世界各地で乳幼児用粉ミルクの大規模リコールが拡大している。主要グローバル粉ミルク企業が特定原料の汚染問題で相次いで製品を回収し、粉ミルクのサプライチェーンの脆弱性が露呈したとの分析が出ている。
9日、ロイター通信やAFPなどの海外メディアによると、今回の粉ミルクリコール事態は2025年12月に初めて表面化した。フランスでリコール対象製品を摂取した乳児3人が死亡し、事態の深刻性が増した。フランス政府は中国・武漢所在のカビオバイオテックが供給したアラキドン酸(ARA)オイルを原因として指摘した。
アラキドン酸はオメガ6脂肪酸で、母乳に自然に含まれる栄養素である。粉ミルクメーカーは粉ミルクを母乳成分にできるだけ近づけるため、アラキドン酸をオイル形態に加工して製品に添加する。ところがこの原料から嘔吐や下痢など食中毒を誘発する毒素「セレウライド」が検出された。一般的な細菌は高温加熱で死滅するが、セレウライドは熱に強く、粉ミルク製造過程の高温殺菌や家庭で熱湯で粉ミルクを溶く場合でも破壊されないとされる。
このためネスレ、ダノン、ラクタリスなどのグローバル企業は世界60余りの国で大規模な自主回収措置を取った。欧州連合(EU)欧州委員会は官報で「中国産アラキドン酸オイルの輸入に関して、強化されたレベルの公式管理と特別条件を整える必要がある」と明らかにした。問題となった企業名を明示はしなかったが、中国企業「カビオバイオテック」が今回の事態の原料供給元として指摘され、調査を受けているとされる。
業界では今回の事態は単なる製造工程上のミスというより、グローバル粉ミルク各社が築いてきた集中型サプライチェーン構造の脆弱性を露わにした事件とみている。特定原料の供給元への依存度が高い構造で、一つの供給元に問題が生じるや複数ブランドと複数国家へ同時に波及したということだ。
業界関係者は「アラキドン酸は生産技術と設備要件が厳しく、サプライヤー数が限定的だ」と述べ、「メーカーはコスト効率と品質の標準化のため、少数の企業から原料を一括調達してきた場合が多い」と語った。アラキドン酸など専門原料を供給する企業は世界的に10社未満とされる。粉ミルク製造企業の立場では、コスト削減のため規制基準が相対的に緩いか生産費が低い地域で原料を調達せざるを得ないということだ。
こうした状況の中で、一部の欧州オーガニックブランドは今回の危機を回避したことが分かった。そのうちドイツのオーガニック粉ミルクブランド、ヒップ(HiPP)の「ヒップコンビオティックオーガニック」ラインはリコール名簿から外れ、関心を集めている。主要グローバル企業が中国産アラキドン酸原料の汚染余波で製品を回収した一方、ヒップは同じ成分を使用しながらも欧州内で独立した調達網を維持し、今回の危機を回避したとの分析が出ている。
ヒップはアラキドン酸オイルを欧州内の独立サプライヤーから調達してきたと説明した。問題となったサプライヤーの原料は使用していないということだ。
牛乳およびホエーなど主要成分も主にドイツと近隣のEU諸国から供給を受ける。とりわけ6000戸以上のオーガニック農家と直接契約を結び、生産段階全般を直接管理している。EUのオーガニック規則に加え、ビオラント(Bioland)、デメター(Demeter)など民間認証基準も同時に満たし、供給元のトレーサビリティ、地域調達、二重の認証監査などを通じて外部原料の混入可能性を下げた。
またヒップは原料段階から多層的な品質管理システムを運用していると説明した。ヒップ関係者は「アラキドン酸オイルを抽出する特殊なカビの培養初期段階から厳格なモニタリングを実施する」と述べ、「セレウライドは原因菌であるバチルス・セレウスが存在してこそ生成されるが、オイル抽出前の段階で原因菌を排除しているため、完成品段階で追加テストが不要なほど安全性を確保した」と明らかにした。
このほかにも、▲契約農場の土壌分析および作物モニタリング(収穫前テスト)▲製造施設入荷時の原料テスト▲製剤および混合中の工程モニタリング▲発売前の最終製品の微生物学的および化学的テスト▲市販後監視のための保管サンプル維持、などの多重検査体制を通じ、完成品段階以前にリスク要因をふるい落としている。
ただしヒップのサプライチェーンモデルにも限界はある。オーガニック原料と契約農家中心で運営される構造の特性上、短期間に生産量を大きく増やすのは難しい。オーガニック農場は認証転換に最低2〜3年を要し、オーガニック原料の市場規模自体も全体の農産物市場で占める比重は大きくない。このため、オーガニック中心のサプライチェーンは大規模な生産拡大より、安定供給と品質管理に焦点を当てた構造だとの評価が出ている。ヒップ関係者は「ヒップは小売価格が他社比で15〜30%ほど高いが、単なるブランド料ではなく安全なサプライチェーンを守るための努力が反映された結果だ」とし、「危機状況で他社が短期間で真似できない競争力だ」と述べた。