マッコウクジラの頭突きが初めてカメラに捉えられた。19世紀に捕鯨船を沈没させたと小説にまで描かれた恐怖の頭突きが、船員の誇張ではなくクジラの自然な行動であることが確認されたということだ。なぜクジラが互いに頭突きをするのか、その理由はまだ分からない。科学者は追加研究を通じて、社会的結束を強める遊びの一種なのか、あるいはオス同士の激しい序列競争なのかを明らかにする計画だ。
英国セントアンドルーズ大学のアレク・バースレム(Alec Burslem)博士の研究チームは「2000年から2002年の間、北大西洋のアソーレス諸島とバレアレス諸島でマッコウクジラが互いに頭をぶつけ合う様子をドローンで撮影した」と、23日付の国際学術誌「海洋哺乳類科学(Marine Mammal Science)」に発表した。マッコウクジラの頭突きが科学的に確認されたのは今回が初めてである。
◇捕鯨船を沈めたヘディング、初の目撃
マッコウクジラは全長15m、体重50tに達する大型のクジラである。シャチやハンドウイルカのように歯で獲物を噛むハクジラ類の中で最大だ。脳容量もクジラの中で断然1位である。マッコウクジラは19世紀から船舶に体当たりして沈没させる恐怖の対象として知られた。米国の作家ハーマン・メルヴィルが1851年に発表した小説「白鯨(モビー・ディック)」の主人公がまさにマッコウクジラである。
セントアンドルーズ大学の研究チームは、ポルトガルのアソーレス大学、スペインのクジラ研究所であるアソシアシオン・トゥルシオプス(Association Tursiops)とともに北大西洋でドローンを飛ばし、マッコウクジラを追跡した。3年の研究の末、マッコウクジラ同士が体当たりする事例を3件捉えた。2件は若いオスと推定される個体間の衝突とみられ、1回はオスが頭でメスの胴体に体当たりした事例だった。
衝撃量はオスがメスを攻撃した事例が200キロニュートンで最も大きかった。メスの体の中心線が目に見えて押しやられるほどだった。ニュートンは1kgの質量を毎秒1mの加速度で加速させる力である。1.5tの自動車が時速100kmで壁に衝突する際の衝撃量が41キロニュートンだとすれば、マッコウクジラのヘディングがどれほど大きな衝撃を与えたか推察できる。船でも沈めかねない力である。
実際、全長27mのバーク型捕鯨船である米国のエセックス号は1820年11月20日、南太平洋でマッコウクジラの攻撃を受け沈没した。白鯨のモチーフになった事件である。当時の一等航海士が残した記録によれば、マッコウクジラは500mの距離から通常の2倍の速度で突進し、船に体当たりした。マッコウクジラが船を沈没させた事例はエセックス号以外にも複数ある。
研究チームはマッコウクジラがなぜ頭突きをするのか明確には解明できなかった。仮説は二つである。一つはオス同士の競争だ。実際に今回頭突きを行ったクジラの大半はオスだった。しかしクジラのヘディングは進化上有利だった可能性が低い。クジラは頭部から超音波を発生させて位置を把握し、仲間と意思疎通を行うためである。
もう一つの可能性は、クジラが頭突きを遊びとして行うというものだ。若いクジラが成長して経験する競争や求愛、性的行動を練習し準備する過程である可能性がある。これは他の哺乳類でもよく見られる行動である。
実際に若いオスが頭突きをする際に生殖器を露出する様子も観察され、性的な文脈との関連性がある可能性がある。研究チームは、マッコウクジラがなぜ頭突きをするのかを理解するには今後より多くの観察が必要だと明らかにした。幸い、過去と異なりドローンという新技術が登場し、今後より多くの観測事例が得られると期待される。
◇立ったまま眠る謎めいた存在
マッコウクジラはアンバーグリス(龍涎香)と鯨油を得ようと無分別に乱獲された結果、個体数が急減した絶滅危惧種である。龍涎香はマッコウクジラの腸内分泌物が凝集して排出されたもので、最高級香水の香りの定着剤として用いられた。マッコウクジラは18世紀には世界に110万頭以上が生息していたが、商業捕鯨が本格化し、1880年までに29%まで減少したと推定される。
マッコウクジラを守るには、まずどのような存在かを知る必要がある。しかし巨大な体にもかかわらず、いまだに分からない点が多い。水中で頭を上にして直立したまま眠る行動が代表的な例である。クジラやイルカは眠るときにも片方の脳は覚醒していることが知られている。天敵が近づくかもしれず熟睡できないということだ。常に片方の目を開け、泳ぎも呼吸も行う。しかしマッコウクジラは脳全体が完全な休息状態に入り、いかなる動きも示さなかった。
英国セントアンドルーズ大学のパトリック・ミラー(Patrick Miller)教授の研究チームは2008年、国際学術誌「カレント・バイオロジー(Current Biology)」にマッコウクジラが立ったまま眠るという事実を初めて発表した。観察の結果、マッコウクジラは水面から垂直に潜行した後、進行方向を180度変え、頭を上にしたまま全身の力を抜いて浮上しながら眠りに落ちた。
立ったまま眠る時間は非常に短かった。睡眠時間を測ると、全体のうちわずか7.1%にとどまった。短いと6分、長くても24分だった。これは睡眠時間の比率が32%のシロイルカや42%のコククジラに比べれば著しく短い時間である。研究チームは、脳全体が完全な熟睡に入ることで短時間でも英気を回復できると推定した。
参考資料
Marine Mammal Science(2026), DOI: https://doi.org/10.1111/mms.70153
Current Biology(2008), DOI: https://doi.org/10.1016/j.cub.2007.11.003