病院で治療記録用として残された顔写真が、がん患者の健康変化を読み取る手掛かりになり得るという研究結果が出た。研究チームはまだ検証が必要だが、今後は患者に負担をかけずに治療経過を見守る補助指標として活用される可能性があると説明した。
米国マサチューセッツ総合病院・ブリガムアンドウィメンズ病院の研究チームは、人の顔写真から生物学的年齢を推定するAIツール「フェイスエイジ(FaceAge)」を活用し、がん患者の顔の老化速度が生存可能性と関連していることを明らかにした。研究結果は国際学術誌「ネイチャー・コミュニケーションズ」に28日掲載された。
生物学的年齢は、実際の身体状態と老化程度を反映する概念である。同じ60歳でも、ある人は身体状態がより若く、ある人はより速く老いる。フェイスエイジは顔写真に写るしわ、皮膚状態、顔の輪郭など多様な特徴をディープラーニングで分析し、生物学的年齢を推定する。
先に研究チームは、フェイスエイジを用いて、がん患者は実年齢より平均5歳ほど老けて見える傾向があり、生物学的年齢が高く出た患者ほどがん治療後の生存率が良くない場合が多いと報告していた。
今回の研究で研究チームは、2012年から2023年までブリガムアンドウィメンズ病院で2回以上放射線治療を受けたがん患者2279人の顔写真を分析した。写真は別途の実験用撮影ではなく、放射線治療の過程で診療手続きの一部として撮影したものだった。
治療過程の中で異なる時点に撮影された2枚の写真を比較して顔の老化速度を算出した結果、患者の顔は実際の時間より平均40%速く老いることが分かった。特に顔の老化速度が速い患者ほど生存可能性が低かった。写真撮影の間隔が2年以上のとき、この関連性は一層明確だった。
研究チームは既存指標である「年齢偏差」も併せて分析した。年齢偏差は、ある時点の写真に表れる生物学的年齢が実年齢よりどれだけ多いかを意味する。
分析の結果、年齢偏差と顔の老化速度の値が共に高い患者は予後がより悪い傾向を示した。ただし長期的に予後を予測するには、写真1枚から得た年齢偏差より、時間に伴う変化量を見る顔の老化速度のほうが安定的な情報を提供した。
研究チームは、この技術が血液検査や組織検査のように身体に負担をかけない「非侵襲バイオマーカー」になり得ると説明した。バイオマーカーとは、疾患の状態や治療反応を示す生体シグナルを指す。特に顔写真は病院の診療過程で容易に得られるため、費用負担も低い。
ただし研究チームは「フェイスエイジと顔の老化速度が実際の臨床で広く活用されるには、より多様な人種、年齢、疾患群を対象に追加検証が必要だ」とし、「後続研究を通じ、さまざまながんや慢性疾患、健康状態の評価にも活用できるか検討している」と付け加えた。
参考資料
Nature Communications(2026), DOI: https://doi.org/10.1038/s41467-025-66758-w