ダイビング事故で首から下が完全に麻痺していた患者が、脳に移植した電極のおかげで再び手を動かし、家族の手を握り、愛犬の毛を撫でる際の触感まで感じられるようになった。コンピューターが人工知能(AI)で神経信号を解読し、脳と身体の間の仲介役を果たした結果である。とりわけコンピューターの電源を切ってもリハビリ効果が維持され、患者の神経網が一部回復したことが示された。事故で断たれた経路が迂回路でつながったということだ。

米ニューヨーク州の非営利医療機関ノースウェル・ヘルスは「ファインスタイン医学研究所のチャド・ブトン(Chas Bouton)教授の研究チームが、脳-コンピューター・インターフェース(BCI)技術により、脊髄損傷後に全身麻痺状態に陥った患者が再び手を動かし触感を感じられるようにすることに成功した」と17日(現地時間)に発表した。研究結果は同日、国際学術誌『ネイチャー・メディシン』に表紙論文として掲載された。

BCIは脳から出る神経信号を検出し、コンピューターのような外部装置と情報をやり取りさせる技術である。これにより麻痺患者が動かそうとする際に出る運動信号を手足の筋肉に直接伝達し、思考をコンピューターが生成する音声や文字、あるいはロボットの動作にも変換できる。

四肢まひの患者が脳-コンピューター・インターフェース(BCI)技術により手の機能と感覚を取り戻し、卵を割らずに運べた/米ファインハート医学研究所

◇神経バイパスを構築し運動と触覚を回復

48歳男性のキース・トマスは2020年にプールでダイビング中、頸椎を負傷し、その内部を通る脊髄の運動神経と感覚神経が損傷した。患者は首から下が完全に麻痺した。手を持ち上げられず、手に触れる物体の触感を感じることができなかった。研究チームはBCI技術を適用した「二重神経バイパス(double neural bypass)」で運動機能と触覚を復元した。

まず患者の脳表面に微小電極が配列されたチップ5枚を移植した。電極は患者が手を動かそうとする際に脳から出る神経信号を捉えてコンピューターに送った。人工知能(AI)はこの信号を解読し、手と腕に装着したパッチに対応する電気刺激を与えた。脳の運動信号が頸椎の脊髄を飛び越え、手と腕に直接伝達された格好だ。

AIは脳信号から運動意図を84.6%の精度で読み取った。患者はBCIシステムのおかげで再び腕を上に持ち上げ、カップを握り、自力で食事ができた。研究チームは患者の手に力センサー付きの補助装置を装着し、コンピューター信号どおりに指を曲げるよう支援した。一種の人工腱が手の動作を補助したということだ。3年間の臨床試験の結果、右腕と左腕の筋力はそれぞれ86%、62%増加した。

触覚の復元は脳の感覚信号地図を作ることから始めた。患者が手に何らかの物体が触れる状況を想像する際、脳の感覚皮質のどこでどのような信号が出るかを解読した。もし脳に現れたのと同じ信号を感覚皮質に伝達すれば、それに見合う触感を実装できる。

患者の手に物体が触れると、手首に装着した装置のセンサーが圧力を感知する。AIはセンサー信号を解読して電気信号に変換し、脳に移植したチップに伝える。すると脳が指に触れた物体の触感を感知する。脳が送ってきた運動信号と手が感知した触感を比較できるため、物体を移動させる際により精密な動作が可能になった。患者は卵を運ぶ実験で87%の成功率を示した。AIが握る力を1秒間に数十回、微調整した結果である。

脳-脊髄の二重神経バイパスの原理/資料 ネイチャー・メディシン、ChatGPT制作

◇神経網の再構成まで、補助を超えて治療へ

研究チームはBCI装置の電源を切ってもリハビリ効果がある程度維持されるとみていた。これを確かめるため1カ月間、電気刺激を中断する計画だったが、実験室の建物で火災が発生し、3カ月間、電気刺激を中断せざるを得なかった。

驚くべきことに患者はその間も手の力と感覚、機能を維持した。コンピューターとの接続が切れていたにもかかわらず、圧力を加えると患者は手首にしびれるような感覚があったと語った。研究チームは最近の調査結果として、患者の運動と触覚の改善効果が2年以上経った後も依然として維持されていることが示されたと明らかにした。

セルゲイ・スタビスキー(Sergey Stavisky)米デービス・カリフォルニア大学(UCデービス)教授は「システムがオフのときでさえこうした改善効果が持続したのであれば、機能を一時的に回復させる以上の役割を果たしたといえる」と述べ、「神経可塑性によって神経網が自律的に再構成された可能性がある」と語った。

神経可塑性とは、学習や経験、あるいは脳損傷に対応して人体が自ら新たな神経網を形成し既存の結合を再構成する能力を指す。BCIシステムが運動と触覚を補助するにとどまらず、長期的に神経系の回復を促進する治療まで行ったことを意味する。研究チームは、手と腕の筋肉に加え、神経が損傷した脊髄にも継続的に電気刺激を与えたことが神経網の再構成に寄与したと推定した。

미국 파인스타인 의학연구소 과학자들이 뇌에 전극을 이식하는 BCI(뇌-컴퓨터 인터페이스) 기술로 하반신이 마비된 환자의 손 운동과 감각을 되살렸다./미 파인스타인 의학연구소

◇脳卒中患者の治療にも期待

ブトン教授は、今回の結果が世界で約1,500万人の脊髄損傷患者に希望をもたらしたと明らかにした。脊髄損傷患者は半数以上が四肢麻痺の状態にある。予想に反し、麻痺患者は歩行や排便、排尿機能よりも、まず手を使いたいと答えた。

過去にもBCI技術で手足を動かしたりロボットアームを作動させたりした事例はあったが、物を一つつかむだけでも患者は非常に強い集中を要した。これに対し、今回のシステムはAIのおかげで患者の負担を大幅に軽減したと研究チームは述べた。患者が精密な動作をしながら他人と会話できるほど自然な制御が可能になった。

同様の方法で脳卒中患者のリハビリにも寄与できると期待される。脳卒中は世界で25歳以上の成人の4人に1人が罹患する。患者のうち75%は腕と手の運動能力を失い、日常生活が困難になる。

ただし今回の結果は患者1人に基づくもので、商用化には大規模な臨床試験が必要である。専門家がいなくても患者が容易に使えるよう、システムを自動化する取り組みも必要だ。

参考までに、ブトン教授の二重神経バイパスは米タイム誌が2024年の最高の発明品に選定した。昨年、タイム誌が25年間にわたり世界に最大の影響を与えた発明品を選ぶ殿堂にも名を連ねた。

脳にチップを埋め込むBCIシステムがまひ患者の手の運動機能と触覚を回復した研究成果を表紙で紹介したネイチャー・メディシン/Nature

参考資料

Nature Medicine(2026)、DOI: https://doi.org/10.1038/s41591-026-04498-0

Time(2024)、https://time.com/collections/best-inventions-2024/7094710/northwell-health-double-neural-bypass/

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