猛暑が早く到来し、すでに蚊の活動が活発になっている。山や野へ出かける前に、蚊が嫌う忌避剤を吹きかける人も増えた。手軽な蚊対策だが、使い方を誤るとかえって蚊を引き寄せる恐れがある。蚊が忌避剤のにおいを嗅ぐと、逃げるのではなく吸血対象だと判断してさらに近づくということだ。
米国とフランスの共同研究チームは「パブロフの条件反射実験を通じて、蚊の忌避剤であるジエチルトルアミド(DEET)がむしろ蚊を呼び寄せうることを確認した」と28日、国際学術誌「実験生物学ジャーナル」に発表した。
DEETは1946年に米陸軍が開発した代表的な蚊忌避剤である。当初は蚊の嗅覚を麻痺させ、人の体臭を感知できないようにすると知られていたが、後に蚊がそのにおい自体を嫌って逃げることが判明した。だが今回の実験では、蚊はDEETを吹きかけた研究者の腕をより多く刺した。
◇蚊が忌避剤のにおいを血と結びつける
ロシアの生理学者パブロフは、犬に餌を与えるたびに鐘を鳴らした。やがて犬は鐘の音だけでも唾液を分泌した。研究チームは、蚊でも忌避剤のにおいが条件反射を引き起こすかを確かめるため実験を行った。蚊に温かい動物の血を20秒間吸わせた後、10秒間DEETを噴霧した。この過程を4回繰り返した。
犠牲役となったある研究者は、パブロフ実験を経た蚊が入っている箱の中に両腕を入れた。一方の腕にはDEETを噴霧し、もう一方は通常の状態だった。蚊の60%がDEETを吹きかけた腕に飛来して刺した。パブロフ実験で犬が鐘の音を聞いて餌を期待したように、蚊もDEETのにおいを血と結びつけたのだ。条件反射学習をしていない蚊は、いずれもDEETのにおいがする腕を避けた。
今回の研究は、フランス・トゥール大学昆虫生物学研究所のクラウディオ・ラッザリ(Claudio Lazzari)教授と、弟子であるクレマン・ビノジェール(Clément Vinauger)米国バージニア工科大学生化学科教授が実施した。ビノジェール教授は「今回の研究は、蚊の脳が経験に基づいて化学物質に異なる反応を示しうることを示した」と述べた。
ビノジェール教授は先に、蚊が宿主に関連するにおいを学習し記憶できるという事実を実験で確認した。2023年の国際学術誌「アイサイエンス(iScience)」に発表した論文によると、花や果物の香りがするボディーウォッシュは蚊を誘引し、逆にココナツの香りがするボディーウォッシュは蚊を退ける効果があった。ビノジェール教授は、DEETも状況によってはボディーウォッシュのように蚊を誘引する効果を生む可能性があるとみて研究を進めた。
◇忌避剤はこまめに噴霧すれば逆効果にならない
研究チームは、だからといってDEET成分の忌避剤を使うなということではないとした。今回の実験に用いたヒトスジシマカ(Aedes aegypti、原文はエジプトネッタイシマカ)は、世界で毎年4億人が感染するデング熱ウイルスをはじめ、黄熱ウイルスやチクングニア熱ウイルス、新生児で脳が十分に発達しない小頭症を引き起こすジカウイルスを媒介する。
ビノジェール教授は、このような蚊が多い熱帯地域ではDEETを積極的に使用すべきだとした。その代わり、正しく使う必要がある。DEETは時間がたつと濃度が低下する。この状態で蚊が吸血すると、後に忌避剤のにおいを人を探す手がかりとみなす可能性がある。ビノジェール教授は「DEETは一度に大量に噴霧するより、こまめに噴霧したほうが忌避効果を継続できる」と述べた。
DEETを含有する蚊忌避剤は韓国でも多く使われている。蚊忌避剤の3本に1本の割合でDEETが入っている。だが、DEETが人体に好ましくないとする研究結果が相次ぎ、規制当局は使用年齢や含有量、頻度を制限している。韓国食品医薬品安全処は、DEET10%以下の製品は生後6カ月から、10%超30%以下の製品は12歳以上から使用するよう勧告している。
科学者は既存のDEET蚊忌避剤の問題点を解決するため、副作用の懸念がない天然の蚊退治剤を開発した。ブラジル連邦アマパ大学の研究チームは先月、米国化学会(ACS)が刊行する国際学術誌「ACSオメガ」に、パチョリオイルを含む蚊退治クリームを開発したと発表した。先に米国の科学者は、人の皮膚からやはり蚊を退ける成分を見つけ出した。いずれも蚊の嗅覚を麻痺させ、人の体臭を覆い隠す「透明マント」の役割を果たす。
◇花、皮膚から天然の蚊忌避剤を発見
パチョリはシソ科の多年生ハーブで、東南アジア原産である。パチョリから抽出したオイルは深みのある土のような香りを持ち、香水や化粧品に多用される。ブラジルの研究チームは、パチョリの香りが蚊の嗅覚を圧倒し、人を感知できなくするとの仮説を立てた。
問題は、植物から抽出した油は揮発しやすいという事実である。天然防虫剤の効果が長持ちしないのもこのためだ。研究チームは、パチョリの葉から抽出したオイルを無香の化粧品用クリームと結合し、蚊退治ローションを作った。20〜35歳の健康な男女に12時間は他の化粧品を使わないよう指示し、腕をヒトスジシマカ50匹が入った箱に入れてもらった。
実験の結果、パチョリオイルローションとDEETローションを塗った腕には蚊に刺された痕が全くなかったが、ローションを塗らなかった腕には刺し痕が多かった。既存の天然防虫剤は揮発性物質のため効果がすぐ消えるが、パチョリオイルローションの蚊忌避効果は3時間まで維持された。
米国農務省農業研究局(ARS)のウルリヒ・ベルニア(Ulrich Bernier)博士は2013年、米国化学会の年次学術大会で、人の皮膚にある1-メチルピペラジンのような揮発性物質が、蚊の嗅覚による検知能力を妨げうると発表した。
人の皮膚からは汗と細菌が分泌する物質が混ざったにおいがする。蚊は離れた30mの地点からでもそのにおいを嗅ぎ取れる。特に蚊に刺されにくい人は、皮膚にそのような天然の蚊忌避剤があったということだ。その後、皮膚のにおい成分を蚊忌避剤として開発する研究が多角的に続いたが、現在までDEETのように商用化には至っていない。
参考資料
Journal of Experimental Biology(2026), DOI: https://doi.org/10.1242/jeb.251935
ACS Omega(2026), DOI: https://doi.org/10.1021/acsomega.6c00802
iScience(2023), DOI: https://doi.org/10.1016/j.isci.2023.106667