英国が再び首相交代を控えている。キア・スターマー首相が辞任を発表し、英国は2016年のブレグジット(Brexit・英国の欧州連合離脱)国民投票以降、約10年の間に7人の首相を迎えることになった。
さらに異例なのは、デービッド・キャメロン、ボリス・ジョンソン、スターマーがいずれも総選挙で圧勝し政権基盤を固めたように見えたものの、3年も経たずに首相職を退く事態となった点である。英フィナンシャル・タイムズ(FT)は「このような首相交代の頻度は、大衆民主主義が本格化した1830年代以降、ほとんど前例を見いだしがたい水準だ」と評価した。
FTは英国政治が揺らぐ背景として、ブレグジットの後遺症、指導者たちの相次ぐ失策、長期の経済停滞、党内反乱の文化、ソーシャルメディア(SNS)時代の政治の変化という5つの要因を挙げた。
①ブレグジットの後폭풍
スターマー首相の辞任発表はブレグジット国民投票10周年の1日を前にして出た。FTは、ブレグジットは単なる対外政策の変化ではなく、英国政治の地形そのものを揺るがした出来事だったと分析した。国民投票以降、英国政治は数年間にわたり欧州連合(EU)との関係整理に執着し、生産性低下や地域格差といった構造的問題はまともに解決できなかった。
保守党出身のジェレミー・ハント前財務相はFTに「ブレグジットはキャメロンとテリーザ・メイを政治的に打ちのめしただけでなく、労働党の伝統的支持層と保守党の基盤まで再編した」と語った。
実際、北部と中部の労働階層の有権者は労働党から離反し、南部の中産層の有権者は保守党のブレグジット路線に反感を抱くようになった。その隙をナイジェル・ファラージらポピュリズムの政治勢力が突いた。FTは、ブレグジット以降の英国政治は伝統的な左右対立の構図から外れ、「現体制を改善するのか、それとも完全に覆すのか」をめぐる新たな葛藤構造へ再編されたと評価した。
②首相たちの相次ぐ失策
英国政治の混乱をブレグジットだけで説明することはできないという指摘も出ている。キャメロンはブレグジット国民投票という政治的賭けに出て失敗し、テリーザ・メイは不要な解散総選挙を打って権威を失った。ボリス・ジョンソンは新型コロナのロックダウン期間の首相官邸のパーティー論争などで退陣圧力を受け、リズ・トラスは減税政策を無理に推し進めて金融市場を揺さぶった。後を継いだリシ・スナクとスターマーもまた、国家の方向性を説得力をもって示せなかったとの評価を受けている。
世論調査機関モア・イン・コモン(More in Common)のルーク・トリル代表はFTに「英国が統治不能な国になったのではなく、首相たちが過去であれば政権を打倒しかねない重大なミスを繰り返した」と述べた。
FTは、スターマーの場合、2024年総選挙の過程で増税の可能性を過度に否定した点、大衆とのコミュニケーション能力の不足、国防費拡大など主要懸案で決断力を示せなかった点などが弱点として指摘されたと伝えた。
③20年近く続く経済停滞
最も根本的な原因としては経済が挙げられる。英国は2008年の世界金融危機以降、成長減速から完全には脱しきれていない。金融産業の比重が大きい英国経済の特性上、衝撃も相対的に大きかった。英財政研究所(IFS)の前所長であるポール・ジョンソンは「国民はほぼ20年の間、生活水準が向上していないと感じており、その結果、誰が政権を担っても不満が噴出せざるを得ない」と述べた。実際、英国はここ数年にわたり高い物価上昇率と生活費危機を経験した。高齢化に伴う福祉負担も拡大している。
国家財政の状況も楽観できない。FTによれば、2010年以降、国内総生産(GDP)比の国債残高比率は大きく上昇し、利払い費負担も急増した。税金は史上最高水準まで引き上げられたが、その相当部分が債務利払いに充てられている。FTは「国民が体感する生活の質が改善しない限り、いかなる首相も安定的な支持を得るのは難しい状況だ」と診断した。
④首相を揺さぶる与党議員たち
近年の英国首相の多くは、野党よりもむしろ自党の議員たちのためにより大きな困難に直面した。これはブレグジット期に強まった現象である。ブレグジット交渉の過程で、議員たちは党指導部とは別個に政策連合を構築することに慣れた。強硬なブレグジット志向の議員たちは複数の首相に圧力をかけながら影響力を拡大し、これは他の議員たちにも一種の前例となった。
英政府研究所(IFG)のハンナ・ホワイト代表はFTに「一度指導部に反旗を翻した議員は、その後も反乱に出る可能性が高い」とし、「いまや圧勝で当選した首相でさえ、いつでも交代可能な存在だという認識が定着した」と述べた。さらに「首相たちは依然として古いやり方で政治をしているが、議員たちはすでに新しいやり方で動いている」と付け加えた。
⑤SNSが変えた政治環境
FTは最後の要因として、ソーシャルメディア(SNS)が変えてしまった政治環境を挙げた。SNSのために政治家の寿命がより短くなったということだ。かつては有権者が政党の政策の一部にのみ同意しても支持を送ったが、いまはアルゴリズムを通じ、自分の嗜好や価値観に合う政治コンテンツだけを消費する傾向が強まった。
ルーク・トリル代表はこれを「政治のネットフリックス化(Netflix-isation)」と表現した。人それぞれ見たいコンテンツだけを選んで消費するように、政治も個人向けに消費されるという意味だ。FTは、この過程で政治は政策より人物中心に流れる傾向が強まったと評価した。ただし人気に頼って政権を握った指導者は、時間がたつほど支持率低下の圧力により脆弱にならざるを得ないと指摘した。
実際、スターマーの後任として取り沙汰される政治家たちも、政策より個人のイメージや大衆的な好感度を前面に出して評価されている。FTは、ソーシャルメディア時代には首相個人の人気がそのまま政治的資産になる一方で、同時に最大の弱点にもなり得ると分析した。