かつて「死の産業」と呼ばれ若年求職者の忌避対象だった防衛産業が、欧州の若者の新たな就職先として浮上している。景気低迷で採用市場が冷え込むなか、防衛産業各社はむしろ攻勢的な採用に動いている。ウクライナ戦争以降、欧州各国が再軍備を加速するなかで人材需要が急増したうえ、人工知能(AI)・ソフトウエア・サイバーセキュリティーなど先端技術人材の確保競争まで激しくなっているためだ。
フランスの日刊紙ル・モンドは16日(現地時間)、求人・求職プラットフォームのインディード(Indeed)の分析を引用し、欧州主要防衛産業企業の求人件数が2021年比で今年は55%増加したと報じた。同期間に欧州全体の雇用市場の求人は13%減少した。景気減速で企業が採用を絞るなか、防衛産業だけが逆行している格好だ。
インディードは、スウェーデン国際平和研究所(SIPRI)が選定した世界100大防衛産業企業のうち欧州企業25社の求人を分析した結果、今年1〜3月基準でこれら企業の求人規模は2021年平均より36%多かったと明らかにした。調査対象にはエアバス、ダッソー・アビエーション、タレス、サフラン、MBDA、ナバル・グループなどが含まれた。
こうした変化の背景にはウクライナ戦争がある。2022年のロシアによるウクライナ侵攻以降、欧州各国は数十年ぶりに防衛政策の方向を転換し始めた。ドイツは「ツァイテンヴェンデ(時代の転換、Zeitenwende)」を宣言して大規模な国防予算の増額に踏み切り、フランス・ポーランド・英国なども兵器生産の拡大と軍の近代化を加速している。冷戦終結後に縮小されていた軍需生産能力を再び拡充する過程で大規模な人材需要が発生したというわけだ。
防衛産業企業が求める人材像も変わっている。過去には機械・航空・電子分野のエンジニアが中心だったが、最近はソフトウエア開発者やデータ専門家、サイバーセキュリティー人材の需要が急速に増えている。
インディードの分析によると、現在最も需要が多い職種は生産・機械・技術分野(14.6%)とソフトウエア開発分野(14.7%)だった。エンジニア職種(11.5%)よりも開発者の比重が高く表れた。インディードのエコノミスト、リサ・ファイストは「産業現場のデジタル化が進むなかで、エンジニアリングとITの境界が次第に曖昧になっている」と説明した。
とりわけ目立つのはソフトウエア開発者の需要だ。ドローンと人工知能、衛星通信、電子戦技術が現代戦の中核戦力として浮上し、防衛産業各社が事実上の先端技術企業へと変貌しているとの分析が出ている。実際に欧州の主要防衛産業企業は、自律飛行ドローン、AI基盤の監視システム、サイバー防御プラットフォームの開発に投資を拡大している。
防衛産業に対する認識の変化も採用拡大を後押ししている。過去には兵器生産への倫理的な拒否感から、若年求職者が防衛産業への就職をためらうケースが少なくなかった。しかしウクライナ戦争以降、防衛産業は単に武器を作る産業ではなく国家安全保障と民主主義を守る役割を果たすという認識が広がり、雰囲気が変わったとの評価が出ている。ファイストは「戦争勃発以後、複数の国で防衛産業関連の求職検索が増えた」とし、「とりわけフランスでは防衛産業に対するイメージが変化していることを示している」と述べた。
経済の不確実性が高まった点も影響した。欧州の自動車産業と製造業全般がリストラ圧力を受ける一方で、防衛産業は各国政府の長期契約を基盤に安定的な成長を続けているためだ。実際にフランスの求職者による防衛産業関連の検索量は過去5年間で倍増した一方、自動車産業関連の検索量は大きな変化がなかったことが示された。
欧州各国が再軍備を加速し、ロシアとの安全保障上の緊張が長期化すると見込まれるなか、防衛産業の人材需要は当面続く見通しだ。かつて機械工学徒の領域とみなされた防衛産業が、いまやAI開発者とソフトウエアエンジニアまで引きつける先端産業へと変貌しているとの評価が出ている。