ヨンセ大学物理学科のイ・ヨンジン教授の研究チームがLGディスプレイと共同で、大型有機発光ダイオード(OLED)テレビの量産に広く用いられる中核素材「マグネシウムフルオライド(フッ化マグネシウム)」が実際の性能を引き上げる理由を世界で初めて解明した。
マグネシウムフルオライドはマグネシウムとフッ素原子が結合した化合物で、価格が比較的安価で生産工程が安定しているため、OLEDパネルの正孔注入層の素材として古くから使用されてきた。正孔注入層は電荷がスムーズに入ってくるよう助ける層である。
しかし問題は、マグネシウムフルオライドが元来電気を通しにくい「絶縁体」として知られていた点である。電荷が動かなければならない正孔注入層で、絶縁体がなぜ性能改善に寄与するのかについて、学界と産業界の双方で明確な説明が出ていなかった。結局、製造現場では原理を知らないまま経験と試行錯誤で工程を合わせなければならない限界があった。
研究チームはこの長年の疑問を解くため、マグネシウムフルオライドが有機半導体と混ざる時に起きる変化を追跡した。その結果、絶縁体とみなされていたマグネシウムフルオライドが有機分子から電子を引き寄せることを初めて確認した。平たく言えば、別途の外部刺激がなくても有機物とマグネシウムフルオライドが混ざる瞬間に電子移動が自然に発生するという意味である。
この過程でマグネシウムフルオライドは正孔、すなわち「正電荷の運び手」を増やした。実際に従来より正孔濃度を50倍以上増加させた。正孔が増えると電荷の流れが円滑になり、OLEDが発光する過程がより効率的に進むことができる。
研究チームはもう一つの重要な変化も確認した。マグネシウムフルオライドが有機物と混ざると、本来のように結晶構造を作らず、ガラスのように無秩序な「非晶質状態」に変わる点である。この構造変化は異なる材料が接する界面で生じやすいエネルギー障壁を下げ、より低い電圧でも電荷が容易に移動するのを助ける。
論文の第一著者であるヨンセ大学博士課程研究員(LGディスプレイ在職)のソン・ギウクは「マグネシウムフルオライドは大型OLED量産で中核的に使われているが、なぜ効果が出るのか明確に整理されていない部分があった」とし、「原理が明確になった分、高効率・長寿命パネルの開発に実際に役立つと期待する」と語った。
イ・ヨンジン教授は「産業で先に使われていた技術を科学的に解釈して原理を究明し、その結果を再び産業競争力につなげる好循環の意味が大きい」と明らかにした。
今回の成果は材料分野の国際学術誌「Advanced Functional Materials」に30日(現地時間)に掲載された。
参考資料
Advanced Functional Materials(2025)、DOI: https://doi.org/10.1002/adfm.202525568