米国を圧迫するために取り出したイランの「ホルムズカード」が自滅の一手になっている。イランは世界の原油と液化天然ガス(LNG)の5分の1が通過するホルムズ海峡の運航を制限し、国際エネルギー市場に衝撃を与えて米国から譲歩を引き出そうとした。だがエネルギー市場が代替供給源を確保した一方で、米国の海上封鎖によりイランの中核の資金源である原油輸出は急減した。ここに米国がイランへの金融制裁まで強化し、外貨調達にも困難を抱えている。
7日(現地時間)ロイター通信・ウォールストリートジャーナル(WSJ)などによると、米国と湾岸地域の当局者は、イランが相手国に与える経済的被害よりも自ら受ける被害の方が大きくなっていると見ている。イラン系米国人のアラシ・アジジ米国クレムソン大学歴史学科准教授はロイターに「力の均衡がイランにやや不利に傾いた」とし、イランがホルムズ海峡を完全に閉鎖できないことで米国を相手に有していた交渉上の優位(レバレッジ)も一部弱まったと分析した。
イランは2月末に戦争が始まって以来、ホルムズ海峡の船舶運航を制限してきた。世界のエネルギー供給の要衝を塞ぎ、原油価格を押し上げて米国から譲歩を得ようとする狙いだった。しかし世界のエネルギー市場が代替供給源を確保するなどこの状況に適応し、イランの圧迫効果は当初の予想ほど大きくなかった。一方でイランは米国の海上封鎖により、自国の原油を世界市場に売り出すことが難しくなり始めた。
◇ 封鎖線を越えられないイラン原油…中国の備蓄も減少
米国が7月14日に海上封鎖を再開して以降、イランの原油輸出は直撃弾を受けた。原油市場分析会社ケイプラー(Kpler)とボテクサ(Vortexa)、タンカートラッカーズ・ドットコム(TankerTrackers.com)によれば、この時点以後にイランで新たに積載された原油貨物がホルムズ海峡を抜けて中国に向かった事例は確認されていない。中国は現在、イランに残る唯一の主要な原油顧客である。
イランの原油・コンデンセートの積載量は3月の1日当たり約200万バレルから、7月は74万バレル、8月は22万〜25万5000バレルへと減少した。5カ月で約87〜89%の減少である。ドナルド・トランプ米政権が2019〜2020年にイランへ「最大圧力」制裁を科した際にも、毎月一定量のイラン産原油がホルムズ海峡を抜けていたのとは異なる様相だ。ボテクサは、今回のように長期間にわたり原油の流れが事実上途絶えた前例はなかったと分析した。
現在、中国がイラン産原油を買い続けられるのは、6月に米国とイランが戦争終結に向けた覚書(MOU)を締結した後、米国の封鎖が数週間中断していた際に、イランがあらかじめ外に出しておいた物量があるためだ。WSJがケイプラーを引用して報じたところでは、封鎖線の外にいる船舶に残るイラン産原油は約2900万バレルだ。1日当たり約100万バレルが中国などに向かう傾向が続けば、10月中旬ごろに残量が枯渇する可能性がある。
とりわけ新規物量がホルムズ海峡を出られないなか、中国の精製業界の負担も増している。イラン産原油の主要購買者である中国山東省の民間精製業者「ティーポット(teapot)製油所」群は、今月下旬から新規物量の確保に支障を来す可能性があるとの見方が出ている。業界では、ブラジル・イラク・ロシア産へ購買先を切り替えるか、来月から稼働率を落とす可能性も取り沙汰される。
◇ 原油を止め、販売代金も締め上げ…「ワンツーパンチ」を放つ米国
米国は海上封鎖に金融制裁を組み合わせ、イランを圧迫している。原油輸送を物理的に遮断すると同時に、すでに販売した原油代金や外貨がイランへ流れる金融網まで封じる手法だ。スコット・ベセント米財務長官はこれについて「海上封鎖と『史上最強の制裁』を組み合わせた『ワンツーパンチ(one-two punch)』」と表現した。
イランの高位消息筋3人はロイターに、最近の米国の措置により外貨の確保や商品の輸入、国際金融網の利用が大きく制限されたと明らかにした。原油販売収入がイラン国家予算の約3分の1を占めるだけに、燃料や小麦など主要物資の不足懸念も高まっている。ここにリアルの価値下落と輸入物価の上昇が重なった。国際通貨基金(IMF)は、今年のイランの消費者物価上昇率を68.9%、実質国内総生産(GDP)成長率を-5.4%と予測した。
こうした状況で米国は軍事的圧力も続けている。5日、米軍はイランの油槽船3隻を攻撃した。このうち1隻はイラン原油輸出の中核拠点であるハルグ島付近にいた。
ただしイランの「ホルムズカード」が完全に無力化したわけではない。最近、米国とイランが再び攻撃の応酬を続けるなか、直近10日間にホルムズ海峡を通過した原材料運搬船は1日平均10隻と5月以降の最低水準に減った。国際原油価格も7日、およそ6週間ぶりの高値を付けた。
イランも圧力の度合いを高める構えだ。モセン・レザイ・イラン高位安保当局者は、ペルシャ湾に新たな制限区域を設定し、ホルムズ海峡を通過する新たな船舶航路を発表すると述べた。モハマド・バーゲル・ガリバフ・イラン国会議長も、米国がイラン資産を追加攻撃する場合、湾岸地域の米国の石油・ガス関連施設も攻撃にさらされ得ると警告した。
米国が封鎖を続け、イランも新たな制限区域の設定を予告するなか、ホルムズ海峡を巡る双方の緊張は当面続く見通しだ。