AMDがエージェンティック人工知能(AI)パラダイムに歩調を合わせ、半導体からネットワーキング、ソフトウエアまでシステム全体を最適化したラックスケールAIインフラ「ヘリオス」と、第6世代サーバー用中央処理装置(CPU)「EPYCベニス」を公開した。
リサ・スーAMD最高経営責任者(CEO)は23日(現地時間)、米国サンフランシスコで開かれた年次イベント「Advancing AI 2026」の基調講演でこの2製品を紹介し、エージェンティックAI時代にはチップ1個の性能ではなく、そのチップで駆動するAIインフラ全体の性能が重要だと強調した。これに向け、世界最高水準の効率を備えたAIインフラを目標に設計を最初からやり直したと説明した。
スーCEOは「GPUとCPU、ネットワーキング、電力、冷却を個別に最適化していた以前の世代の方式から脱し、データセンター1棟をまるごと1つの製品とみなすアプローチを選んだ」と述べ、「その結果、世界最高水準の効率を備えたAIチップを供給できるようになった」と自信を示した。
◇ 1年で3倍に引き上げたAIアクセラレーター市場見通し
スーCEOはこの日、AIアクセラレーター市場の見通しを前年比で大幅に上方修正した。AMDは昨年の同イベントでAIアクセラレーター市場が2028年に5,000億ドル規模へ拡大すると展望したが、今年は2030年に1兆4,000億ドルと改めた。スーCEOは、この規模であれば2030年のAIアクセラレーター市場だけで現在の半導体市場全体の規模に匹敵する水準だと説明した。
見通しがこのように上方修正された背景には、AIの使われ方自体が変化しているとの診断がある。スーCEOは今年について「世界がAIモデルの学習に使うコンピューティングより、既に作られたモデルを実際に動かすために使うコンピューティングが初めて多くなった年だ」と述べ、「今年のAIコンピューティング能力全体の約60%が推論(inference)に投入される」と語った。チャットボットとして始まったAIが、自ら計画を立て、ツールを扱い、仕事を完遂するエージェントへと進化する流れが直近5~6カ月で本格化し、コンピューティング需要が緩やかな増加ではなく段階的に跳ね上がっているとの診断である。
スーCEOは、このような需要急増の裏側に企業の実質的な負担がある点も指摘した。スーCEOは「企業の現場にいるわれわれ全員がAI予算が毎月上がっていることを肌で感じているのではないか」と問い返し、結局の肝要は性能ではなくトークン当たりのコストだと強調した。
◇ チップ1個ではなくラック全体が設計単位
このような需要構造の変化は、AMDのハードウエア設計の在り方に大きな影響を与えた。過去は高性能のチップ1個を作ることが要だったが、いまはCPUとGPU、ネットワーキングまでラック1本をまるごと設計しなければならないということだ。この日ゲストとして登壇したMeta(メタ)のサントシ・ジャナダンインフラ総括も「サーバー・ネットワーキング・電力・冷却を別々に最適化していた時代は終わり、データセンター全体を1つのシステムとして捉え、パートナー企業とともに設計すべき局面に入った」と述べた。
この日、正式量産を宣言したヘリオスは、このような変化の最初の成果物である。AIアクセラレーターInstinct MI455Xと第6世代サーバー用CPU EPYCベニス、ラック内通信を担うPensandoネットワーキングチップを1本のラックに束ねた構造で、GPUとメモリー、電力供給、冷却装置までを1つのモジュールにまとめた設計が特徴だ。競合のエヌビディアの最新ラックスケール製品「ヴェラ・ルービン(Vera Rubin) NVL72」と比べ、メモリー容量と帯域幅で優位に立つという性能値も併せて公開した。
スーCEOは「ヘリオスは端的に言えば世界最高のAIラックだ」と言い切り、「同一投資でより多くのユーザーを捌けるだけに、顧客が得るのは結局コスト削減だ」と重ねて強調した。
◇「GPUだけでは足りない」…CPU重要性が浮上
スーCEOは、エージェンティックAIはGPUの演算力だけでは回らない点も指摘した。スーCEOは「エージェント1体が作業を遂行するには数十段階の推論とツール呼び出し、データアクセスを経る必要があり、このプロセス全体を調整するのがCPUの役割だ」と述べた。GPU市場の成長に隠れていたサーバーCPU需要は、実はエージェンティックAIが生んだ全く新しい成長軸だという説明である。
この日量産が発表された第6世代EPYCサーバー向けCPU「ベニス」は、1つのアーキテクチャをワークロード別に細分化した点が特徴だ。GPUにデータを供給するCPU、数千体のエージェントを同時に実行する高密度CPU、企業の一般業務を処理する汎用CPUを、1つの設計基盤の上でそれぞれ異なる形で実装した。
スーCEOは、このような細分化戦略が実際の性能格差につながったと強調した。競合x86プロセッサー比でエージェントサンドボックス用CPUは、ワット当たりに処理できるエージェント数が2倍以上多く、競合ARM系プロセッサーと比べるとラック単位のワット当たり性能格差を最大3倍以上広げた。スーCEOは「このような格差がデータセンター規模では、結局同一電力でどれだけ多くのエージェントを同時に動かせるかの差に結び付く」と述べた。
◇ OpenAI・Anthropic・Meta(メタ)など大口顧客も後押し
この日の舞台にはAnthropic、OpenAI、Meta(メタ)、Cerebrasの関係者が次々に登壇し、AMDのAIシステム活用事例と協業関係を説明した。サチン・カティOpenAIコンピュート戦略担当副社長は「先に発表した最大6GW規模の契約が順調に進んでいる」と明らかにした。さらに「AMDの前世代GPUから始め、今回はヘリオスラックを業界で最も早く受け取り、すでに大規模モデルの学習に使っている」と述べた。
サントシ・ジャナダンMeta(メタ)総括は「複数世代にわたり数百万台規模のAMDサーバー用CPUを使ってきた」と述べ、「いまは完成品を買って使うのではなく、設計初期段階からAMDと向かい合って電力、冷却、サーバー、通信装置まで共に検討するほど密接な関係を結んでいる」と説明した。
Cerebrasのアンドリュー・フェルドマンCEOは、超大型AIチップを製造しオンプレミスとクラウドに供給してきた自社事業を紹介し、OpenAIやアマゾン・ウェブ・サービス(AWS)のような大口顧客を多数確保していると述べた。フェルドマンCEOは「これまで業界は『大量を速く処理すること』と『即座に答えを出すこと』のどちらか一方を選ばねばならなかったが、今回AMDと組んだことで応答速度はそのままに処理量を5倍に増やせるようになった」と語った。