ドナルド・トランプ米国大統領の関税政策を公然と批判していた経済学者が国際通貨基金(IMF)主席エコノミストに事実上内定していたものの、土壇場で脱落したと伝えられた。米国がIMFの最大株主であるなか、トランプ政権の経済政策に批判的な経済学者の発言が人事に影響を及ぼしたとされ、人選の公正性をめぐる論争が提起されている。
10日(現地時間)フィナンシャル・タイムズ(FT)は、今回の人選過程に詳しい関係者を引用し、IMFがリカルド・レイス(Ricardo Reis)ロンドン・スクール・オブ・エコノミクス(LSE)教授を新任主席エコノミストに内定し任命発表を準備していたが、土壇場で決定を覆したと報じた.
IMF主席エコノミストは100人を超える経済学者で構成される組織を率い、IMFの主要政策アジェンダを設定することに関与するポストである。正式職名は経済顧問兼調査局長だ。
当初IMFは今夏にレイス教授をこのポストに任命する発表を準備していた。しかしレイス教授が過去にトランプ大統領の関税政策を批判した発言が確認され、土壇場で方向転換したと、事情に詳しい関係者3人がFTに述べた。
レイス教授はポルトガルと国際メディアで経済懸案に関する意見を活発に表明してきた経済学者だ。昨年4月にトランプ大統領がいわゆる「解放の日」関税を発表した後、ソーシャルメディア(SNS)X(旧ツイッター)を通じて、関税負担が米国の消費者に跳ね返り新たなインフレを誘発すると警告した。1カ月後の5月にはポルトガルのシンクタンク、フランシスク・マヌエル・ドス・サントス財団のポッドキャストでも、レイス教授は「関税のために米国の物価が上がる」とし、「関税が輸入品の価格を即座に押し上げ、米国内の生産もより困難で、より高コストで、より非効率にする」と述べた。
IMFは英国の中央銀行であるイングランド銀行(BOE)の金融政策委員を務めたシルバナ・テンレイロ(Silvana Tenreyro)LSE教授を主席エコノミストに任命した。テンレイロ教授は先月10日から業務を開始した。テンレイロ教授もまた、関税が経済成長に否定的な影響を及ぼすとの見解を示してきたが、FTはレイス教授に比べて公然たる批判の強度は低かったと伝えた。
IMFの上級職人事はクリスタリナ・ゲオルギエバIMF専務理事が決定する。ただし米国はIMFの最大株主であり、人事や政策などに非公式ながら強い影響力を行使し得るとFTは説明した。IMFによると米国の議決権は全体の16.49%で加盟国の中で最も大きい。2位の日本(6.14%)と3位の中国(6.08%)の2倍を超える水準だ。全体の17.42%に達する米国のIMF出資持分も加盟国の中で最大である。
とりわけレイス教授の任命が土壇場で流れると、人選過程を聞いた一部関係者の間では、トランプ政権と関係のある経済学者が主席エコノミストに任命されるのではないかとの懸念も出た。ただしテンレイロ教授が最終的に任命され、こうした懸念はやや沈静化したとFTは伝えた。
IMFは具体的な人選過程については言葉を慎んだ。IMF報道官はFTに「慣例上、他の候補の身元と人選過程の具体的内容は公開しない」とし、「主席エコノミストの選抜過程は厳格な競争手続きを経て進めた」と明らかにした。レイス教授はこれに関するFTの照会への回答を拒否した。
FTは、今回の件がトランプ政権の貿易政策を批判してきた経済学者と学界に対する姿勢をめぐる広範な懸念を示す事例だと指摘した。経済政策に関する学術的見解と公の発言が国際機関の上級職人選で不利益として作用し得るという論争に火をつけた格好である。
実際にトランプ大統領は昨年、ゴールドマン・サックスのヤン・ハツィウス(Jan Hatzius)主席エコノミストが関税は米国経済に悪影響を与えると分析すると、デービッド・ソロモン、ゴールドマン・サックス最高経営責任者(CEO)にハツィウスを解雇するよう公然と要求した。今年はトランプ大統領の経済顧問であるケビン・ハセットが、米国企業と消費者が関税コストの大半を負担しているとする報告書を出したニューヨーク連邦準備銀行の経済学者を「懲戒すべきだ」と主張し、その後当該発言の一部を撤回した経緯もある。