戦争終結に向けた米国とイランの交渉が急速に進むなか、イラン最高指導者の長期不在が交渉過程の変数として浮上しているとの分析が出ている。新たな最高指導者であるモズタバ・ハメネイが2カ月以上にわたり公の場に姿を見せず、交渉に関しても沈黙を続けているためだ。
米国とイランの当局者によると、モズタバ・ハメネイは2月に米国とイスラエルがイランを空爆した際に大きな負傷を負い、その後公的活動を中断している。当時の攻撃で、父であり前最高指導者のアリ・ハメネイと家族が死亡したと伝えられている。その後イラン当局が公開したのは、モズタバが作成したと推定される書面メッセージと、人工知能(AI)で生成・改ざんされたと疑われる画像だけである。肉声のメッセージや最近の映像はまったく公開されていない。
米紙ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)は、最高指導者の不在が戦争終結のための交渉過程でイランにとって一段と大きな負担として作用していると評価した。戦時体制では結束を維持していたイラン指導部が、交渉局面に入るにつれて内部の路線対立を露呈しているということだ。とりわけ米国との交渉でどの水準まで譲歩するかをめぐり、強硬派と穏健派の立場の差が拡大しているとの分析が出ている。
イラン政界では、国会議長のモハンマド・バーゲル・ガーリーバーフを中心とする交渉ラインが米国に過度に譲歩しているとの批判が提起されていると伝えられている。強硬な支持層の間では「最高指導者がどこにいるのかすら分からない」という不満が広がり、交渉の正当性そのものを問題視する声も出ている。イラン専門家のアラーシュ・アジジはWSJに「強硬派内部で指導者の不在がとりわけ大きな不安要因として作用している」と述べ、「交渉チームが米国に過度に引きずられているとの認識が広がっている」と語った。
一部の支持者はソーシャルメディア(SNS)を通じて、モズタバに少なくとも音声メッセージだけでも公開するよう求めている。モズタバのこのような沈黙は、過去のイラン指導者が国家の重大事案について自ら立場を明らかにして内部の対立を調整してきた姿と対照的だとの評価が出ている。過去にイランの初代最高指導者だったルーホッラー・ホメイニは、イラン・イラク戦争の終結を「毒入りの聖杯」に例えながらも、自ら終戦を決断した。アリ・ハメネイも2015年の核交渉当時に公開の場で交渉を承認し、政治的な方向性を示したことがある。
イラン政府は、最高指導者の沈黙は身辺の安全を図るための措置だと釈明している。イスラエルが戦争期間中にイランの高位要人を標的に排除してきた以上、モズタバも主要標的だということだ。しかしこの説明にもかかわらず、一部では生存の有無すら疑う声が出ている。
こうしたなか、マスード・ペゼシキアン大統領は最近、モズタバと約2時間30分にわたって会談したと公表し、論争の沈静化を図った。これは最高指導者が健在である点を強調しようとする意図とみられる。
イラン安全保障専門家のサイード・ゴルカールは「イラン政権は、彼が死亡したのではなく安全のために潜伏中である点を説得しようとしている」と述べ、「交渉局面では指導者の存在そのものが体制安定の核心変数だ」と語った。
イラン側は最近になってようやく負傷部位を公開し、健康には問題がないと主張している。しかし会談の具体的な内容や時点、場所は公開しておらず、疑問は依然として残っている。外交交渉が重大な岐路を迎える状況で、最高指導者の空白が長期化すれば交渉の推進力そのものが揺らぎかねないとの懸念も出ている。
交渉もまた明確な突破口を見いだせていない。10日(現地時間)、ドナルド・トランプ米国大統領は自身のSNSであるトゥルース・ソーシャルを通じて、イランが送った逆提案を強く批判した。トランプ大統領は「たった今、イランのいわゆる『代表ら』が送ってきた回答を読んだ」とし、「まったく受け入れられない内容だ」と明らかにした。
イランは制裁緩和と安全保障の保証など、米国に多方面にわたる譲歩を要求したとされる。しかし双方の立場の隔たりが依然として大きいうえ、最高指導者の長期不在まで重なり、交渉の不確実性はいっそう高まっているとの観測が出ている。