メモリー半導体価格の急騰が世界的に電子・IT機器のインフレを誘発するなか、ノートPC、モニター、タブレットなどIT向けOLED(有機発光ダイオード)市場の成長にもブレーキがかかっている。大規模需要を見込み巨額の設備投資を断行したサムスンディスプレイと中国BOEは、需要減速の可能性が高まるにつれ、市場のゲームチェンジャーとして準備してきた第8.6世代OLED生産ラインの早期稼働に対する負担が増したという見方だ。
20日、業界によると、オムディア、トレンドフォースなど国内外の主要市場調査会社は、最近のメモリー価格上昇がPCなど電子機器の原価構造で占める比率を押し上げ、主要企業がこれを最終販売価格に転嫁した場合、買い替え需要が弱まる可能性があるとみている。とりわけ普及帯・中低価格帯で価格感応度が高まれば、メーカーがプレミアムモデル中心に製品ミックスを再編したり、投入テンポを調整したりする余地が生じる。
IT向けOLEDを普及させるには、既存のプレミアム製品群だけでなく中低価格帯でもOLED採用が拡大し、規模の経済を形成する必要がある。事業者が言及するいわゆる「ボリューム区間」の形成が可能になるという話だ。両社もこの流れに合わせ、今年下半期の第8.6世代工場稼働を準備してきた。だが他の部品、特にメモリー価格の暴騰が前例のない水準で続き、メーカーも容易にOLEDを採用しにくい状況に追い込まれた。
第8.6世代OLED工場は、グローバルディスプレイ市場の重要な変曲点と見なされてきた。第8.6世代OLED(通常2250×2600mm原板)ラインは、既存の第6世代OLED(1500×1850mm)中心の工場よりも、IT向けパネルを「より安く、多く」生産するための生産性設計が核だ。最大の違いは原板(マザーガラス)のサイズである。市場調査会社は、第8.6世代は主流の第6世代に比べガラス基板が約2.2倍大きく、同じ投入量でもより多くのパネルを取り出せるため、生産効率を高めて製造原価を下げられるとみている。
ただし、これはIT向けOLED市場の拡大と需要が堅調であるという前提が必要だ。実際、従来の液晶表示装置(LCD)が主流のIT向けディスプレイ市場で、OLED比率は着実に高まってきた。プレミアムノートPCやタブレットでOLED採用が増え、ゲーミング・コンテンツ制作向けモニターでもOLED需要が拡大する流れが続いている。
問題はスピードだ。トレンドフォースは、メモリー発のインフレが長引くほど、OLEDを搭載したより高価な完成品に対する需要の弾力性が低下し、結果的にOLEDの拡大は「プレミアム中心の偏り」が強まる一方で、中価格帯ラインアップへの波及が遅れる可能性があるとみている。大手電子・IT企業が生産コスト上昇の負担から、OLED採用比率を減らすか先送りする公算が大きくなったということだ。
こうした環境変化は、サムスンディスプレイ、BOEなどすでに大規模投資を断行した企業にとって、新規ライン戦略に直接的な負担として作用しかねない。国内大手ディスプレイ企業の関係者は「第8.6世代OLEDはIT向け中大型パネルを狙った次世代投資であり、一定水準以上の安定的な需要が前提となって初めて、稼働率と歩留まりの改善によって原価を下げる好循環が可能になる」と述べ、「完成品価格の上昇で市場が揺らげば、初期ランプアップ(稼働率の引き上げ)局面で需要空白のリスクが高まり、ライン稼働のタイミングや稼働率調整を巡る判断が難しくなる」と説明した。
一方、業界では当面、IT OLED市場は成長はするものの、依然としてプレミアム製品群中心にとどまる経路をたどる可能性が指摘されている。メモリー価格が緩和しなければ、OLED市場の本格的な開花が先送りされるという見方だ。これにより、サムスンディスプレイとBOEが期待をかけていたIT OLEDの大型化局面が、「メモリー高騰」という変数によってスピード調整を余儀なくされるとの解釈が出ている。