「未来の戦争は『弾丸のない戦争』になる。物理的な前線は消え、デジタルインフラが最前線になるという意味である。発電所が止まり交通が麻痺するサイバー包囲の中で、敵は物理的な武力をほとんど用いずに降伏を引き出すだろう。」
9日(現地時間)にイスラエルのテルアビブ大学で開かれた「サイバーウィーク2025」の基調講演で、イスラエル国家サイバー局(INCD)のヨシ・カラディ局長は今後の戦争の様相をこのように展望した。
今年で15回目を迎えたサイバーウィークは、毎年世界中のサイバーセキュリティ専門家と政財界関係者数千人が集うグローバルなサイバー安全保障カンファレンスである。当初、今年の行事は6月に開催される予定だったが、ハマスのロケット砲攻撃がテルアビブを脅かすなど戦況が激化し、一度延期された末に幕を開けた。
今回の行事でイスラエルの前職・現職の安保責任者らは、物理的打撃とサイバー攻撃が結合した段階を越え、サイバー攻撃だけで戦争の勝敗が分かれる時代に突入していると分析した。彼らはその解法として、個別機関の対応を越えた「国家的統合防護網」を構築すべきだと口をそろえた。
現在INCDは、国家インフラをリアルタイムで統合防御するAI基盤プラットフォーム「サイバードーム」プロジェクトを推進中である。飛来するミサイルを迎撃する防空網「アイアンドーム」の概念をサイバー空間にそのまま適用したものである。
◇ 第4世代「サイバー基盤戦争」…「電力・水道を断ち偽情報で恐怖を助長」
この日ヨシ・カラディ局長はサイバー戦争の進化の様相を第4世代に区分し、間もなく第4世代である「サイバー基盤戦争(CBW・Cyber Based War)」段階が到来すると診断した。
INCDの分類によれば、第1世代のサイバー戦争は物理的戦場とサイバー戦場が完全に分離され、相互干渉なく併行していた時期であった。第2世代からは二つの戦場が相互作用し始め、サイバー攻撃は武器システムや生産ラインといった物理的機能を撹乱し、物理的攻撃はサーバー・ルーターといったデジタルインフラを狙い始めた。第3世代は現在進行中の「ハイブリッド戦争」段階で、物理的施設への打撃とサイバー攻撃が同時に行われる。
カラディ局長は「第4世代であるCBWはサイバー空間で始まりサイバー攻撃で終わる戦争だ」と述べ、「敵はミサイルを撃たずとも、電力網や水道、通信を麻痺させて国家機能を事実上無力化できる」と語った。
カラディ局長は、イランがイスラエル後方司令部を装って偽の災害メッセージを大量送信した事例に言及し、こうした心理戦が中核インフラ撹乱と結びつく場合、国家の正常な運営は難しくなると警告した。
◇ 「AI汚染もリアルタイムで検知・遮断するデータドームを構築すべきだ」
第4世代戦争の脅威を増幅させる起爆剤として、安全保障の専門家たちは一斉に人工知能(AI)を挙げた。ナフタリ・ベネット前イスラエル首相は、AI技術が非対称脅威を指数関数的に拡大していると指摘し、「データドーム」の構築を提案した。データドームはINCDが推進中のサイバードームから一歩進め、AIモデルの汚染を防ぎ偽ニュースまでリアルタイムで検知・遮断する統合防護壁を意味する。
ベネット前首相は「過去のサイバー攻撃が単に飛来して爆発する迫撃砲の水準だったとすれば、AI時代の攻撃は自ら考え適応する特殊要員を浸透させるのと同じだ」と比喩した。人が逐一コードを書いて攻撃するのではなく、自律的なAIエージェントがシステムの脆弱性を自ら見つけ出して突破するという意味である。
ベネット前首相は「AIハッカー1億人が同時に浸透してインフラを攻撃し、精巧な偽情報で世論を操作する『パーフェクトストーム』(超大型危機)が来る可能性がある」と懸念した。続けて「個別企業や機関の防御には限界があるため、国家レベルでAIまでカバーする統合防護壁を構築すべきだ」と述べた。
◇ 「ハマスの10・7攻撃の被害は人間の判断の問題…運用能力が最終防衛線」
この日の行事では、このような先端技術が役割を果たすには人間の判断力が裏打ちされねばならないという自省論も提起された。2023年10月7日にハマスが数千発のロケットとパラグライダーなどを動員してイスラエル南部に奇襲浸透した当時、イスラエル側では1200余りが死亡し250余りが拉致された。
「イスラエル・サイバー安保の大御所」と呼ばれるイサク・ベン・テルアビブ大教授(ブラバトニク・サイバー研究センター長)は「ハマスの10・7攻撃を前にしても、サイバー・技術システムが一部兆候を前夜から捉えていたが、軍指揮部と国家指導部がこれを実際の全面戦開始の信号として受け止めず、備えの態勢が引き上げられなかった」と述べた。技術的兆候は検知されたものの、指揮部の判断の失敗が初期被害を拡大させたという説明である。
一方、イランが発射したミサイルと自爆型UAV(無人機)を迎撃する過程では、イスラエルの電子戦とサイバー能力が物理的迎撃体系と結合し、大半の脅威を国境外で遮断した。これについてベン教授は「良い車と燃料があっても運転手が誤れば無用であるように、高度化した技術をどう運用するかは結局、指揮部の判断と明確な状況認識にかかっている」と述べた。