米航空宇宙局(NASA・ナサ)が開発中のX-59ジェット機が初めて超音速飛行に成功した。過去の超音速旅客機コンコルドは音速を突破すると地上に爆発音を引き起こして市場から退場したが、この航空機は超音速飛行でも遠くで車のドアが閉まる程度の音しか出さなかった。X-59が「静かな」コンコルドとして商用化されれば、英国ロンドンから米国ニューヨークまで4時間で飛行し、所要時間が半分に短縮される見通しだ。
ナサは5日(現地時間)午後にカリフォルニア州エドワーズ空軍基地から離陸したX-59が1万3228mまで上昇し時速1147kmに到達したと発表した。その間、操縦席前のモニターには「M 1.0777」という表示が点灯した。Mは音速の倍数であるマッハを意味する。昨年10月の初飛行試験に続き、この日初めて音速まで突破したということだ。
米国はすでに1947年に超音速航空機を開発しており、フランスと英国が開発したコンコルドは1976年に初の商用運航を開始した。しかし音速を突破しても地上に騒音を誘発しない超音速機はX-59が初めてだ。マイケル・クラチオス米大統領府科学技術顧問兼科学技術政策局長はこの日の声明で「X-59の初の超音速飛行は、科学、工学、航空宇宙イノベーションにおける米国の継続的リーダーシップを示す証拠だ」と述べた。
◇6m距離での自動車のドアが閉まる音
音速は海面で毎秒340m、時速では1225kmである。この日X-59が時速1147kmでも音速を突破したとするのは、音速が温度によって異なるためだ。海面は温度が高く、音の伝搬速度が速い。X-59はまもなく実任務条件である高度1万6764mでマッハ1.4、時速1490kmに挑戦する計画だ。
ナサは「この速度と高度は、今後超音速航空機が陸上を飛行する際の基準となる条件だ」とし「X-59の試験データを米国および国際の航空規制当局に提供し、今後、陸上の商用超音速飛行に必要な騒音基準を策定するのに役立てる」と明らかにした。
英国とフランスが開発した超音速旅客機コンコルドは1976年1月に商業飛行を開始し、2003年10月までの27年間にわたり大西洋を駆け巡った末に退役した。コンコルドの最高速度はマッハ2.04だった。しかし超音速飛行は海上でしか許されなかった。米連邦航空局(FAA)が1973年に陸地上空での超音速飛行を禁止したためだ。
都心上空で超音速飛行ができなかったのは、飛行機が音速を突破する際に発生する爆音であるソニックブーム(sonic boom)のためである。飛行機が音速以下で空を飛ぶ様子を見ると、近づく前から音(圧力波)が聞こえる。音が飛行機より速いためだ。飛行機が音速を突破すると、先に生じた音が拡散する前に新たに生じた音がその上に重なり、強い衝撃波が発生する。
ソニックブームの騒音は110デシベル(音の大きさの単位)に達する。騒がしいロックコンサート会場と同程度の水準であり、超音速飛行は人口密集地域の上空で禁止されている。ナサはX-59が頭上を通過する際に発生する騒音は75デシベル水準で、6m離れた場所で自動車のドアが閉まる音より静かだと明らかにした。
◇矢じり形の機首で衝撃波を分散、騒音を低減
X-59の開発はナサの「静かな超音速技術(QueSST, Quiet SuperSonic Technology)」プログラムで進められた。米防衛産業企業ロッキード・マーティンの先端航空機開発部門であるスカンク・ワークス(Skunk Works)が開発を主導した。ロッキード・マーティンが1943年にP-80シューティングスター戦闘機を秘密裏に開発した当時、研究陣が硫黄の悪臭が強いゴム工場の隣の大型テントで勤務したことに由来する名称である。スカンク・ワークスの正式名称は高等開発プログラム(Advanced Development Programs, ADP)である。
X-59の開発にはこれまで2億4750万ドル(約3791億ウォン)が投資された。X-59が音速を突破してもソニックブームが生じないのは独特の設計のおかげだ。まず目を引くのは前方にまっすぐ伸びた機首である。他のジェット機と異なり、機首が30mの機体長の3分の1を占める。衝撃波を圧縮せず分散させるよう、機首を細く長く設計したというわけだ。問題は視界である。操縦席が矢じりのような機体の中に低く配置され、前方が見えない。
ナサとロッキード・マーティンは目で見る代わりに、操縦席の窓に前方を表示する画面を設けた。これに向けて2台のカメラが外部を撮影する。前方のカナード(前翼)にあるカメラは前方の危険を感知するのに用い、機体下部のカメラは着陸に必要な映像を提供する。もちろんカメラが機能不全となる状況では、操縦席の両側にある小窓である程度の視界を確保できる。
X-59は商用化の可能性を高めるため、素材やエンジンを別途開発しなかった。例えばエンジンはスウェーデンの第4.5世代マルチロール戦闘機であるサーブJAS 39グリペンで使われたものだ。代わりに他の超音速ジェット機のようにエンジンを翼の下ではなく上に取り付けた。これもソニックブームの低減に寄与した。エンジンが翼の上にあるため、そこで生じる衝撃波は下の地面側ではなく上方へ向かうためだ。
◇既存旅客機の2倍の速度・高度が目標
ジェラード・アイザックマンナサ局長はX-59が音速を突破した当日、「2025年10月28日のX-59初飛行以降、研究陣は大きな進展を遂げた」とし「最近90日間で16回飛行し、安定的な試験リズムに入った」と述べた。
ナサの最終目標は、X-59で高度1万8288mにおいてマッハ1.6、時速1700kmを記録することだ。これは既存旅客機の2倍の速度と運航高度に相当する。海面基準では時速1960kmとなる。現在ロンドンからニューヨークまでの飛行に約8時間かかるなら、X-59が静かなコンコルドへと発展すれば4時間に短縮できるということだ。
これまで商業運航に投入された超音速飛行機は2機だけだ。1つがコンコルドで、もう1つは旧ソ連が製造したツポレフTu-144である。ソ連の航空設計局ツポレフが製造した世界初の超音速旅客機で、1968年12月31日に初飛行に成功した。しかし安全上の問題により1975年から1978年までの運航にとどまった。
ナサの当初の目標は、X-59を契機に国際民間航空機関(ICAO)と米国FAAが2020年代後半に陸上の超音速飛行を受け入れるようにすることだった。静かなコンコルドが頭上を音より速く飛ぶ日が近づいている。
参考資料
NASA、https://www.nasa.gov/aeronautics/x-59-first-supersonic-flight/
米航空宇宙学会(AIAA)、https://aerospaceamerica.aiaa.org/features/nasas-boom-buster/