人間の体内で正常に機能していた豚の腎臓が9カ月ぶりに摘出された。これまで問題はなかったが、最近機能が低下し安全上の観点から摘出された。ただ、他の動物を用いる異種臓器移植が慢性的な臓器提供不足の解決に寄与し得るとの期待を抱かせた。
米国ハーバード医科大学傘下のマサチューセッツ総合病院(MGH)は「先週、67歳男性のティム・アンドルース(Tim Andrews)の体から遺伝子を改変した豚の腎臓を摘出した」と27日(現地時間)明らかにした。患者は1月25日に同病院で移植手術を受けた。病院によると腎機能が次第に低下し、23日に摘出手術を受けたという。
アンドルースは腎不全で2年以上透析を受けていたが、豚の腎臓を移植され、史上最長の271日間を透析なしで過ごした。米国で遺伝子改変豚腎を移植された4人目の患者である。最初の2人は移植直後に死亡し、3人目は免疫拒絶反応で130日目に腎臓を摘出した。マサチューセッツ総合病院は「アンドルース氏は異種臓器移植分野で新たな基準を打ち立てた」とし「アンドルース氏は今後、再び透析を受けながらヒト腎臓移植の待機名簿にとどまる」と述べた。
◇提供臓器不足を解決する代替策
世界は慢性的な移植用臓器不足に直面している。高齢化で臓器移植の待機者は年々増える一方で、臓器提供は大きく不足している。米国では10万人以上が移植待機名簿に載っており、そのうち約9万人が腎臓を待っている。韓国も同様だ。昨年の脳死臓器提供者は397人だが、臓器移植待機者は5万4789人である。待機中の死亡者は1日平均8.5人だ。
科学者は慢性的な移植用臓器不足の解決策を動物に求めた。臓器の構造と大きさが人間に近いミニブタを用いる方法だ。豚の臓器は人体に入ると免疫拒絶反応を引き起こし得る。科学者はヒト化の遺伝子変換で対応している。
アンドルース氏に移植された腎臓は、69個の遺伝子を改変した豚から得られた。一部は人間に危険をもたらし得るウイルス遺伝子を不活化するためで、別の一部は臓器が人体とより適合するよう遺伝子を変更して免疫拒絶反応の可能性を低減した。この際、DNAから目的の遺伝子だけを切り出す酵素複合体であるCRISPR遺伝子はさみを使用した。
アンドルース氏に移植した豚の臓器は、マサチューセッツ州ケンブリッジにあるバイオ企業のイジェネシス(eGenesis)が提供した。同社は異種遺伝子改変分野の権威であるハーバード大学のジョージ・チャーチ(George Church)教授が創業した。病院側は年末に遺伝子改変豚腎移植をもう一度実施する予定だと明らかにした。
◇豚の心臓と腎臓、肺、肝臓まで移植
異種臓器移植は引き続き成果を上げている。中国では豚の肝臓を移植された患者が171日間生存したという研究結果が出た。これまで脳死者に豚肝を移植した例はあったが、生体の人に移植したのは初めてだった。
中国の安徽医科大学と雲南農業大学の共同研究チームは、71歳の男性肝がん患者に豚の肝臓を移植した研究結果を8日、欧州肝臓学会が発行する「肝臓学ジャーナル(Journal of Hepatology)」に発表した。
中国の研究チームもCRISPR遺伝子はさみでヒト化の遺伝子編集を先に行った。免疫拒絶反応を引き起こす3つの遺伝子を除去したヒト化豚から肝臓を摘出し、一部を切除した上で人間の免疫反応と血液凝固を調節する7種類のタンパク質を挿入して患者の肝臓に付加した。研究チームは「移植直後に患者の血流を受けるや、肝臓が正常な色に変わり胆汁の分泌を始めた」と明らかにした。
移植後1カ月間、血液からは豚由来のアルブミンや凝固因子などが検出され、移植肝は体積も増加し、1日最大400mLの胆汁を分泌して代謝機能を果たした。しかし移植38日目に患者の微小血管に血栓が生じ、臓器機能の低下が続いたため豚肝を摘出した。
8日には遺伝子改変豚の肺が人に移植され、9日間機能を維持した世界初の事例が報告された。中国・広州医科大学付属第一病院のホー・ジェンシン博士の研究チームは、韓国・日本・米国の研究チームとともに遺伝子改変豚の左肺を脳死者に移植し、9日間機能が維持されることを確認したと「ネイチャー・メディシン(Nature Medicine)」に発表した。韓国からはチョン・ギョンマン、サムスンソウル病院の教授が参加した。
米国メリーランド大学医学部は2022年1月、遺伝子を改変した豚の心臓を人に移植した。当時手術を受けた57歳の米国人男性は手術から2カ月で合併症により死亡した。翌年も58歳の患者に豚心臓を再び移植したが、やはり免疫拒絶反応で6週間で死亡した。
異種臓器移植はまだ安全性が完全に確立されたわけではない。人の臓器移植の水準には達しておらず、慢性的な移植用臓器不足を完全に解消することはできない。ただ、他者の臓器移植を待つ間、暫定的に豚の臓器を使うことは可能だ。人の臓器移植へ至るための踏み石になり得るということだ。
韓国でも異種臓器移植を推進している。保健福祉部は、5年以内の異種臓器移植の臨床試験入りを目標に、2023年に380億ウォン規模の国家プロジェクトを進めている。韓国企業のOptipharmは10個の遺伝子を改変した豚を開発している。会社は来年までに豚膵島を含む異種臓器移植のための治験計画届(IND)を食品医薬品安全処に提出する予定だと明らかにした。
参考資料
Journal of Hepatology(2025)、DOI: https://doi.org/10.1016/j.jhep.2025.08.044
Nature Medicine(2025)、DOI: https://doi.org/10.1038/s41591-025-03861-x