「2年前までは人工知能(AI)はクラウドが中心だった。今もAI市場ではクラウドが大きな比重を占めている。ただし日常の変化は結局『エッジAI』の周辺で起きる。直近1年6カ月の間に、より多くの顧客企業がより多くのエッジAIを導入し始めたことを肌で感じている」
アミカイ・ロン テキサス・インスツルメンツ(TI)上級副社長は先月21日に来韓し、ChosunBizとのインタビューでこう語った。ロン上級副社長はエンベデッド・プロセッシングとデジタル光処理(DLP)光学半導体製品を担当している。
米半導体企業TIは電圧・温度など連続的な信号を測定するアナログチップと、機器内でセンサー・通信機能などを制御するエンベデッド半導体分野の強者とされる。TIが保有する約8万個の製品は10万社を超える企業で使われている。2026年1〜3月期の売上高は48億2500万ドル(約7兆1600億ウォン)、営業利益は18億800万ドル(約2兆6800億ウォン)を記録した。
◇ エッジAI市場の拡大に合わせ「エンベデッド・インテリジェンス」戦略を展開
ロン上級副社長は、クラウド上で激しく繰り広げられていたAIの主導権争いが次第に機器内部へと移っていると見ている。エッジAI(データが生成される機器で直接AI機能を実行する技術)による機器性能の向上が日常でも体感され始め、関連市場が急速に拡大しているということだ。TIは機器が自ら判断し行動する「エンベデッド・インテリジェンス」製品を市場に適時供給して成果を上げる戦略を立てた。
ロン上級副社長は「10〜15年前は、いかに多くの機器をクラウドに接続するかが話題だったが、今は各機器がどれほど知的に作動するかがより重要な課題になった」と述べ、「バッテリーをどれだけ効率的に使うか、どれだけ精密かつ安全に判断するかが焦点になっている」と語った。さらに「エッジAIを活用すれば機械がより知的な決定を下せ、ユーザー体験も向上する。コンピューター・スマートフォンはもちろん、洗濯機・冷蔵庫をはじめ電動歯ブラシに至るまで、ますます多くの機器にエッジAIが組み合わされている」と付け加えた。
ChatGPT・GeminiのようなクラウドベースのAIでは、メモリー・演算能力が性能向上を阻害する「ボトルネック」として作用している。ロン上級副社長は種類は異なるが、エッジAIにもボトルネックが表れていると見ている。ロン上級副社長は「顧客企業は各自の領域に関する知識は非常に多いが、AI実装分野の経験が不足している場合が多い」とし、「この知識のギャップがエッジAI拡散のボトルネックとして作用している」と述べた。
TIはこれを解決するため、顧客企業にエッジAI導入の教育と開発ツールを提供している。エンベデッド・プロセッサー向けの統合開発環境(IDE)であるCCスタジオ(Code Composer Studio)に加え、最近はエッジAIスタジオ(Edge AI Studio)も新たに用意した。ロン上級副社長は「AIアルゴリズムの専門知識がなくても望む機能を実装できるプログラムだ」とし、「顧客が実機にエッジAIをデプロイできるよう支援するところまでがTIの役割だ」と明らかにした。
◇ 「エッジAI実現には電力効率の高い製品選択が重要」
ロン上級副社長は、エッジAIの拡大には電性比(電力当たり性能、電力効率)に優れるチップを選ぶことが重要だとした。限られた機器電力で演算などAI実装に必要な性能を最大限に引き出すことが利便性向上につながるためだ。ロン上級副社長は「大電力を消費するチップは発熱も大きく冷却にもコストがかかる」とし、「機器リソースを大規模に使って行うAI演算は製品競争力を低下させる要因だ」と述べた。
TIは顧客企業の低消費電力要求に応えつつ、高いAI演算能力を提供する製品開発に注力している。ニューラル・プロセッシング・ユニット(NPU)「タイニーエンジン(TinyEngine)」や、自動運転車向けAIチップ「TDA5」が代表例だ。
ロン上級副社長は「タイニーエンジンNPUが統合されたTIのマイクロコントローラー(MCU・中央処理装置と関連モジュールを1チップに統合した小型化集積回路)は、従来比でAI推論当たりの遅延時間を最大90倍、エネルギー使用量を120倍以上削減できる」とし、「電力効率に合わせて開発されたTDA5チップは、さまざまな自動運転段階に適用できるのが強みだ」と述べた。
TDA5チップの毎秒当たりの演算数は最大1200兆(1200TOPS・1TOPSは1秒当たり1兆回演算)に達する。1ワット(W)当たり24TOPSの演算をサポートする。完成車メーカーが400TOPSの演算を実装しようとすると150ワット(W)以上を消費する場合が多いが、TDA5は50W未満で400TOPSを実行できる。以下、ロン上級副社長との一問一答。
-韓国にはどのような目的で訪問したのか。
「韓国は革新的な顧客企業が多く、頻繁に訪れる市場だ。顧客がどのような技術を必要としているのか、より良い製品を作るためにTIにどのような支援が必要なのかを聞くために訪問した」
- エッジAI市場で顧客が最も多く要求するものは何か。
「産業によって異なる。すでにエッジAIのユースケースは数百種類に達している。適用分野は違っても、エッジAI導入による効果は確実だ。太陽光発電システムを例に挙げよう。この分野は異常兆候やエラーをどれだけ速く正確に検知するかが重要だ。太陽光設備で配線2本が互いに接触している時間が1ミリ秒(ms)ずつ長くなるほど火災の可能性が高まり得るためだ。エッジAIを適用すれば、精度は従来の85〜90%水準から99%まで高めることができる。
防犯システムも例になる。人が侵入したときはアラームが必要だが、猫が1匹入ってきた場合まで対応する必要はない。エッジAIを活用すれば、人の侵入と猫の侵入を区別できる。状況に応じて機器が反応できる環境を構築できるということだ」
- 近年の中東での戦争や関税などでサプライチェーンの安定性も重要になっている。
「顧客に良い製品を定められた時点で届けることは極めて重要だ。TIは自社の生産能力を保有しており、過去5年間、生産能力を維持・拡大するため継続的に投資してきた。テキサス・ユタ・マレーシア・フィリピンなどに生産拠点を置いており、安定的な製品供給が可能だ。そのおかげでAIデータセンター需要の急増に対応できた。
関税のような規制は競合他社も同じ環境にさらされているため、特定企業だけが有利または不利だとは言い難い。ただし規制環境は時間がたつほど複雑になっている。TIはこうした複雑性に適応しながら競争力を維持しようとしている」
- エンベデッド・インテリジェンスで顧客に提供しようとしている価値は何か。
「『顧客がより良いシステムを作れるよう支援すること』と要約できる。何がより良いシステムかは顧客が選択する。TIは多様な製品と高い品質、開発ツール、教育を通じて、顧客が望むシステムを作れるよう支援している」