「ステップが乱れたら、それこそがタンゴだ!」1993年公開の映画『セント・オブ・ウーマン/夢の香り』で、視力を失った退役将校(アル・パチーノ)が、失敗が怖くてタンゴを踊りにくいと語る女性に言った言葉だ。女性は恐れを克服し、将校が導く動きに合わせて見事なダンスを披露する。
前が見えなくても、実力がなくても、心さえ通じ合えば誰もが見事にタンゴを踊れるという言葉が事実であることが明らかになった。米国ボルダーのコロラド大学アトラス(ATLAS)研究所は「2人がタンゴを踊るとき、互いの脳が同期してあたかも一体のように動ける」と4日(現地時間)に発表した。
◇脳波が一致し0.2秒以内に動作が合う
タンゴは19世紀末、アルゼンチンのブエノスアイレスの下層民と移民の哀歓に由来する2分の4拍子の官能的な舞踊である。互いに胸を合わせたまま一人が踊りをリードし、相手がそれに合わせて即興的にダンスを作る。アトラス研究所のルオジア・スン(Ruojia Sun)研究員は、5年前から習ったタンゴが他のダンスと異なり振付がほとんど定まっていない点に魅了されたと述べた。
タンゴを踊る人々は瞬間ごとに即興で動きを作り、手を軽く握ったり上体を動かすなど微妙な信号で相手に次の動作を知らせる。その短い時間で動作が合うことから、2人の脳が同時に作動すると仮定した。研究チームはタンゴダンサー5組が踊る間、足首に装着した動作センサーで歩みを追跡し、頭部に被せた脳波キャップで脳活動を調べた。
脳で神経細胞(ニューロン)が作動すると、波動形の電気信号である脳波が生成される。キャップの脳波センサーは多様な周波数のこの波動を測定する。集中したり深く思考するとベータ波として知られる速いパルスが出て、休息時にはより遅いシータ波が生成される。研究チームは、男女が拍子に合わせて共に動くと、2人の脳活動が驚くほど似通ってくることを発見した。
例えばリードする人が一歩前へ出て、相手が0.2秒以内に一歩後ろへ下がると、2人の脳波はほぼ同時に上昇・下降し一致する傾向を示した。足取りが合わないときは脳波も合わなかった。こうした傾向はベータ波とシータ波を含む多様な脳波で見られた。科学者はこの現象を「脳間結合(interbrain coupling)」または「神経同期(neural synchronization)」と呼ぶ。先に楽器演奏や他の社会的活動でこの現象が見つかっていたが、ダンスでは初めて確認された。
今回の研究はコンピューターサイエンス学科のエレン・イールエン・ド(Ellen Yi-Luen Do)教授と音楽学部のグレース・レスリー(Grace Leslie)が主導した。研究チームは3月にシカゴで開かれた国際学会で研究結果を発表した。実験を主導した博士課程のティアゴ・ホケ(Thiago Roque)研究員は「ダンスをするとき、私たちの脳は実際に互いに接続される」「行動を通じて脳を同期している」と説明した。
◇ギター演奏やスポーツでも脳が同期
神経同期現象は先にギター二重奏で初めて発見された。ドイツのマックス・プランク人間発達研究所のビクトル・ミュラー(Viktor Müller)博士の研究チームは2009年、2人が共にギターを弾くとき、脳波が同一の周波数で互いに噛み合って回る現象を発見した。まるでオーケストラで2人の奏者がメトロノームの速度に合わせて演奏し拍を揃えるのと同じだった。研究チームはこれを「同一周波数結合(Within-Frequency Coupling, WFC)」と呼んだ。
ギター演奏で現れる神経同期はさらに多様だった。マックス・プランク研究チームは2012年に、2人の奏者が正確に同じ音を演奏していないときでも脳波の同期が起こることを確認した。タンゴのように一人がリーダー役を担って演奏を開始したり速度を維持すると、それに合わせる相手と脳波が一致した。
脳波が一致する現象は二重奏にとどまらなかった。マックス・プランク研究チームは2024年、ギター四重奏でも同じ現象を発見した。もはや単に拍を合わせる水準を超え、脳同士がはるかに複雑かつ有機的につながっていることを示した。
とりわけ神経同期では脳波が同じ速度である必要はなかった。四重奏のうち一人の遅い脳波が他者の速い脳波を制御し情報をやり取りする現象である交差周波数結合(Cross-Frequency Coupling, CFC)も現れた。脳波のうち遅い周波数が全体ネットワークを一つに束ねて調律する一種のペースメーカーの役割を果たすということだ。
神経同期現象はダンスや楽器演奏にとどまらず、他の人間活動にも適用できる。マックス・プランク研究チームは「人々がスポーツをしたり互いにコミュニケーションするなど、別の方法で行動を相互に調整するときも、互いの脳波が同期するだろう」と述べた。これを活用すれば社会活動をより積極的に発展させられる。
コロラド大学の研究チームは神経同期を誘導するバイオフィードバック装置を開発した。この装置は脳波が一致すると強く振動した。ひとまず神経同期の瞬間は確認できたが、振動がダンスの動作を妨げた。研究チームは今後、作動方式を逆にして、振動させておき脳波が一致すると音が出ないようにする計画だ。これはスポーツ訓練に活用できる。コロラド大学のホケ研究員は「スポーツでは同僚が何をするかを知る必要がある」「サッカーやサイクリングのような団体スポーツで互いの行動を学び理解するのに役立つ」と述べた。
参考資料
Proceedings of the Twentieth International Conference on Tangible, Embedded, and Embodied Interaction(2026), DOI: https://doi.org/10.1145/3731459.3773332
Frontiers in Human Neuroscience(2024), DOI: https://doi.org/10.3389/fnhum.2024.1416667
Frontiers in Human Neuroscience(2012), DOI: https://doi.org/10.3389/fnhum.2012.00312
BMC Neuroscience(2009), DOI: https://doi.org/10.1186/1471-2202-10-22