絶滅の危機にあるマッコウクジラの出産シーンが初めて捉えられた。貴重な赤ちゃんなだけに、誕生直後に 雌10頭が 水面上へ押し上げて溺死を防ぎ、捕食者から守った。クジラが共同で子育てを行う確かな証拠が得られたということだ。
「クジラ翻訳イニシアチブ(CETI)」の研究チームは「北大西洋カリブ海のドミニカ沖で、マッコウクジラの出産過程と、仲間が生まれたばかりの子を世話する様子を初めて撮影した」と2026年27日、国際学術誌「サイエンス」に明らかにした。
CETIは人工知能(AI)でクジラの鳴き声を解読する国際研究プロジェクトである。知的地球外生命体探査プロジェクトであるSETIの名称を模した。今回の研究はデイビッド・グルーバー(David Gruber)ニューヨーク市立大学教授と、ダニエラ・ラス(Daniela Rus)マサチューセッツ工科大学(MIT)コンピュータ科学・人工知能研究所(CSAIL)所長が率いた。
◇他の家族の雌も出産を支援
研究チームは2023年7月、普段は別々に過ごしていた2家族の雌11頭が水面近くに集まっているのを発見した。ドローンで確認すると、クジラは1頭を中心に集結していた。瞬間的に水面に血が広がった。最初は群れの中央にいた雌が仲間に攻撃されたと考えたが、やがて水面から小さな尾が飛び出した。マッコウクジラの出産シーンを初めて撮影した瞬間だった。
マッコウクジラの出産は34分間進行した。研究チームは出産と直後の共同育児の過程まで確認した。CETIの研究チームはドローンが撮影した映像でクジラごとに識別し、移動方向と役割をAIで分析した。これにより、クジラが生まれたばかりの子を水面へ押し上げて初めて息ができるよう助け、他の捕食者から保護する行動を把握した。
子が生まれるやいなや雌のクジラが周囲に集まり、交代で子を水面上に支えて呼吸できるよう助けた。子は尾ビレが完全に開くまで数時間は浮力を得られない。雌はその間、子が沈んで溺れないよう支えた。出産から18分後にツマジロ(ピグミーキラーホエール)が現れると、マッコウクジラの雌は防御行動も示した。
研究チームは、霊長類ではない動物で仲間が産んだ子を世話する行動が観察されたのは今回が初めてだと述べた。共同通信著者のシェーン・ゲロ(Shane Gero)カナダのカールトン大学兼任教授は「マッコウクジラの社会は雌が率い、知識が世代を超えて雌の間で共有される」とし、「祖母が孫を産む娘を助け、血縁関係のない雌も助ける姿を見るのは本当に興味深い」と語った。
◇クジラの声に込められた意味も解読中
マッコウクジラは体長15m、体重50tに達する大型のクジラである。シャチやイルカのように歯で餌を噛むハクジラ類の中で最大だ。これほど巨体のクジラだが、人間には無力だった。高級香水に使う龍涎香(竜涎香)と鯨油を得ようと無分別に乱獲した結果、マッコウクジラの個体数は急減した。18世紀当時は世界に110万頭以上が生息していたが、商業捕鯨が本格化すると1880年までに29%まで減少したと推定される。
科学者は、出産過程での集団行動と意思疎通を理解すれば、絶滅危惧種であるマッコウクジラを保全する上で重要な情報が得られるとみている。CETIの研究チームはすでにマッコウクジラの鳴き声を解読する研究を進めている。先に2024年、ダニエラ・ラスMIT教授の研究チームは、カリブ海に生息するマッコウクジラの音声を録音しAIで分析して、基底音の役割をする一種のアルファベットを発見したと発表した。
今回の研究チームは、マッコウクジラの鳴き声を解読する本来の研究のために水中音声録音装置も設置した。この日、「ネイチャー」の姉妹誌である「サイエンティフィック・リポーツ」に掲載された論文によると、分娩が始まる時や他のクジラが子を脅かす時に、マッコウクジラの発声様式が目立って変化した。出産過程が終わると、マッコウクジラの発声は平常レベルに戻った。人間と同様に、緊急時のやり取りと平時の会話は異なっていたということだ。
もちろん著者らも認めるように、マッコウクジラの出産過程を観察したのは今回が初めてで、一般化するには不足があるという限界がある。しかし科学者は、以前はクジラのように海に生息する動物には接近自体が難しかったが、今ではドローンや水中マイク、AIといった先端技術が導入され、研究がより速いペースで進展すると見ている。研究チームはクジラの発声情報と出産映像を対照し、具体的にどのような音が特定の行動と関連しているのかを把握する計画だと明らかにした。
参考資料
Science(2026), DOI: https://doi.org/10.1126/science.ady9280
Scientific Reports(2026), DOI: https://doi.org/10.1038/s41598-025-27438-3
Nature Communications(2024), DOI: https://doi.org/10.1038/s41467-024-47221-8