宇宙探査が地球で黄金の卵を産むガチョウになっている。人類が半世紀ぶりに有人の月探査を再開しながら開発した新技術は、宇宙飛行士が月に到着する前からすでに地球で商用化されている。宇宙基地を建てる建築技術が地球に住宅団地を生み、宇宙飛行士を助けるために開発したヒューマノイド(人型ロボット)は自動車工場に先に就職した。
米航空宇宙局(NASA・ナサ)は先月26日(現地時間)に地球で商用化された宇宙技術を紹介する「スピンオフ2026」報告書を発表した。ナサは1976年から宇宙技術の商業的活用を記録した報告書を刊行してきた。これまでに商用化された宇宙技術は2400件を超える。「米国の新製品は世界最大の発明家集団であるナサから出る」という言葉があるほどだ。
◇月・火星基地を築く3Dプリンティング、地球で商用化
米国は1972年のアポロ17号以来中断された有人月探査をアルテミス計画で再開した。アルテミス2号は初めて宇宙飛行士4人を乗せて3月に月軌道試験飛行を実施する。先立つ2022年のアルテミス1号任務は、マネキンを乗せたOrion宇宙船が月軌道を回る無人試験飛行として進められた。
アルテミス計画の成果はすでに地球に現れている。ナサはスピンオフ2026報告書で月基地建築技術の商用化事例を紹介した。マーシャル宇宙飛行センターの3D(立体)プリンティング住居設計コンペで優勝したブランチ・テクノロジー(Branch Technology)は、月の土壌と宇宙船のプラスチック廃棄物を混ぜた素材で模型の月居住地を作ったが、すでにこの技術が地球で壁パネルの製造に活用されている。
過去のアポロ計画は一回性の月探査として進められたが、アルテミスは月軌道にルナ・ゲートウェイという宇宙ステーションを建設し、月面の有人宇宙基地建設も推進している。長期的には火星のような深宇宙探査の前進基地とする計画だ。月探査のために開発した技術は火星にも使える。
月基地だけでなく火星有人基地の技術もすでに商用化された。アイコン(ICON)はナサ・ジョンソン宇宙センターで火星居住地の模型を3Dプリンティングした後、この技術で本社があるテキサス州オースティン郊外に100戸規模の住宅団地を建設した。コンクリートをインクのように吐出し積み上げて家を建てる技術である。
◇月探査ヒューマノイド、自動車工場に就職
ナサは月基地でロボットが日常的な保守や単純作業を処理して宇宙飛行士を補助すると明らかにした。スピンオフ2026で紹介されたアップトロニック(Apptronik)は、ジョンソン宇宙センターとともに月基地で働くヒューマノイド「アポロ」を開発した。
アポロは身長173cm、体重72kgで成人と近い。これにより人が働く既存の工場で働くのに適している。メルセデス・ベンツは2024年にドイツとハンガリーの自動車工場でアポロロボットを試験すると発表した。世界的な物流企業であるGXOロジスティクスもアポロを導入した。
ナサはスピンオフ2026で宇宙飛行士の健康を守るために開発された医療技術が地球で商用化された事例も紹介した。バーチャル・インシジョン(Virtual Incision)がジョンソン宇宙センターの支援を受けて開発した小型遠隔手術ロボットが代表的な事例だ。
この会社はネブラスカ大学の機械工学科教授と医学部教授が共同創業した。2人の教授は2024年に地球から国際宇宙ステーション(ISS)にあるロボットを遠隔操縦し、小腸の代わりのゴムバンドを切断する手術デモに成功した。遠隔手術ロボットは同年に小腸切除用として承認を受けた。
先月ISSに向かった宇宙飛行士がチームメンバー1人の健康問題で任務を中断し地球へ帰還する事態が発生した。ISSで宇宙飛行士の長期滞在が始まった2000年以降で初めてのことだった。ISSは地球上空400kmにあり、緊急患者が発生すればすぐ帰還させられるが、月は地球から38万5000kmも離れており不可能だ。遠隔手術ロボットはこの問題を解決できる。
ナサ・グレン研究センターのエンジニアは宇宙飛行士の体に移植する心臓センサーと携帯型読取装置を開発した。エンドトロニクス(Endotronix)がこの技術を移転され、心不全患者向けの医療機器に開発した。ワンドロップ・ダイアグノスティクス(1Drop Diagnostics)が開発した携帯型血液検査装置は、ISSで超小型の実験室を作るために開発した技術を発展させたものだ。カロゴン(Kalogon)は宇宙服の技術で血栓と深部静脈血栓症の予防に役立つ車椅子用シートを開発した。
◇生活に入り込んだ月探査技術
ジャレッド・アイザックマンナサ局長は先月のスピンオフ2026発表に合わせて「月に長期居住する計画を推進し火星探査を準備しながら開発した革新技術は、元来の任務を超えて地球に持続的な便益を提供する」と述べた。
宇宙技術が地球にも寄与するという事実は、すでに半世紀前のアポロ月探査が立証した。月へ向かうアポロ宇宙飛行士の食品安全を保証するためにナサが作った手続きは、世界の食品生産を規律する安全手順と規定の基礎になった。すなわちハサップ(HACCP・食品安全管理認証基準)である。
1960年代にナサはアポロ宇宙船のためにタバコ箱サイズの軽量浄水器を開発した。塩素の代わりに銀イオンを放出して細菌を破壊する方式だ。この浄水システムは現在プール、噴水、スパ、冷却塔などに活用されている。月の土壌を採取する際に使った無線式掘削装置は家庭用のコードレスドリルを生んだ。今日マットレスに使われるメモリーフォームは1970年代にナサが開発した座席用の圧力吸収材に由来する。
宇宙技術は極限環境で宇宙飛行士を保護するために開発された。その分だけ地球の災害現場でも人気がある。アポロ着陸船を覆った断熱材は体温を維持するために使う銀箔の非常用毛布に用いられている。その伝統はアルテミスに受け継がれた。
ルナ・アウトポスト(Lunar Outpost)はアルテミス宇宙飛行士のために月の大気中にある微細なほこりを感知するセンサー「スペース・カナリア」を開発した。地球の土ぼこりは大気の摩擦で丸くなるが、月には大気がなく四方が尖っている。この状態で宇宙飛行士が吸い込めば肺に深刻な損傷を与えかねない。
カナリアセンサーは現在、山火事現場や石油・ガス施設、都市から出る汚染物質を感知している。米国森林局はカナリアセンサーを山火事の消火現場に投入した。過去に鉱夫が呼吸器の弱いカナリアを通じてメタンや一酸化炭素のような有害ガスを先に感知したように、カナリアセンサーが致命的な月のほこりと地球の汚染物質を先に捕捉する。金も稼ぎ命も救う貴重な技術である。
参考資料
NASA(2026)、https://technology.nasa.gov/blog-NASA-Spinoff-2026