グーグルの人工知能(AI)モデル「Gemini3」がOpenAIの「ChatGPT」を脅かす性能に加え、AI半導体市場を独占しているエヌビディアのグラフィックス処理装置(GPU)を使用していないと伝わり、グーグルのテンソル処理装置(TPU・Tensor Processing Unit)に注目が集まっている。一部では、TPUがエヌビディアのGPUをより効率的かつ低コストで代替可能だという主張も出ている。
ジェンスン・フアンエヌビディア最高経営責任者(CEO)もこれを意識したのか、異例にもグーグルのTPUをけん制する発言をした。フアンは25日(現地時間)、ソーシャルメディア(SNS)Xの公式アカウントを通じて「グーグルはAI分野で大きな前進を遂げた」としつつも、グーグルのTPUよりGPUが依然として先行する技術である点を強調した。また、グーグルがTPUでAIモデルを構築するにしても、依然としてエヌビディアのGPUを必要とするだろうとの自信も示した。
◇ AI業界を驚かせたGemini3、GPUなしで可能か
AI半導体市場を独占してきたエヌビディアに対抗しようとする動きが過去になかったわけではない。グーグルだけでなくマイクロソフト(MS)、テスラ、アマゾンなどビッグテックは、GPUの代替開発に向けて長年自社設計のチップ研究を進めてきた。これらの一部は実際にAI学習モデルに用いられ、特定分野ではGPUより優れた効率を示したケースもあった。
それではエヌビディアのGPU独占構図に地殻変動は起きるのか。結論から言えば、専門家は当面は不可能との立場だ。まず、グーグルのGemini3がGPUなしでTPUだけで構築されたという主張自体に誤りがあるとの分析が出ている。
国内AIファブレスの高位関係者は「Gemini3がTPUで訓練できる背景には、長年にわたりグーグルがエヌビディアのGPUを基盤にデータとフレームワークを訓練してきたことがある」と述べ、「数年間のAI研究やモデル、最適化手法、分散学習などあらゆる経験がGPUを基盤に形成されてきており、Gemini3はそのデータ基盤をTPUに最適化したものだ」と説明した。Gemini3がGPUなしで開発されたという主張は正しいとは言い難いという説明である。
GPUとTPUが概念的・技術的にまったく異なるハードウェアであることを理解する必要がある。GPUは汎用プロセッサで、画像、映像、シミュレーション、大規模言語モデル(LLM)の学習・推論がすべて可能な「万能選手」である。とりわけAIサービス開発に必要なソフトウェア生態系がGPUを中心に形成されており、AIインフラを構築する上でGPUは代替不可能なハードウェアである。ただし価格が高く、電力効率などの問題で購入と運用コストが過度にかかる。また、単純なAIサービスにすべてGPUを使用するのは、サービスに対してインフラが「オーバースペック」だという指摘も継続的に提起されてきた。
グーグルがTPU開発を始めた理由も同じ文脈にある。グーグルも相当部分のデータセンター学習モデルをGPUに基づいている。ただ、GPU価格が際限なく高騰しデータセンター投資コストが過度になる中、苦心の末に出てきたのがTPUである。初期のTPUはYouTube、Gmail、グーグル検索などに最適化した形で開発された。すなわち、グーグルのサービスに最も適した費用効率の高いチップを開発しようという趣旨で作られたというわけだ。
イ・ビョンフンPOSTECH電子電気工学科教授は、エヌビディアとグーグルTPUの競争を「独占崩壊」というより「市場拡大過程での役割分化」と解釈した。イ教授は「人工知能の学習はこれまでGPUがほぼすべてを担ってきたが、今後AI応用が細分化されるほど、特定作業に合わせたNPU(神経網処理装置)・TPUのような特化チップの効率性が上がらざるを得ない」とし、「GPUが一手に担っていた仕事を、徐々に特化チップが一部代替する方向に進む」と述べた。GPUに集中していたAIインフラ投資をより費用効率的に変えるため、GPUとTPU、NPUを組み合わせて使う方式に投資の方向が変わっているということだ。
◇ コスト削減の「ブローカー」として浮上したブロードコム
ブロードコムはグーグルやメタのような企業の投資費を抑える「仲介者」の役割を担っている。実際、グーグル、メタにはAI半導体を設計・開発し、ファウンドリー(半導体受託生産)まで任せられるだけの力量が不足している。エヌビディアのように半導体設計の専門人材を数千人抱える企業とは、そもそも比較自体が不可能だ。グーグルがTPU開発のために運営するチームも100人未満の小規模だとされる。
イ教授は「ブロードコムはNPUのようなエンジンを直接作って競争する会社というより、複数社のNPUを載せられるXPUプラットフォーム、いわば『車の外殻』を提供する会社だ」と述べ、「Rebellions・FuriosaのようなNPU企業がエンジンを持ってくれば、ブロードコムはそのエンジンを搭載できる車体を作ってやる構造だ」と語った。続けて「TSMCが顧客と競争せず製造だけ行うように、ブロードコムも『私はあなたと競争しない。その代わり安く、うまく作ってやる』というポジションを取っている」と説明した。
同氏はこの流れの中で「結局、ブロードコムを中心としたXPU連合軍とエヌビディアがぶつかる構図ができあがる」としつつも、これはゼロサムゲームではないと強調した。イ教授は「いまAI半導体市場が100から1000へと拡大している最中で、20〜30%を奪われたとしてもエヌビディアが直ちに崩れる構造ではない」と述べ、「エヌビディアがGPUで独占していた時代から、ブロードコム連合軍と複数のNPU企業がともに市場を拡大していく方向に向かう」と展望した。
このような競争は韓国企業には市場拡大の機会でもある。キム・ジョンホKAIST電気及び電子工学部教授は「エヌビディアのGPUはCUDAエコシステムのおかげで汎用性が高く、当面は代替が難しい」とし、「TPUは特定モデルに最適化する方式であり、互いに進む道が異なる。AI市場が成熟するにつれて競争が多元化する出発点だ」と説明した。
続けて「GPUであれTPUであれ、高性能モデルを動かすには高帯域幅メモリー(HBM)が必須だ」とし、「HBMを供給できる企業はサムスン電子・SKハイニックス・マイクロンのみであり、国内企業にはむしろ機会だ」と述べた。