欧州を代表する移動体通信事業者4社が、衛星と携帯電話を直接接続するサービスの提供に向けた共同協力策を進める。イーロン・マスクが率いる米国スペースXの衛星インターネットサービス「スターリンク(Starlink)」が市場で影響力を強めるなか、欧州連合(EU)が域内事業者向けに割り当てる2㎓(ギガヘルツ)の衛星周波数を共同で確保しようとしているためだ。
7日(現地時間)ブルームバーグ、ロイター通信などによると、ドイツテレコム(Deutsche Telekom・ドイツ)とオレンジ(Orange・フランス)、ボーダフォン・グループ(Vodafone Group・英国)、テレフォニカ(Telefonica・スペイン)は、EUの衛星周波数入札に共同で参加するためのコンソーシアム構成を初期段階で協議している。
各社が関心を寄せるのは、衛星と携帯電話を直接つなぐ「D2D(Direct-to-Device)」市場である。D2Dは通信衛星が携帯電話と直接信号をやり取りする方式だ。移動通信基地局が届かない山間部や海上でも通信でき、災害で地上通信網が途絶した場合にも活用できる。
EU欧州委員会は2㎓帯がD2Dサービスに適しているとみている。現在の2㎓衛星周波数の利用権限は2027年5月に満了する予定だ。EUはその後、新たな事業者を選定し、欧州全域で衛星移動通信サービスを提供できるようにする計画である。EUレベルで事業者を選定すれば、加盟国ごとに個別の許認可を受けることに伴う規制負担も軽減できる。欧州の移動体通信事業者4社は周波数を確保すればD2Dサービスを提供する計画だ。
ただし、コンソーシアムの構成や実際の入札参加の可否など最終的に決まったことはまだない。ブルームバーグ、ロイター通信などによると、ボーダフォンとオレンジ、テレフォニカはこれに関する問い合わせへの回答を拒否した。ドイツテレコムも特段の見解を明らかにしていない。
欧州の通信事業者が歩調を合わせようとする背景には、スターリンクの影響力拡大がある。スペースXは既存スマートフォンと衛星を直接接続する「D2C(Direct-to-Cell)」事業を拡大している。専用の衛星電話や専用アンテナではなく、既存のLTEスマートフォンをそのまま利用するのが特徴だ。空が見える場所であれば、携帯電話のハードウェア・ファームウェアを変更したり、別途アプリケーション(アプリ)をインストールしたりしなくても衛星と接続できる。
スターリンクは米国のTモバイルをはじめ、日本のKDDI、カナダのロジャーズ、オーストラリアのオプタス、テルストラなど各国の移動体通信事業者と協業し、関連サービスの拡大にも乗り出した。スペースXによると、3月末時点でスターリンクのモバイルサービスは約30カ国で月間740万台の機器にサービスを提供した。
とりわけEUは、衛星通信市場で米国企業への依存度が高まることを警戒している。先の5月、EUは2027年以降に2㎓衛星周波数を利用する事業者をEUレベルで新たに選定する方策を提案した。ブルームバーグによると、EUが商用として割り当てる周波数の一部は、欧州企業が過半の持分を保有する域内事業者のために残しておく案が進んでいる。ドイツテレコムを含む欧州の移動体通信事業者4社はこの枠を共同で確保する方策を検討中とされる。
これはEUが推進する独自衛星通信網「アイリス2(IRIS²)」戦略とも接点がある。アイリス2は低軌道と中軌道などに計290基の衛星を配備し、欧州の政府や企業などに通信サービスを提供する事業である。スターリンクなど米国ビッグテック企業への依存度を下げ、欧州の独自の衛星通信能力と「通信主権」を確保しようとする動きと読める。EU欧州委員会は、欧州の衛星通信企業SESとユーテルサット(Eutelsat)、ヒスパサット(HispaSat)などが参加した「スペースライズ(SpaceRISE)」コンソーシアムに、アイリス2の構築・運用のための12年契約を委ねた。
EU欧州委員会は、アイリス2と連携する周波数のうち3分の2は商用に割り当て、これをEU事業者と非EU事業者が折半して使用する方針である。この際、ドイツテレコムを含む4社がコンソーシアムを構成する場合、EU事業者に割り当てられた周波数への入札を行う予定だ。
今回の周波数割り当てをめぐる競争は、衛星通信産業を越えてEUの技術主権にも関わるというのが業界の主な見方である。EU欧州委員会は2㎓の衛星周波数を、商業的なイノベーションだけでなく安全保障・国防にも重要な戦略資産と位置づけている。欧州通信4社のコンソーシアム構想が現実化すれば、スターリンクが先行する衛星—携帯電話市場をめぐる競争も一段と激しくなる見通しだ。