1950年代末、米国のフォードは一度危機に直面した。意欲的に披露した新型車「エドセル(Edsel)」が発売後に消費者からそっぽを向かれ、約2億5000万ドルの損失を残したためだ。自動車企業にとって新モデル開発は日常だが、当時のフォードでは新車の話を切り出すことさえ難しい雰囲気になった。米国ヘンリー・フォード博物館は「エドセルの失敗以後、フォード内部で新車開発を論じることは『異端(heresy)』に近かった」と記録している。
雰囲気を反転させた人物は当時フォード事業部長だったリー・アイアコッカ(Lee Iacocca)副社長だった。アイアコッカは、第2次世界大戦以後に生まれたベビーブーマー世代が成人し、巨大な自動車消費層として浮上すると展望した。アイアコッカは、彼らが望む車はフォードの既存ラインアップのような落ち着いた中型車ではなく、手ごろな価格で速くシャープなスタイルを備えた自動車だと判断した。
アイアコッカは自らと志を同じくする少数の同僚を集めた。会議場所も会社本社ではなかった。彼らは米国ミシガン州ディアボーンのフォード本社から約2マイル離れた「フェアレイン・イン(Fairlane Inn)」という小さなモーテルで秘密裏に集まった。のちに「フェアレイン委員会(Fairlane Committee)」と呼ばれた彼らは、若年層を狙った車の条件を一つずつ具体化した。4人乗りシートと十分なトランクスペース、長いボンネットと短いリアオーバーハングが生むシャープなプロポーションを備えつつ、車両重量は2500ポンド以下、価格は2500ドル以下に定めた。
この構想から誕生した車が、今日ではフォードの象徴ともいえる「マスタング(Mustang)」である。既存のフォード・ファルコンのプラットフォームを活用して開発費と時間を削減し、1962年にヘンリー・フォード2世会長の正式承認を得た。1964年4月、ニューヨーク世界博覧会で公開されたマスタングは、発売後1年間で41万8000台以上売れた。フォードが当初予想していた15万台の倍をはるかに上回る規模だった。会社の目を避けて進めた小さな秘密会議が、米国自動車産業の一場面を塗り替えた格好だ。
ワイン業界にも、同様の方式で始まった小さな秘密プロジェクトがあった。豪州マクファーソン・ワインズ(McPherson Wines)のワインメーカー、ジョ・ナッシュ(Jo Nash)は2014年、ひときわ品質に優れたシラーズの区画を見つけた。ナッシュはこのブドウをやさしく破砕した後、フレンチオーク樽に入れて12カ月間熟成させた。
問題は樽の価格だった。マクファーソンは当時使用したフレンチオークを「ばかげるほど高い(ridiculously expensive)」樽だったと表現した。さらに会計担当者はこのプロジェクトを知らなかった。こうして誕生したワインの名前が「ドント・テル・ゲリー(Don't Tell Gary・ゲリーに言うな)」だ。ゲリーはまさに会計担当者の名前だった。
マクファーソン・ワインズは、豪州ビクトリアを拠点とする独立家族経営のワイナリーだ。1968年に始まり、50年以上にわたりワインを造ってきた。ワイナリーはビクトリア州ナガンビー(Nagambie)にあり、セントラル・ビクトリアを中心にブドウを選別してワインを醸造する。
マクファーソンは伝統的な方式にとどまるよりも、新しいスタイルや醸造技術、ブレンドを着実に試みる生産者だ。公式ホームページにも「伝統と大胆なアイデアが出会う場所(Where Tradition Meets Bold Ideas)」という文句を掲げている。良いブドウを見つけたワインメーカーがコスト計算より自ら望む醸造を優先し、その逸話を一つのブランドに発展させたドント・テル・ゲリーは、このようなマクファーソンの性格をよく示すワインである。
ドント・テル・ゲリーは、ビクトリアで収穫したブドウの中から最上級の果実だけを選び、シラーズ100%で造る。一次発酵が終わったワインは、容量500Lのフレンチオーク・ファドールへ移される。一般的にワイン醸造で多く使われる225L級の樽と比べ、容量は2倍以上大きい。樽が大きくなるほど、同じ量のワインが木と接する表面積の比率が下がり、オークの風味が過度に強くなるのを抑制しながら果実の風味とのバランスを取るのに役立つ。
使用するフレンチオークのうち80%は新樽、20%は一度使用した1年物の樽だ。ワインはこのオーク樽内で乳酸発酵を経る。ブドウ栽培から醸造まで人工的な介入は最小限にとどめた。良質な果実の清冽な風味を最大限に生かしつつ、シラーズ特有のよく熟した果実とフレンチオークに由来するスパイス風味を調和させることに焦点を当てた。
グラスによれば濃いガーネット色を帯びる。香りではブラックチェリーやブルーベリーなど黒系果実とともに多様なスパイス香が立ち上がる。口中ではブラックベリーのように熟した黒系果実の風味を中心に、コショウとやわらかなオークスパイスが溶け合う。中程度のボディにシルキーなタンニンが加わり、豊かでありながら滑らかな質感を示す。シャルキュトリやチーズ、炭火で焼いたステーキ、ミートパイなどとよく合う。ドント・テル・ゲリーは「2026年韓国酒類大賞」新世界赤ワイン部門で大賞を受けた。国内輸入元はタイガーインターナショナルだ。