卵子と出会った精子の走査型電子顕微鏡写真。/David Phillips, Visuals Unlimited

米国の科学者が人の血液細胞から作った幹細胞を精子へと成長させることに成功した。特に精巣細胞とともに成熟させて人体環境により近づけた。まだ精子の前段階の細胞だが、今後は人の精子発達の初期段階を研究し男性不妊の原因を究明するのに活用できると期待される。男性不妊の約40%は原因が明らかになっていない。

ササキ・コタロウ(Kotaro Sasaki)米国ペンシルベニア大学医学部教授の研究チームは「人の血液細胞から作ったヒト人工多能性幹細胞(iPS細胞)を未熟な精子へ分化させ、マウスの腎臓に移植した人工精巣組織で培養した」と2026年6月10日(現地時間)、国際学術誌「セル・ステム・セル」に発表した。

◇人工精巣をマウス腎臓に移植

iPS細胞は皮膚細胞や血液細胞のようにすでに成長した体細胞に特定の遺伝子やタンパク質を導入し、発生初期の胚性幹細胞の状態にしたものだ。精子と卵子が出会った受精卵にある胚性幹細胞は人体のあらゆる細胞と組織へと成長する。

ササキ教授は2015年に日本の京都大学でポスドク研究員として在籍していた際、ヒトiPS細胞を精子と卵子へ分化する初期胚細胞に類似した形態へ変えることに成功した。その後2020年にはペンシルベニア大学で、人の未熟な精子細胞をマウスの精巣細胞と混ぜて培養する方法を考案した。そうすると実際の人体のように精巣細胞が未熟精子を保護し栄養を提供する。しかし精子発達の初期段階を越えることはできなかった。

誘導多能性幹細胞(iPS細胞)で精子を作製。/資料 Cell Stem Cell。ChatGPT生成画像

研究チームは今回、研究を一段と前進させた。iPS細胞から得た精子前段階の細胞を精巣細胞と混ぜ、マウスの腎臓に移植した。すると細胞は自発的に、精巣で精子が生成される部位のように管状構造へと変わった。移植から6カ月後、人の細胞は精母細胞へと発達した。精母細胞は減数分裂を経て尾を持つ精子になる。マカクでも同じ方法で精母細胞を作製した。

今回の研究にもなお限界がある。精母細胞は成熟した精子へ分化できなかった。サルの細胞も同様だった。ササキ教授は、人の精母細胞が種の異なるマウスの腎臓細胞の助けを受けて成長したことが原因だと推定した。精子が成長するには周囲の非生殖細胞はもちろん、離れた他の臓器からのホルモン信号も必要だが、マウス由来だと問題が生じ得るという説明だ。

研究チームは今後、研究を発展させ、iPS細胞で作った人の精母細胞が実質的な精子機能を果たせるかを調べる計画だ。しかし大半の国では幹細胞と卵子、精子を用いた研究を厳格に制限している。ササキ教授はこのような法的規制と倫理的論争を避けるため、同研究をマカクを対象に継続する計画だとした。

日本の京都大学の研究チームは2012年、皮膚細胞から作った誘導多能性幹細胞(iPS細胞)を卵子へ分化させ、精子と受精させて子を誕生させた。こうして生まれた雌はのちに正常に子孫を残した。/カツヒコ・ハヤシ

◇民間企業の精子・卵子研究も活発

iPS細胞で生殖細胞を作る研究は急速に進展した。日本の京都大学の研究チームは2011年に皮膚細胞でiPS細胞を作り、これを精子へと成長させた。2012年には同じ方法で卵子まで作った。精子と受精させて生まれた雌は、その後正常に子孫を産んだ。九州大学の研究チームは2023年、母親なしで父親が子をもうける道も開いた。オスのマウスのiPS細胞を卵子へ分化させ、正常な精子と受精させて子孫まで誕生させた。

ヒトiPS細胞を用いた研究も成果を上げた。京都大学の研究チームは2024年、血液細胞で作ったヒトiPS細胞を精子と卵子の前段階まで分化させた。しかしマウスのように受精と出産までには成功しなかった。今回の研究チームも完全な精子にすることはできなかった。それでも既存研究のように実験容器で育てず、マウスの体内に移植した一種の人工精巣で培養し、生殖細胞の分化と培養研究を一段引き上げたとの評価を受けた。

民間企業も実験室で卵子と精子を生産するために取り組んでいる。先月カリフォルニア州バークレーのバイオ企業コンセプション(Conception)は、幹細胞を用いて実験室で未熟なヒト卵子を培養したと発表した。2026年5月にはユタ州ソルトレークシティのパテルナ・バイオサイエンシズ(Paterna Biosciences)が成熟した精子を培養したと発表した。パテルナはiPS細胞の代わりに精巣から採取した未熟な精子細胞を使用した。

参考資料

Cell Stem Cell(2026)、DOI: https://doi.org/10.1016/j.stem.2026.06.001

Nature(2024)、DOI: https://doi.org/10.1038/s41586-024-07526-6

Nature(2023)、DOI: https://doi.org/10.1038/s41586-023-05834-x

Nature Communications(2020)、DOI: https://doi.org/10.1038/s41467-020-19350-3

Science(2012)、DOI: https://doi.org/10.1126/science.1226889

Cell(2011)、DOI: https://doi.org/10.1016/j.cell.2011.06.052

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