肥満と糖尿病の患者が急増するなか、代謝異常脂肪肝炎(MASH)治療薬市場が拡大している。しかし現在承認された治療薬はわずか2種類にとどまる。こうしたなか、既存治療薬に比べ競争力を示せなかったグローバル製薬企業が相次いで新薬開発を中断し、開発を続けてきた韓国企業に関心が集まっている。
MASHはしばらく非アルコール性脂肪肝炎(NASH)と呼ばれていたが、代謝要因を強調するために昨年グローバル肝学会がMASHへ公式名称を変更した。代謝は人体が栄養分を分解してエネルギーを得て老廃物を排出する過程を指す。MASHは飲酒と無関係にこの過程に問題が生じ、脂肪が肝臓に蓄積して炎症と損傷を引き起こす疾患で、肝臓が硬くなる肝硬化、肝がんへ進行し得る。
英国アストラゼネカ(AZ)は6日(現地時間)、抗感覚オリゴヌクレオチド系新薬候補「AZD2693」の開発を中断したと明らかにした。会社はこの日、7-9月期の業績報告書で「MASH・肝線維症患者を対象とした第2相b試験で有効性を示せなかった」と説明した。
代わりに日本の第一三共と共同開発した抗体薬物複合体(ADC)エンハーツ(成分名トラスツズマブ デルクステカン)と後続薬のダトポタマブ デルクステカンに続き、次世代ADC開発に注力する計画である。
MASH開発を中断したのはアストラゼネカだけではない。先立って米国ファイザーもMASH併用療法を含め、11件の研究開発(R&D)パイプライン(新薬候補群)を整理した。
ファイザーは肝線維化患者対象の単独療法試験で開発を中断していたクロサコスタットをDGAT2阻害剤エルボガスタットと併用して再び臨床試験に入ったが、今回プロジェクトを正式終了した。この併用療法は2022年に米国食品医薬品局(FDA)からMASH治療薬の優先審査(ファストトラック)対象に指定まで受けた候補物質である。
現在までにFDAの承認を受けたMASH治療薬は、昨年3月に初めて承認された米国マドリガル・ファーマシューティカルズのレズディフラ(レスメディロム)と、8月に肥満からMASHへ適応領域を広げたデンマークのノボノルディスクのウェゴビ(セマグルチド)のみにとどまる。ただし両薬剤とも肝硬変前段階の患者にしか使用できず、後期患者向け治療薬の開発がなお必要である。
ノボノルディスクは最近、MASH治療用の短鎖干渉リボ核酸(siRNA)候補2種(NN-6581、NN-6582)の臨床試験を中断した。RNAはデオキシリボ核酸(DNA)の遺伝情報を複製してタンパク質を合成するが、サイズの小さいRNAであるsiRNAが細胞で特定遺伝子のタンパク質合成を阻害する。
ノボノルディスクはsiRNA候補の代わりに、先月7兆ウォンで買収した米国アケロ・セラピューティクスから次世代MASH治療物質を確保した。アケロが開発中の線維芽細胞増殖因子21(FGF21)類似体系候補であるエフルキシフェルミンは現在、第3相試験の段階にある。FGF21は肝臓から分泌されるホルモンで、血糖と中性脂肪を低下させ、エネルギー代謝と脂肪利用、脂質排泄を増加させる。
グローバル大手がMASHパイプラインを相次いで畳む間に、韓国企業が新たな走者として浮上している。
ハンミ薬品はMASH新薬候補2種を開発中である。自社では韓国と米国で、グルカゴン様ペプチド-1(GLP-1)・グルカゴン(GCG)・胃抑制ペプチド(GIP)三重作用剤の「エポシペグトルタイド」の第2相b試験を進めている。
もう一つはGLP-1・GCG二重作用剤の「エピノペグデュタイド」で、2020年に米国メルク(MSD)へ技術移転した。年末に第2相b試験の結果発表を控えており、MSDが第3相試験に入ればブロックバスター(年間売上1兆ウォン以上の医薬品)に成長する可能性が高い。
D&DファーマテックもGCGとGLP-1二重作用剤であるDD01の米国第2相試験を進行中である。FDAのファストトラックにも指定された。会社は第2相の中間結果で肝内脂肪を30%以上減らす効果を確認したと明らかにした。DD01投与群の12週時点の平均脂肪肝減少率は62.3%で、プラセボ群(8.3%)に比べ有意に高かった。会社はこのデータを基にグローバル技術移転を推進中である。
2月に9,000億ウォン規模で米国イーライリリーにOLX702Aを技術移転したOliX Pharmaceuticalsも注目されている。OLX702Aは今回ノボノルディスクが開発を中断したsiRNAと同じ系統の物質である。OliX Pharmaceuticalsは前臨床で肝内脂肪の減少効果を確認し、現在オーストラリアでMASHとその他の心血管・代謝疾患に関する第1相試験を進めている。
リリーはウェゴビと競合する肥満治療薬マンジャロ(チルゼパチド)もMASH治療薬として自社開発中である。ここにOliX Pharmaceuticalsから移転を受けたsiRNA候補もMASH治療薬として開発し、ウェゴビとの競争に備えている。