米国のグリーンランド併合推進とあわせて2025年の世界経済フォーラム(WEF・ダボス会議)を熱くした最大の話題は「人工知能(AI)」であった。これまでダボス会議を「退屈だ」と公然と批判してきたイーロン・マスク テスラ最高経営責任者(CEO)から、人工知能(AI)チップ市場を主導しているジェンスン・フアン エヌビディアCEO、ノーベル化学賞受賞者のデミス・ハサビス グーグル・ディープマインドCEOまで、米国ビッグテック企業の首脳が今年の行事に出席し、AI産業の現状と展望を示した。
彼らは人間水準の知能に匹敵する汎用人工知能(AGI)到達時期とAIバブル論、AIが雇用に及ぼす影響をめぐりそれぞれ異なる見解を示した。こうした食い違う診断から各社の戦略を読み取れるとの分析が出ている。
◇ マスク「ヒューマノイドロボットが働き人類は豊かに暮らす」
マスクCEOは今年初めて出席したダボス会議で「われわれは人類史上最も興味深い時代に生きている」として「AI楽観論」を展開した。ラリー・フィンク ブラックロック会長との対談で「おそらく年末までに人間より賢いAIが登場し、5年以内にはAIが人類全体の集団知性を上回る可能性がある」と見通した。AIの性能が急速に向上していることから、ヒューマノイドロボットの頭脳の役割を担うフィジカルAIの時代も到来するとみた。
とりわけAIとロボティクス(ロボット工学)の潜在力は無尽蔵だと評価した。マスクCEOは「無料に近いAIと結びついたロボットが登場するなら、前例を超える水準のグローバルな経済爆発が起き、すべての人の繁栄につながる道が開かれる」と語った。さらに「将来はロボットの数が人の数を上回る」とし、ロボットが産業現場で業務を担い、若年人口が減る高齢化社会では高齢者のケアを担当して低コストで労働力不足を解決するだろうと予測した。
ロボットの大衆化の時期を問うフィンク会長の質問には「おそらく来年末ごろにはヒューマノイドロボットを一般大衆に販売する」と答えた。マスクCEOはテスラのヒューマノイドロボット「オプティマス」が「すでに工場内の単純作業に一部活用されており、年末からはより複雑な作業を遂行する」と述べた。マスクCEOはオプティマスが将来テスラの企業価値の80%を占めるとみてロボットの開発と投資を拡大している。マスクCEOが率いる生成AIスタートアップのxAIも数兆ウォン規模の赤字を計上したが、同社はその理由としてオプティマスのようなヒューマノイドロボットを駆動するAIを構築するため大規模投資を断行したためだと説明した。
一方でAGIに到達するには時間がさらにかかるとの意見も出た。ハサビス グーグル・ディープマインドCEOは人間水準のAGIが「5〜10年以内に登場する可能性を50%とみる」と予想した。ハサビスCEOはAGIを人間の認知能力をすべて再現できるAIシステムと定義したが、現在のAIは継続学習、長期の計画・推論能力、創造性などの能力が不足しており人間の知能とは「隔たりが大きい」と診断した。そのうえでAGIを実現するには単に現在のAIモデルをより大きく速くするだけでは不十分で、新たなブレークスルーが必要だと強調した。さらに「AGIをマーケティング用語として消費してはならない」として、AI産業に関するバラ色の見通しには慎重な立場を示した。
フェイスブックの親会社Meta(メタ)のAI最高科学者出身であるヤン・ルカン ニューヨーク大学教授は、短期でのAGI実現の見通しに反論した。生成AIの基盤となる大規模言語モデル(LLM)は物理世界を理解できないため人間水準の推論能力を備えることはできず、現実で起きる複雑な状況を認識し予測する「ワールドモデル」を開発しなければAGI達成は難しいとした。「AI四大碩学」の一人とされるルカン教授は、ワールドモデルの研究と商用化に注力するAIスタートアップ「アドバンストマシンインテリジェンスラボ(AMIラボ)」を設立するため資金調達に乗り出した。
◇ 「AI、6カ月以内にソフトウエアエンジニアを代替」との見方も
AIが雇用に及ぼす影響とAIバブル懸念をめぐっても侃々諤々の議論が交わされた。「オープンAIの対抗馬」とされるAIスタートアップAnthropicのダリオ・アモデイCEOは「2026〜2027年にはノーベル賞受賞者級の知的能力を備えたAIモデルが登場する」という従来の見解を維持した。
アモデイCEOは、AIが人間水準に賢くなることでホワイトカラーの知識労働者の雇用を脅かすと示唆した。アモデイCEOは「AIがソフトウエアエンジニアの業務の大半を遂行するようになる時点まで、わずか6カ月から12カ月しか残っていない」と述べた。アモデイCEOはAnthropicの内部活用事例を挙げ、「エンジニアは自らコードを書かずAIに指示して後から修正している」と語った。さらに「AIが自らコードを書き研究を遂行して、より優れたモデルを作る『ループ(loop)』が閉じる瞬間が来れば、進化の速度は人々の想像よりはるかに速くなる」とした。
ハサビスCEOも「今年から新入社員とインターンシップの雇用にAIの影響が本格化する」とし、グーグル・ディープマインドでも新卒採用が以前ほど活発ではないと述べた。
一方でジェンスン・フアン エヌビディアCEOは、AIが雇用を消滅させるという主張に反論した。フアンCEOは「AIブームは人類史上最大規模のインフラ構築を始めさせた」と述べ、世界的に進む大規模なAI投資が新たな雇用を創出すると予測した。フアンCEOは「データセンター建設需要のおかげで配管工や電気工、建設労働者が億単位の年収を得られる可能性がある」とし、「看護のように人手不足に悩む分野では事務処理を支援するのに役立つ」と説明した。
AIは単一の技術ではなく、エネルギー、チップ・コンピューティングインフラ、クラウドデータセンター、AIモデル、アプリケーションなどを網羅する5段階の産業であり、すべての段階を構築し運用しなければならないため、建設業、製造業など経済全体にわたり雇用を創出するという説明である。
フアンCEOは市場で提起される「AIバブル論」も一蹴した。フアンCEOは「AIバブルの懸念が出るのは投資規模があまりに大きいからだ」とし、「これまで数千億ドルを投入したが、さらに数兆ドルを投じてAIインフラを増強しなければならない」と述べた。さらに「AIは電気や道路のようにすべての国家が備えるべき必須インフラだ」と強調した。
このほか他の首脳はAI産業にバブルが生じ始めたことを認めた。ブレット・テイラー オープンAI取締役会議長は「AI産業にはおそらくバブルが生じているが、これは良いことだ」と語った。テイラー議長は「競争者が多ければ最高の製品を選別するのに役立つ」とし、AI産業が調整と『玉石混交の選別』を経ればオープンAIの真価が明らかになると自信を示した。
ハサビスCEOは「何の製品や技術もない新興スタートアップが数十億ドルに達する初期資金をかき集めているが、これは持続可能ではない」とし、一部のAI投資はバブルのように見えると評価した。ただしグーグルの資金力と技術力が競合を圧倒しているうえ、AIモデル「Gemini3」の需要が堅調で「(後に)バブルがはじけてもグーグルは大丈夫だ」と述べた。