SKハイニックスが顧客向けカスタムメモリーの開発能力強化に乗り出した。人工知能(AI)サービスの中心が既存の学習から推論へと移り、これを駆動する半導体チップの構成も変化している。グーグルのテンソル処理装置(TPU)のように、グローバル大手テックは自社AIサービスに最適化した自社設計のチップを打ち出している。これによりAIを実装するうえで各工程を担う部品ごとに最適化されたメモリー仕様が求められる傾向だ。
SKハイニックスはこのような市場変化に対応し、最近「フルスタックAIメモリークリエイター」というビジョンを示した。標準型メモリーを単に供給する段階から進み、AI半導体の設計段階から顧客企業と協業して「カスタム製品」を作り、業績につなげる狙いだ。
SKハイニックスは5日に中途採用の公示を新たに掲出し、「カスタムメモリー設計」の専門人材の確保に乗り出した。15日まで募集する今回の中途採用は、▲高帯域幅メモリー(HBM)回路設計 ▲フィジカルデザイン(Physical Design) ▲HBMデジタルデザイン(Digital Design)部門で構成される。
SKハイニックスは、とりわけ「顧客向けカスタム製品」に関わるデジタルデザイン部門について、設計(RTL Design)・前工程(Front-end)・後工程(Back-end)分野で中途人材を募集する。現在技術優位を示すHBM領域の製造プロセス全般で「メモリークリエイター」能力を強化する狙いだ。HBMはエヌビディアのグラフィックス処理装置(GPU)などに搭載される高性能DRAMで、AIの演算・推論に不可欠な部品である。デジタルデザイン職種は、メモリーを制御する中枢となる「ベースダイ」を顧客企業の要望に合わせて最適化する役割を担う。
SKハイニックスは今回の中途採用公示で「HBMデジタルデザイン設計」部門について、「顧客とコミュニケーションし要件を具体化し、詳細スペックを作成する役割を担う」とし、「顧客企業の要望に基づきRTL(データフロー・論理演算中心のモデリング手法)設計を進め、関連部門と知的財産(IP)の動作を定義する」と説明した。
SKハイニックスはデジタルデザイン部門以外の中途採用でも「顧客向けカスタム能力」を強調した。HBM回路設計部門については「世界最高のAI顧客企業と協力し、HBM技術をリードしている組織」と説明した。フィジカルデザイン部門は「ファウンドリーの製造設計キット(PDK)と電子設計自動化ツール(EDA)を基盤に『フルカスタムデザイン』(Full Custom Design)を実装する業務を担う」とした。
◇ 顧客企業との接点を拡大し「カスタム設計」組織を強化
SKハイニックスは4日に実施した「2026年組織改編・役員人事」でもカスタムメモリー事業の拡大に焦点を当てた。会社はカスタム(カスタムメイド)HBMパッケージングの歩留まり・品質を専担する組織を別途構築し、「カスタムメモリー市場の拡大に適時対応するための変化」とした。
自社AIチップの設計に乗り出したグローバル大手テックとの接点も増やす。米州地域にHBM専担の技術組織を新設し、顧客に対する迅速な技術支援に乗り出す方針だ。米国インディアナ州の先端パッケージング工場の構築など世界の生産競争力強化を専担する「グローバルインフラ」組織も新設する。
米国・中国・日本など主要拠点には「グローバルAIリサーチセンター」を新設し、人材を招聘してシステム研究能力を引き上げる構想だ。また、顧客中心のマトリクス(Matrix)型組織である「インテリジェンスハブ」も新たに設ける。この組織は顧客・技術・市場情報をAI基盤のシステムで統合管理し、顧客企業に「期待を上回る価値提供」を目的とする。
SKハイニックスが狙う「カスタムメモリー」は、すでに産業現場に反映されている。エヌビディアが2026年の量産を目標に最近公開した次世代AI半導体プラットフォーム「ルビン(Rubin)」が代表的だ。この製品はGPUにHBM4(第6世代)を、中央処理装置(CPU)にLPDDR5X(低消費電力DRAM)を、CPX(AI推論特化型アクセラレーター)にはGDDR7(グラフィックDRAM)を搭載した。
半導体業界の関係者は「CPUにDRAMとNANDを付ける千篇一律なメモリー構造が崩れ、『機能別のメモリー最適化』へと移行するなか、これに見合う設計・製造能力の確保が将来の競争力を左右する要因になっている」と語った。