ジェンスン・フアン エヌビディア最高経営責任者(CEO)が日本を訪問するなか、エヌビディアが日本の製造・自動車企業と人工知能(AI)協力を拡大する戦略を公表した。最近フアンCEOが韓国と台湾を相次いで訪問し、日本ではいわゆる「ジャパンパッシング」論争が提起されていた。エヌビディアは今回の発表を通じてトヨタやファナック(FANUC)、NEC、ソフトバンクなどとフィジカルAIの協力を拡大し、日本の製造・ロボット市場攻略に速度を上げる構想を示した。
フアンCEOは15日、日本の東京を訪れ、エヌビディアとセガ(SEGA)のパートナーシップ30周年記念行事に出席した。エヌビディアは別途実施した日本のパートナー・エコシステムに関するメディアブリーフィングで、製造業と自動車、ロボット分野を中心に日本企業とのAI協力を拡大する計画を発表した。
エヌビディアは日本市場攻略の要として、フィジカルAI向けのワールド・ファウンデーション・モデルである「コスモス(Cosmos)」を打ち出した。フィジカルAIとは、AIが周辺環境を認識して判断し、ロボットや自動運転車など実在の機器が自律的に作業を実行できるようにする技術である。
エヌビディアが日本に注目する理由は、製造業とロボット産業の競争力にある。日本は自動車と産業用ロボット、工場自動化分野で世界的企業を多数保有している。AIを実際の生産現場に適用するには、このような製造基盤が不可欠だというのがエヌビディアの判断である。エヌビディアは、これら企業が自社データを活用してAIを開発できるよう、オープンなAIモデルとソフトウエア・プラットフォームを供給し、製造AI市場を拡大する戦略である。
今回の発表では、日本の製造業を代表する企業がエヌビディアの「コスモス」エコシステムに多数参加した点も目を引く。ファナックと富士通、川崎重工業、クボタ、三菱電機、NEC、ソフトバンク、ヨシカワなどはコスモスを活用し、製造・ロボット分野に特化したAIモデルを開発する。オムロンとソニー、ウーブン・バイ・トヨタ(Woven by Toyota)などは、エヌビディアのアイザック(Isaac)ロボット・プラットフォームとジェットソン(Jetson)ロボット用コンピューターを活用して次世代ロボットの開発に乗り出す。
エヌビディアは、企業が汎用AIをそのまま使うのではなく、製造現場とロボット運用過程で蓄積したデータを追加学習させ、産業別AIモデルを開発できるよう支援する。これに向け、モデルの重みや学習データ、開発ツールなどを公開するオープンモデル戦略を前面に出した。企業は生産データと技術ノウハウを外部に公開せずに自社AIシステムを構築・運用できるという説明である。
エヌビディアは、大規模言語モデル(LLM)のネモトロン(Nemotron)をはじめ、フィジカルAI向けのコスモスとグルート(GR00T)、生命科学向けのバイオネモ(BioNeMo)など産業別のオープンAIモデルも合わせて提供している。
エヌビディアはフィジカルAI向けの新規モデル「コスモス 3 エッジ(Cosmos 3 Edge)」を公開した。小型エッジAIコンピューターのジェットソンで駆動できるよう、モデルのサイズと演算量を減らした製品である。従来のコスモスモデルより必要なコンピューティング資源を4分の1水準に下げ、企業が自社データでモデルを微調整する時間と費用を減らせるとエヌビディアは説明した。
工場やロボット現場でデータをクラウドに送らず、機器で直接AI推論を実行できる点も特徴である。ネットワーク接続が不安定な環境でも迅速に作動し、機微な生産データを外部に送信する必要がない。
エヌビディアは工場やロボットなど産業現場でAIを駆動するための次世代エッジAIコンピューター「ジェットソン T3000」と「ジェットソン T2000」も公開した。既存のジェットソン開発キットで次世代製品のソフトウエアを事前に開発できるよう支援し、2027年1〜3月期から新ハードウエアを供給する計画である。エージェント型AIを活用してロボットソフトウエア開発とメモリ最適化も支援し、開発期間と費用を削減する構想である。
トヨタとの協力範囲も自動車から工場とスマートシティへ広げる。トヨタはエヌビディアの車載AIプラットフォーム「ドライブAGX(DRIVE AGX)」とオペレーティングシステム「ドライブOS(DRIVE OS)」を基盤に次世代運転支援システムを開発している。エヌビディアは自動車メーカーとの協力を自動運転だけでなく生産と都市インフラ分野まで拡大し、AIプラットフォームの適用範囲を広げる戦略である。
生産現場ではオムニバース(Omniverse)とアイザック・シム(Isaac Sim)を活用して生産ラインのデジタルツインを構築する。トヨタはネモトロンを活用し、自動車ソフトウエア安全規格(MISRA)を支援するコード生成AIも開発しており、AI基盤の都市型モビリティシステムと交通管理技術にもエヌビディアのプラットフォームを適用する計画である。
エヌビディアは、日本に30万人以上の開発者と1万6000人以上の学生で構成されるAIエコシステムが構築されていると紹介した。業界では今回の発表を、エヌビディアが日本の製造業とロボット企業を自社AIプラットフォームのエコシステムに取り込もうとする戦略とみている。AI半導体の供給にとどまらず、AIモデルとロボットプラットフォーム、デジタルツイン・ソフトウエアまで一体で供給する市場を拡大しようとする動きだとの分析である。