラー(Bridget Waller)教授は「微笑は人間が最も頻繁に用いる表情であり社会的相互作用に不可欠であるため、犬が人間に家畜化(馴化)される過程でこれを他の表情と見分ける能力を発達させたという説明は妥当だ」と述べた。

fMRIで確認した犬の人間表情認識。/資料 iScienc、ChatGPT生成画像

◇否定的感情の種類まで区別

驚くべきことに、犬は恐れに満ちた表情と、怒っている表情や悲しい表情を区別することが分かった。脳の特定領域だけを見てはその差を把握できなかったが、AIが全体的な脳活動パターンを分析すると識別された。エルナンデス教授は「異なる否定的表情は異なるタイプの脅威を示すため、異なる反応を誘発し得る」と語った。

研究チームは、恐怖感が人の顔で犬が認識できるほど際立つ表情を作りうる可能性があると推定した。実際、先行研究で犬が恐怖表情と中立表情の顔写真を見る際、鼻部位を集中的に観察することが示された。犬が人間のように恐怖という感情カテゴリを認識したというより、恐れている顔に含まれる視覚・行動シグナルが犬に相対的に注意を引いた可能性がある。

一方で悲しみと怒りは、脳全体の活動では互いに明確に区別されなかった。研究チームは、犬が怒りと悲しみを見分けるには顔だけでは情報が不足したと推定した。先行研究では、犬が人間の感情を判断する際に顔より体をより観察することが示されている。今回のように顔だけを見ては、悲しいのか怒っているのかを見分けにくいということだ。

今回の研究は、犬の脳が単に良い表情と悪い表情だけを区別するのではなく、同じ否定的表情の中でもとりわけ恐怖を怒り・悲しみとは異なって処理する事実を、fMRIとAI機械学習で初めて確認した。ただし標本が少なく、犬種も大半がボーダーコリーであったという限界がある。それでも本研究は実用的な意味を持つ。クアヤ博士は「犬を訓練する際に幸福な表情を作れば、学習過程に役立つ可能性がある」と明らかにした。

参考資料

iScience(2026), DOI: https://doi.org/10.1016/j.isci.2026.116900

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