衣類に噴霧する自己洗浄コーティング剤が開発された。洗剤を使わず水ですすぐだけで汚れが落ち、洗濯に要する水とエネルギーが80%以上削減される。/中国吉林大学、東南大学

白いシャツにしょうゆやケチャップ、エンジンオイルが付着しても、水ですすぐだけで清潔になる。布地に汚れを防ぐ自己洗浄機能のコーティングがあるためだ。洗濯時間が短くなり、水と電気の使用量が大きく減る。商用化されれば資源節約はもちろん、洗濯過程で出るマイクロプラスチック汚染も大きく減ると期待される。

ワン・ダヤン(Dayang Wang)中国吉林大学化学科教授の研究チームは「水だけで衣類を洗濯できるスプレー型の繊維コーティング剤を開発した」と20日、ネイチャー姉妹誌「コミュニケーションズ・ケミストリー」に発表した。汚れを防ぐコーティング剤は天然繊維と合成繊維の双方に塗布でき、洗濯過程での水とエネルギーの消費量を80%以上減らせると研究チームは明らかにした。

◇高分子層が油汚れを押し出す

研究チームは2種類の高分子物質で布地に一種の保護膜を作った。陽(+)電荷を帯びるポリダドマック(PDADMAC)と陰(-)電荷のポリビニルスルホン酸(PVSA)をスプレー形態で交互に噴霧すると互いに引き合い、堅固な高分子層が形成される。

布地に形成された高分子層は水素と酸素原子1個で構成される水酸基(-OH)の密度が高く、水と非常に親和的だ。汚れた布地をすすぐと、直ちに高分子層の水酸基が水と強力な水素結合を成す。すると繊維表面と油汚れの間に薄い水膜ができる。油汚れが繊維の中に染み込めず水に浮いた状態になると、水で軽くすすぐだけでも衣類が清潔になる。

自己洗浄コーティングを施した衣類(赤色)は素材を問わず水ですすぐだけで、しょうゆやエンジンオイル、サンショウ油、ケチャップ、酢による汚れがきれいに消えた。/Communications Chemistry

研究チームは綿とシルク、ポリエステルの3種類の素材の衣類で実験したところ、しょうゆやエンジンオイル、サンショウ油、酢、ケチャップなど多様な汚れを除去するのに、既存の洗濯法と同等かそれ以上の性能を示したと述べた。一般的な綿織物は水ですすぐだけでは油汚れが大半残るが、自己洗浄コーティングが施されると90%以上の洗浄効率を示したと研究チームは明らかにした。

一般的な洗濯機は水と洗剤を入れて衣類をこすり洗いし、数回水ですすいだ後に脱水する方式で洗濯する。自己洗浄コーティングが施された衣類は洗剤なしで水だけで簡単にすすぐだけで洗濯が終わる。その分、水と電気が少なくて済み、洗濯時間も短くなる。研究チームは、洗濯1回とすすぎ4回の一般的な洗濯機と比べ、衣類を1回洗うたびに水と電気、時間の消費量を80%以上減らせると推定した。

◇経済性は十分、環境にも寄与しそうだ

研究チームは自己洗浄コーティングが人体や環境に影響を与えるかどうかを調べる実験も行った。ササゲをそれぞれ衣類をすすいだ水と一般の水道水で育てたところ、植物の成長に差はなかった。マウス皮膚細胞に自己洗浄コーティングを試した際も問題はなかった。自己洗浄コーティングは地下水や湧水のようにミネラルが多い硬水でも水道水と同様の洗濯効果を示した。一般的な洗剤は硬水では泡立ちが悪くなり洗濯効果が大きく低下する。

もちろん布地に汚染を防ぐ高分子層をコーティングするには追加費用が発生する。だが研究チームは洗剤の種類によって15〜50回洗濯すれば初期コーティング費用が相殺されると試算した。1人が1年に少なくとも100回以上洗濯するという点から、自己洗浄コーティングの経済性は十分だといえる。研究チームは自己洗浄コーティングは100回以上洗濯しても損傷しなかったと明らかにした。

地下水や湧水のようにミネラルが多い硬水は洗剤を使っても泡立ちにくく洗濯が難しい。だが自己洗浄コーティングを施した衣類は硬水ですすぐだけでも汚れがきれいに消えた。/Communications Chemistry

環境保護効果まで考えると、すぐに利益を得られる。洗剤で油汚れを分離する成分である界面活性剤は水質汚染の主因だ。界面活性剤は自然で分解されにくい。河川に流入すると泡の膜を作り、日光と酸素を遮断する。洗剤なしで水だけで洗濯すれば、そのような問題を防げる。生活排水の処理過程も簡素化される。とくに水で簡単にすすいで洗濯すると、合成繊維から出るマイクロプラスチック量も大きく減ると研究チームは説明した。

◇ハスの葉を模倣した自己洗浄布地も

自然界にも汚れが付かないことで有名な存在がある。まさにハスだ。汚れた泥の中で生きるが、葉はちり一つなく清潔だ。1997年、ドイツのボン大学の植物学者であるヴィルヘルム・バルトロット(Wilhelm Barthlott)教授は、ハスの葉にある微細な突起のために水滴が染み込めず、そのまま転がり落ちるという事実を明らかにした。この過程で表面のほこりまできれいに洗い流される。

ハスの葉にある微細突起の表面には水をはじくワックス層がある。突起の間には空気層があり、他の物質が入り込まないよう遮断する。おかげで汚染物質が混じった水滴は突起の間に入れず、先端にぶら下がったまま、少し動いただけでも落ちる。科学者はこれを「ロータス効果(Lotus effect)」と呼ぶ。

スイスの繊維企業ショーラー・テキスタイル(Schoeller Textil)社は2001年、ハスの葉を模倣して織物の表面に微細な凹凸構造を作ったナノスフィア(NanoSpher)技術を開発した。複数のスポーツ衣料企業がこの技術で作った防水、防汚製品を販売している。ハスの葉のように、衣類に飲料やケチャップがこぼれても、汚れが付く前に表面に沿って滑り落ちる。

ハスの葉は水滴が染み込まず表面を転がり落ちる。このとき汚染物質も一緒に洗い流される。表面に微細な突起があるためだ。/ウィキメディア・コモンズ

油にはロータス効果が効かない。ハスの葉表面の突起の表面が油と親和性のあるワックス層で覆われているためだ。ガレス・マッキンリー(Gareth McKinley)マサチューセッツ工科大学(MIT)機械工学科教授の研究チームは、油も染み込めない微細突起構造を2008年「米国科学アカデミー紀要(PNAS)」に発表した。研究チームは微細突起の間に空気層を維持する最適な間隔を計算した。ハスの葉より突起の隙間を狭めると、高い位置から油を落としても染み込まず、水滴のように落下した。

ハスの葉の微細突起構造は衝撃にも弱い。豪雨が降ると自己洗浄機能が損なわれる。ハーバード大学ワイス(Wyss)生体模倣研究所は、ねばねばした分泌物で昆虫を内側に滑り落とさせるウツボカズラから解を見いだした。

研究チームは2014年、「ナノテクノロジー」に「滑らかな液体が注入された多孔性表面」を意味する英語の略語であるSLIPSコーティング技術を適用した繊維を発表した。潤滑液を突起表面に塗り、汚染物質が滑り落ちるようにした。当時ワイス研究所にいたキム・ピルソク博士(現SKイノベーション最高技術責任者兼環境科学技術院長)も論文に共著者として参加した。

自己洗浄衣類は高価だ。繊維表面に微細構造を作るのに費用がかかるためだ。まだ高性能スポーツウエアやアウトドア用品といったニッチ市場でのみ販売されている。しかし衣類から出るマイクロプラスチックが深刻な環境問題として浮上し、自己洗浄技術への関心がさらに高まっている。まもなくハスの葉やウツボカズラが衣類広告にたびたび登場するかもしれない。

参考資料

Communications Chemistry(2026)、DOI: https://doi.org/10.1038/s42004-026-01942-7

Nanotechnology(2014)、DOI: https://doi.org/10.1088/0957-4484/25/1/014019

PNAS(2008)、DOI: https://doi.org/10.1073/pnas.0804872105

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