メディトックスと大熊製薬のボトックス(ボツリヌム毒素)訴訟の控訴審に参加する弁護士が50人を超えることが分かった。両社はボツリヌム毒素の原料となる菌株と生産工程をめぐり8年間争っている。
ボツリヌム毒素はボツリヌス菌から毒性タンパク質を抽出したものだ。皮膚に注入すると筋肉が麻痺して小じわが一時的に伸びる。製薬業界では「マンモス級の弁護士規模だ」としながら、「KポップやKドラマにより海外でK美容への関心が高まるなか、ボトックス訴訟に注力しているようだ」という見方が出ている。
30日、製薬業界と法曹界によると、ソウル高裁民事5-3部は18日にメディトックスと大熊製薬の営業秘密侵害禁止請求訴訟の弁論期日を開いた。本件控訴審は2024年5月からこれまで6回の弁論準備期日と5回の弁論期日を進めた。準備期日は本格的な弁論を始める前に争点を整理し、今後の裁判進行を調整する手続きだ。2026年2月末にも裁判が予定された。
メディトックスと大熊製薬は、ボツリヌム毒素のメディトキシン(2006年発売)とナボタ(2014年)を保有している。メディトックスは本件で大熊製薬が自社のボツリヌム毒素の菌株と工程を持ち出したと主張する。大熊製薬はボツリヌム毒素を独自開発した立場だ。メディトックスの製造工程技術は数十年前の論文で公開されており、営業秘密とみなせないという考えである。
メディトックスと大熊製薬のボトックス民事訴訟は2017年10月にさかのぼる。当時メディトックスが大熊製薬を相手に訴訟を提起し、1審は6年ぶりに原告一部勝訴の判決を下した。ソウル中央地裁民事合議61部は2023年2月、「大熊製薬はメディトックスに400億ウォンを支払うべきだ」とした。裁判部は「被告(大熊製薬)が原告(メディトックス)の営業秘密情報を取得して開発期間を短縮したように見える」とし、「原告と被告の菌株に相互に蓋然性があると判断した」と述べた。大熊製薬が控訴し、事件は2審に移った。
控訴審に参加する弁護士は計51人だ。メディトックス側は法務法人(有限)和友、元などを含め24人である。大熊製薬側は太平洋、バルン、律村など27人だ。先の1審の弁護人37人(メディトックス側25人・大熊製薬側12人)より14人増えた。メディトックス関係者は「1審と同じ立場だ」と述べた。大熊製薬は1審が誤判したという立場だ。
メディトックスと大熊製薬は国内だけでなく米国でもボトックスをめぐる紛争があった。米国際貿易委員会(ITC)はメディトックスと大熊製薬の営業秘密侵害訴訟で、ナボタの米国輸入を21カ月禁じるとの結論を2020年12月に発表した。しかしメディトックスが大熊製薬の米国パートナー企業と和解し、ITC紛争は一段落した。
ボトックスの歴史は1970年代に始まった。当時、米国の眼科医アラン・スコット医師は眼球筋の緊張で発生する斜視を治療するためにボトックスを使用した。ボトックスは1980年代に眼瞼けいれん、小児脳性まひの治療薬として用いられた。韓国では1995年に斜視と眼瞼けいれんの治療薬として食品医薬品安全庁の承認を受けた。小児脳性まひ(1999年)、眉間のしわと多汗症・脳卒中関連の筋肉硬直の治療薬(2008年)としても許可を受けた。
ボトックスは海外で大きな注目を集めた。ジョー・バイデン米国前大統領は2000年代後半に額に黒い斑点が生じ、海外メディアがボトックスの副作用だと報じた。バイデン前大統領側はこの事実を否定し、黒い斑点については説明しなかった。英国を代表するサッカー選手デービッド・ベッカムは2007年にボトックスを受けたとの海外報道が出たが、その後これを否定した。
ボトックスは製薬会社で売上を押し上げる役割を果たしている。大熊製薬は2025年3四半期累計売上が1兆1,352億ウォンだ。このうちナボタの売上が1,710億ウォンで全体の17%水準である。メディトックスは3四半期、メディトキシンなどボトックスとフィラーの累計売上が1,631億ウォンだ。全体売上の87%を占める。
ボトックスはしわを伸ばし、えらの改善などの用途で中高年層だけでなく若年層まで需要が増えている。製薬業界の関係者は「Kボトックスが中南米、中東など海外市場に積極的に進出した」とし、「売上の稼ぎ頭であるボトックスをめぐる訴訟の結果に注目していると解釈できる」と述べた。