スペースXが米ナスダックに上場し、現職と元職の社員が相次いでミリオネアになった。「スペースXマフィア」は、かつて米シリコンバレーのエコシステムを主導したペイパル・マフィアのように、新たなスタートアップを起業したり主要テック企業の中核人材として活動している。
スペースXとテスラに投資したベンチャーキャピタルのフォルツナ・インベストメントのジャスタス・パルマール最高経営責任者(CEO)は「スペースX・テスラ創業者のイーロン・マスク、パランティアCEOのピーター・ティール、ベンチャー投資家のデービッド・サックスをはじめ主要なテック投資家と起業家がペイパルのエコシステムから輩出され、次世代のテック企業を生み出した」と述べ、「スペースXの企業公開(IPO)は宇宙産業においてこれと類似した画期的な転換点となり得る」と語った。
◇ スペースX出身スタートアップは150社超、126億ドルの資金を調達
スペースXは20年を超える期間にわたり数千人を雇用し、多様なストックオプションを付与してきた。これらのストックオプションは時間の経過とともに行使可能となる。スペースX株式を保有していた社員は今回の上場で大きな利益を得た。投資プラットフォームのヒルドットコム創業者アンドリュー・ベンソンによると、スペースXの企業公開(IPO)で現職と元職の社員約4400人がミリオネアになり得ると推計した。そのうち数十人は純資産が5億ドル(7611億ウォン)を超える可能性があるとみている。
ビジネスインサイダーによれば、スペースXで経験を積んだ人材は宇宙航空のみならず、AI、バイオ、防衛産業、気候テックなど多様な分野で起業している。これらの企業はアンドリーセン・ホロウィッツ、Yコンビネーターなど著名投資家から数十億ドル規模の投資を呼び込んだ。スペースX出身の起業エコシステムを追跡するプラットフォーム、アルムナイ・ファウンダーズによると、スペースX出身者が設立したスタートアップは150社以上に達し、約126億ドル(約19兆1583億ウォン)の資金を調達し、8000件超の雇用を生み出した。
◇ 宇宙技術を基盤にディープテック産業を再編…ユニコーン超の企業価値も
スペースXマフィアは宇宙技術を基盤に次世代のテック産業を再編する企業を起業している。ユニコーンを上回る企業価値を誇る企業も多い。
代表的なスペースXマフィアの企業は、ティム・エリス(Tim Ellis)とジョーダン・ヌーン(Jordan Noone)が共同創業したリラティビティ・スペース(Relativity Space)だ。リラティビティ・スペースは3Dプリンティングでロケットを製造する革新的企業として注目され、企業価値は60億ドル(9兆1290億ウォン)と評価された。ファイアフライ・エアロスペース(Firefly Aerospace)も、スペースX出身のトム・マルクシック(Tom Markusic)が創業し、小型・中型打ち上げ機市場で地位を固め、一時は企業価値が60億ドル(9兆1290億ウォン)に達した。
宇宙で衛星を別軌道へ移す宇宙輸送サービスを手がける「インパルス・スペース(Impulse Space)」の創業者トム・ミュラー(Tom Mueller)もスペースXマフィアとして知られる。ミュラーはスペースXの創立メンバーで推進部門の最高技術責任者(CTO)を務め、ファルコン9とマーリンエンジンの開発を主導した中核人物だ。インパルス・スペースは設立後、10億ドル(1兆5200億ウォン)超を調達し、企業価値は約42億6000万ドル(6兆4803億ウォン)と評価されている。
30億ドル(4兆5630億ウォン)の企業価値を誇るK2スペース(K2 Space)もスペースXマフィアの中核例とされる。K2スペースはスペースX出身の兄弟エンジニア、カラン・クンジュル(Karan Kunjur)とニール・クンジュル(Neel Kunjur)が創業した会社で、従来よりはるかに大型で電力供給能力に優れた超大型衛星プラットフォームを開発している。エイペックス・スペース(Apex Space)もスペースX出身のマックス・ベナッシ(Max Benassi)が共同創業者と設立した企業で、企業価値は23億ドル(3兆5000億ウォン)に達する。同社は自動車プラットフォームのように規格化した衛星バスを量産し、顧客が望むミッション機器だけを搭載すれば即時に打ち上げ可能とするビジネスモデルを進めている。
民間宇宙企業バルダ・スペース(Varda Space Industries)の共同創業者ウィル・ブルーイ(Will Bruey)も、スペースXで宇宙船運用とシステムエンジニアリングを担った人物だ。バルダ・スペースは微小重力環境で医薬品や新素材を製造し、それを地球へ持ち帰る「宇宙工場」事業を進めている。企業価値は15億8000万ドル(2兆4035億ウォン)で、宇宙製造分野を代表するスタートアップとして地位を固めた。ヘルミアス(Hermeus)もスペースX出身のグレン・ケース(Glenn Case)が設立し、極超音速航空機の開発に挑み、企業価値は10億ドル(1兆5200億ウォン)を記録した。
韓国では、パク・ソンヒョンRebellions最高経営責任者(CEO)が過去にスペースXでソフトウエアエンジニアとして勤務した後に帰国し、2020年に会社を創業した。AI推論用ニューラル・プロセッシング・ユニット(NPU)を開発し、韓国を代表するAI半導体企業へと成長した。ビジネスインサイダーはRebellionsを「スペースXマフィア」の企業の一つとして紹介した。Rebellionsは企業価値3兆4000億ウォンが認められ、国民成長ファンドの直接投資第1号企業に選定された。
◇ 「既存の常識を覆し原理から再考…素早く実験し、失敗すれば即時に改善」
スペースXマフィア企業の共通点は、スペースXで体得した「第一原理思考(First Principles)」と迅速な実行文化を身につけていることだ。中核技術を自ら設計・生産する垂直統合戦略と、ソフトウエアよりもロケット・衛星・宇宙船といった実物の技術開発に注力するハードウエア中心のエンジニアリング能力も、スペースXマフィアを貫く特徴と評価される。
第一原理思考はイーロン・マスクが最も強調する思考法である。既存産業の慣行をそのまま受け入れず、問題を最も基本的な物理法則や原理の水準まで分解し、再設計する手法だ。代表例がロケット製造である。かつて宇宙業界はロケットが高価であることを当然視していたが、マスクは材料費は総コストの一部にすぎないのに、なぜ完成品はこれほど高いのかと疑問を呈した。こうした原則により、スペースXは部品を自ら設計・製造し、ロケット再使用技術を導入して打ち上げコストを画期的に下げた。スペースX出身者もこのアプローチを用いた。例えばインパルス・スペースは「宇宙で目的軌道まで移動する過程自体も独立したサービスになり得る」という発想で宇宙輸送市場を開拓した。エイペックス・スペースは衛星を受注生産する代わりに、標準化したプラットフォームを量産するモデルを提示した。
迅速な実行もスペースXの代表的な文化だ。従来の航空宇宙産業は数年かけて設計を終え、その後に一度だけ試験を行う場合が多かった。これに対しスペースXは、素早く作り、試験し、失敗すれば即時に改善する(Build-Test-Fail-Fix)方式を採った。スペースXマフィアの企業であるリラティビティ・スペースは3Dプリンティングを活用し、設計変更から試作までに要する時間を大幅に短縮した.
また、従来の航空宇宙企業は多数のサプライヤーから部品供給を受けて組み立てるのが一般的だったが、スペースXはエンジン、ソフトウエア、電子装置、構造体など中核部品を自ら設計・生産する垂直統合戦略を採用する。この戦略はサプライチェーン依存を減らし、コストと開発期間の短縮に寄与する。特にシリコンバレーの多くのスタートアップがアプリやソフトウエアを基盤に成長したのとは対照的に、スペースXマフィアの企業の大半は複雑なシステムを設計・製作するハードウエア企業である。