白いシャツにしょうゆやケチャップ、エンジンオイルが付着しても水ですすぐだけで清潔になる。布地に汚れを防ぐ自己洗浄機能のコーティングがあるためだ。洗濯時間が短くなり、水と電気の使用量が大きく減る。商用化すれば資源節約はもちろん、洗濯過程で発生するマイクロプラスチック汚染も大幅に減少する見通しだ。
ワン・ダヤン(Dayang Wang)中国吉林大学化学科教授の研究チームは「水だけで衣類を洗えるスプレー型の繊維コーティング剤を開発した」と19日、ネイチャーの姉妹誌である「コミュニケーションズ・ケミストリー」に発表した。汚れを防ぐコーティング剤は天然繊維と合成繊維のいずれにも塗布でき、洗濯過程での水とエネルギー消費量を80%以上削減できると研究チームは明らかにした。
◇高分子層が油汚れをはじく
研究チームは2種類の高分子物質で布地に一種の保護膜を作った。陽(+)電荷を帯びるポリダドマック(PDADMAC)と陰(-)電荷のポリビニルスルホン酸(PVSA)をスプレー形態で交互に吹き付けると、相互に引き合って堅固な高分子層が形成される。
布地に形成された高分子層は水素と酸素原子1個で構成されるヒドロキシ基(-OH)の密度が高く、水と非常に親和的だ。汚れた衣類をすすぐと直ちに高分子層のヒドロキシ基が水と強力な水素結合を成す。すると繊維表面と油汚れの間に薄い水膜が形成される。油汚れが繊維内部に染み込めず水に浮いた状態になれば、水ですすぐだけでも衣類がきれいになる。
研究チームは綿とシルク、ポリエステルの3種類の素材の衣類で実験したところ、しょうゆやエンジンオイル、サンショウ油、酢、ケチャップなど多様な汚れを除去する際に従来の洗濯法と同等かそれ以上の性能を示したと述べた。一般的な綿織物は水だけですすぐと油汚れが大半残るが、自己洗浄コーティングを施すと90%以上の洗浄効率を示したと研究チームは明らかにした。
一般的な洗濯機は水と洗剤を入れて衣類をこすり洗いし、複数回のすすぎの後に脱水する方式で洗濯する。自己洗浄コーティングを施した衣類は洗剤なしで水だけで簡単にすすげば洗濯が完了する。その分水と電気の使用が少なく、洗濯時間も短くなる。研究チームは洗濯1回とすすぎ4回の一般的な洗濯機と比較した場合、衣類を1回洗うたびに水と電気、時間の消費量を80%以上削減できると推定した。
◇経済性は十分、環境にも寄与へ
研究チームは自己洗浄コーティングが人体や環境に影響を及ぼすかを調べる実験も行った。ササゲをそれぞれ衣類をすすいだ水と通常の水道水で育てたところ、植物の成長に差はなかった。マウスの皮膚細胞に自己洗浄コーティングを試験した際も問題はなかった。自己洗浄コーティングは地下水や湧水のようにミネラルが多い硬水でも水道水と同様の洗濯効果を示した。一般的な洗剤は硬水で泡立ちが悪くなり、洗濯効果が大幅に低下する。
もちろん布地に汚染を防ぐ高分子層をコーティングするには追加費用が発生する。しかし研究チームは洗剤の種類によって15〜50回洗濯すれば初期コーティング費用が相殺されると試算した。1人が1年に少なくとも100回以上洗濯するという点から、自己洗浄コーティングの経済性は十分だといえる。研究チームは自己洗浄コーティングは100回以上洗濯しても損傷しなかったと明らかにした。
環境保護効果まで考慮すれば直ちに利益が得られる。洗剤で油汚れを分離する成分である界面活性剤は水質汚濁の主因だ。界面活性剤は自然で分解されにくい。河川に流入すると泡の膜を作り、日光と酸素を遮断する。洗剤なしで水だけで洗濯すれば、そのような問題を防げる。生活排水の処理過程も簡素化される。特に水で簡単にすすいで洗濯すれば、合成繊維から出るマイクロプラスチック量も大幅に減ると研究チームは説明した。
◇ハスの葉を模した自己洗浄布地も
自然界にも汚れが付かないことで有名な存在がある。ハスである。汚れた泥の中で生きるが、葉は塵一つなく清潔だ。1997年、ドイツのボン大学の植物学者ヴィルヘルム・バルトロット(Wilhelm Barthlott)教授は、ハスの葉にある微細な突起のために水滴が染み込めず、ただ転がり落ちる事実を明らかにした。この過程で表面のほこりまできれいに洗い流される。
ハスの葉にある微細突起の表面には水をはじくワックス層がある。突起の間には空気層があり、他の物質の侵入を防ぐ。これにより汚染物質を含む水滴は突起の間に入れず、先端にぶら下がったままになり、少し動くだけで落ちる。科学者たちはこれを「ロータス効果(Lotus effect)」と呼ぶ。
スイスの繊維メーカーであるシェラー・テキスタイル(Schoeller Textil)社は2001年、ハスの葉を模して織物の表面に微細な凹凸構造を作るナノスフィア(NanoSpher)技術を開発した。複数のスポーツアパレル企業がこの技術で作った防水、防汚製品を販売している。ハスの葉のように、衣類に飲料やケチャップがこぼれても、汚れがつく前に表面を伝って滑り落ちる。
油はロータス効果が効かない。ハスの葉表面の突起表面が油と親和性のあるワックス層で覆われているためだ。ガレス・マッキンリー(Gareth McKinley)マサチューセッツ工科大学(MIT)機械工学科教授の研究チームは、油も染み込めない微細突起構造を2008年「米国科学アカデミー紀要(PNAS)」に発表した。研究チームは微細突起の間に空気層を維持する最適な間隔を計算した。ハスの葉より突起のすき間を狭めると、高い位置から油を落としても染み込まず、水滴のように落下した。
ハスの葉の微細突起構造は衝撃にも弱い。豪雨が降ると自己洗浄機能が損なわれる。ハーバード大学ウィス(Wyss)生体模倣研究所は、粘着性の分泌物で昆虫を内側へ滑り落とすウツボカズラから解を見いだした。研究チームは2014年「ナノテクノロジー」に、「滑りやすい液体が注入された多孔質表面」を意味する略称であるSLIPSコーティング技術を適用した織物を発表した。潤滑液を突起表面に塗り、汚染物質を滑り落ちさせる手法だ。当時ウィス研究所に在籍していたキム・ピルソク博士(現SKイノベーション最高技術責任者兼環境科学技術院長)も論文に共著者として参加した。
自己洗浄衣類は高価だ。織物表面に微細構造を作るのに費用がかかるためだ。まだ高性能スポーツウェアやアウトドア用品といったニッチ市場でのみ販売されている。しかし衣類から出るマイクロプラスチックが深刻な環境問題として浮上し、自己洗浄技術への関心が一段と高まっている。近くハスの葉やウツボカズラが衣料品広告に頻繁に登場するかもしれない。
参考資料
Communications Chemistry(2026), DOI: https://doi.org/10.1038/s42004-026-01942-7
Nanotechnology(2014), DOI: https://doi.org/10.1088/0957-4484/25/1/014019
PNAS(2008), DOI: https://doi.org/10.1073/pnas.0804872105