「人工の肉を作るのに本当に化学物質が必要だろうか。化学物質の代わりに光で細胞を育てる技術は、その問いから始まった」
先月、ソウル・ソンドングのオフィスで会ったハン・ウォニル ティセンバイオファム代表は「ヘルスケア分野の研究をしているうちに、健康は治療に先立ち基本的な衣食住から始まると考えるようになった」と述べ、「人が健康になるにはまず食卓が健やかであるべきではないか。そこで肉の問題に関心を持つようになった」と語った。
ハン代表はハンドン大学 生命科学大学を卒業し、ポステックで医工学と組織工学を専攻して博士号を取得した。大学では3D(立体)プリンターで細胞を積み重ね、人工臓器や幹細胞治療薬、バイオ素材のように人体組織を模倣する技術に打ち込んだ。その研究の末に、食の分野に注目した。すなわち細胞培養肉である。
培養肉は牛や鶏、あるいは魚から幹細胞を採取し筋肉細胞へ分化させて作る。培養器で細胞数を増やし、3Dプリンターで層状に積み上げれば肉の形になる。しかし培養肉が現実となるには必ず越えなければならない壁があった。価格だ。細胞培養に不可欠な成長因子と栄養素は牛胎児血清(FBS)を通じて供給されるが、価格が高いだけでなく環境負荷も大きい。
ティセンバイオファムは牛胎児血清の成長因子を特定波長の光を照射する方式で代替した。細胞が成長シグナルを受け取る受容体タンパク質を光で刺激する原理である。化学物質を使わないため炭素排出と排水の発生がほとんどなく、電気代以外の費用はかからない。ハン代表は「特定波長の光を1日30分照射すれば細胞が成長する」とし、「この方式で培養コストを従来比1万8000分の1の水準に下げた」と明らかにした。
同社は現在、ダイコン、オオムギ、コメといった食用植物の遺伝子を活用し、光で細胞を育てる技術に関する検証を終盤段階にある。研究陣は一歩進み、光を照射しなくても細胞の増殖と分化を誘導する方式も開発中だ。温度に応じて成長と分化を制御する「温度基盤の成長因子システム」が代表的な技術である。摂氏37度以上なら細胞が増殖し、35度以下なら分化を誘導する方式だ。
ティセンバイオファムは価格競争力のため、培養過程に必要な基礎培地と細胞洗浄液、冷凍保存液、バイオインクまで自社で製造する。ハン代表は「通常、研究用培地は人が口にできず、何より高価だ」と述べ、「当社は食品グレードの原料で培地を作って用いており、ボトル代まで含めてもミネラルウォーター1本程度だ」と語った。
培養肉の成否はコストだけで決まらない。肉の繊維の走り方や脂が均一に入ったマーブリング、食感、味といった感覚的完成度も重要だ。ハン代表は生体模倣と3Dプリンティングを研究してきた経験をもとに、実際の肉に近い組織構造を実現している。赤身と脂肪の繊維を部位ごとに異なるように積み、細胞が肉固有の色と風味を出すタンパク質を自ら生成するようにした。
ハン代表は、1年内に費用が反復的にかかる消耗品をなくした「コストフリー(cost-free)」培養システムを完成させると明らかにした。技術が商用化されれば、消費者価格は1kg当たり4万〜5万ウォン水準まで下げられるとした。米農務省(USDA)が認証した最上位級の牛肉が1kg当たり約8万ウォンであることを踏まえると、半分程度である。
最近、米国では培養肉企業の米食品医薬品局(FDA)承認事例が相次いでいる。3月にはミッション・バーンズ(Mission Barns)の培養豚脂肪がFDA承認を受け、6月と7月にはそれぞれワイルドタイプ(Wildtype)の培養サーモン、ビリーバー・ミーツ(Beliver Meats)の培養チキン製品が承認された。ティセンバイオファムは独自技術を基に、韓国はもちろん米国・欧州市場への進出を準備していると明らかにした。
ハン代表は培養肉技術を商用化直前の段階に引き上げたのに続き、同じ技術を医療分野にも適用している。ハン代表は「当社が作る培養肉は単なる細胞ではなく食べられる組織であり、技術的複雑さは人工臓器と同程度だ」と述べ、「ティセンバイオファムの培養肉システムが完成すれば、人工臓器の量産にも応用できる」と語った。ハン代表は「食卓上の技術が結局ヘルスケアへとつながる」と述べた。