ドイツの極右政党「ドイツのための選択(AfD)」が地方選で旋風を起こし、AfD排除の原則を堅持するのか、それとも政治的協力への道を開いておくのかを巡り、フリードリヒ・メルツ独首相がジレンマに陥ったとの評価が出ている。
6日(現地時間)ドイツ公共放送ARDは、この日に実施されたザクセンアンハルト州議会選挙でAfDが44.5%を得票し1位になると予測した。これは約5年前に実施された直近の選挙の得票率(20.8%)を倍以上上回る水準だ。AfDは州議会83議席のうち39議席を確保して過半には届かないとみられるが、ザクセンアンハルトで名実ともに第1党の地位を固めた格好である。一方、メルツ首相が率いる中道右派キリスト教民主同盟(CDU)の得票率は18.5%にとどまる見通しとなった。
日頃「極右勢力とは絶対に協力しない」という、いわゆる「防火壁(Brandmauer・ブランマウアー)原則」を堅持してきたメルツ首相は、AfDの健闘で難しい局面に置かれた。ドイツの主要政党はこれまで、極右政党に分類されるAfDとの協力を拒否してきており、CDUもAfDとの間接的な協力すら排除してきた。メルツは2018年の党代表選の際、AfDの支持率を半減させると公言したこともある。
しかし今回の選挙を機に、メルツ首相の防火壁原則がかえってAfDの勢力拡大を助長したとの批判が出ている。より保守的な政治を望む有権者をAfDへと移動させ、AfDとの協力を排除したCDUが自らの政策路線とかけ離れた政党と手を組まざるを得なくなり、政治的膠着が深まったという見方だ。英フィナンシャル・タイムズ(FT)は「批判論者は、防火壁が極右への支持流出を食い止めるどころか、むしろ助長していると批判する」と伝えた。
防火壁に亀裂が生じる兆しも出ている。少数政党で極左性向の「ザラ・ワーゲンクネヒト同盟(BSW)」は、有権者が今回の選挙を通じて防火壁を拒否したとして、原則の撤回を主張している。CDU内部でも、ザクセンアンハルト州での得票率がAfDの半分にも満たなかったことから、AfDとの関係を再設定すべきだとの声が上がり始めている。
これによりメルツ首相の前には、事実上二つの選択肢が置かれた。一つは防火壁原則を堅持しつつ、CDUが緑色党、社会民主党(SPD)、旧共産党系勢力、極左ポピュリストなどと手を組み「反AfD」の州政府構成を推進することだ。もう一つはザクセンアンハルト州のCDUに、AfDとの関係を自主的に決定できるよう裁量権を与えることだ。後者の場合、事実上AfDが州政府を構成する道を開く可能性もある。
問題は、いずれを選んでもメルツ首相が政治的打撃を避けがたい点である。防火壁原則を堅持すれば、AfDとの協力の可能性を開くべきだと主張する地域CDU勢力の反発に直面し得る。逆にAfDとの協力を容認すれば、党内反対派はもちろん、連邦政府の連立パートナーであるSPDの強い反発を招く恐れがある。
米ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)は「すでに戦後のドイツ首相の中で最悪水準の支持率を記録しているだけに、メルツの党内での立場は弱まっている」とし、「連立パートナーである中道左派の社会民主党は、AfDといかなる形でも協力することに断固反対してきたため、州のCDUがAfDとの関係を自主的に設定することを許せば、メルツが率いる連邦連立政府の終焉につながる可能性が大きい」と伝えた。
AfDの政策が急進的である点から、メルツ首相が防火壁を容易に崩すのは難しい状況だ。AfDは近年、西欧で勢力を伸ばしてきた民族主義政党の中でも最も急進的な政党の一つと評価される。不法滞在移民の送還加速、ドイツ生まれの国民への福祉給付拡大、対ロシア制裁とドイツのウクライナ支援の中止、ドイツの欧州連合(EU)離脱などがAfDの代表的な政策である。
米シンクタンクのドイツ・マーシャル基金(GMF)のスダ・デービッド=ウィルプ副会長兼上級研究員は「防火壁はフリードリヒ・メルツを象徴する政策だ」とし、「これはドイツで保守主義者であることが何を意味するのかという根本的な問題だ。ロシアへの支持であれ欧州への敵意であれ、AfDが標榜する多くのものはドイツ保守主義と正反対に位置している」と語った。
今回の選挙結果をメルツ首相と連邦政府に対する審判とみる見方もある。ドイツ経済研究所(DIW)所長のマルセル・フラッツシャーはロイター通信のインタビューで「今回の選挙結果は何よりも連邦政府に対する不信任投票だ」と評価した。FTは「今月の他の地方選でもCDUが惨敗すれば、指導部交代を求める声が強まる可能性が高い」と伝えた。