親イラン武装勢力ヒズボラが米国のイラン空爆後にイスラエルを攻撃し、これに対してイスラエルが大規模空爆で即座に報復したことで、レバノンに全面戦争の危機が広がっている。レバノン政府はヒズボラのあらゆる軍事活動を禁止し、武装解除を促す強硬措置に乗り出したが、戦争を回避するのは難しいとの見方が出ている。
2日(現地時間)ロイター通信によると、親イラン性向のレバノン武装勢力ヒズボラは同日未明1時ごろ、ロケットとドローンを動員してイスラエルへの攻撃を開始した。イスラエルの継続的な空爆にも約1年間直接的な対応を自制してきたヒズボラが、米国・イスラエルの対イラン軍事作戦に反発し、異例の公開報復に踏み切ったとみられる。
同日ヒズボラは声明で「ハメネイが流した血への報復として、そしてレバノンとその国民を防衛し、繰り返されるイスラエルの攻撃に対応するためにミサイルとドローンを浴びせた」として攻撃事実を認めた。この措置はハメネイ・イラン最高指導者の死亡後、いわゆる「抵抗の枢軸」陣営の結束を誇示しようとする象徴的性格が強いが、軍事的効果は限定的であることが示された。
ただしイスラエルが即座に反撃に転じたことで、レバノン全域は相当な打撃を受けたとみられる。イスラエルはレバノン東・南部所在の約50の村を同時多発的に空爆し、首都ベイルート南部外縁まで範囲を広げて攻撃を実施したと明らかにした。レバノン社会福祉省によると、今回の空爆で少なくとも52人が死亡し154人が負傷、住民は燃料と食糧を備蓄し学校を臨時避難所に転用するなど戦時体制に復帰した状態だという。
今回の衝突は1年間にわたり累積した両国間の緊張がついに爆発したという点で、単なる局地的な摩擦以上の意味を持つ。2024年11月のイスラエル・レバノン休戦協定以降、イスラエルはレバノンを相手にほぼ毎日空爆を続けてきたが、ヒズボラは公然たる対応を自制していたためだ。
とりわけ注目すべき点は、ヒズボラに向けたレバノン政府の反応である。ジョセフ・アウン・レバノン大統領とナワフ・サラム首相は2日の緊急閣議直後、「ヒズボラは多数のレバノン国民の意思を無視した」と批判し、ヒズボラの軍事行動を全面禁止し、これに従って武器を国家に移譲するよう促した。数十年にわたり政治・軍事の両面で強大な影響を行使してきたヒズボラを政府が公然と圧迫したのは、事実上前例のない状況とみられる。
シーア派宗主国イランの支援を受けて成長してきたヒズボラは独自の武装勢力で、議会など公式な政治活動が認められてきた。シーア派イスラム主義性向の政党として政界で影響力を行使する一方、大規模な軍事組織を編成し多数の反イスラエル軍事作戦を展開してきた。とりわけ軍事組織はレバノン正規軍より規模が大きい2万〜5万人と推定され、これまでレバノン政府がヒズボラの軍事的活動に実質的に歯止めをかけにくかった理由である。レバノンは2022年10月の大統領任期終了以降、長期にわたり大統領空席が続き事実上の無政府状態を経験した。その後、国内宗派間の妥協と国際的仲裁の中で政治的合意が成立し昨年1月に新大統領を選出したが、武装組織を保有するヒズボラの影響力が依然として政府より優位だとの評価が出ている。
ただし2023年10月のガザ戦争参戦以降、兵器庫が相当部分破壊され、この過程でレバノン社会内部でも戦争への疲労感が極大化しヒズボラの影響力が低下したとの分析が出ている。1年にわたり全面戦が続くなか、ヒズボラの軍事力は大きく弱体化し、指導者ハサン・ナスララも2024年にイスラエルの爆撃で死亡したことで、内部支持層の結束が大きく揺らいだという。
あわせてヒズボラの空気が最近、米国のイラン空爆以降に変化したとの内部証言も相次いでいる。多数の軍司令官が死亡し、イラン革命防衛隊(IRGC)がヒズボラへの依存度を強め、この過程でヒズボラの参戦を思いとどまらせるレバノン側政治指導部との亀裂が察知されたとの伝聞だ。ワシントン中東研究所のポール・セーラム上級研究員は「ナスララ死亡以降、ヒズボラは少しずつさらにイラン革命防衛隊の影響圏下に置かれるようになった」と述べ、「今回の攻撃決定は明らかにテヘランで下されたはずだ」と分析した。
ヒズボラ消滅の可能性にもかかわらず、イランが体制生存のために全面戦争を引き起こすとの見通しも出ている。英国ロンドンのシンクタンク、チャタムハウスのリナ・カティブ研究員は「イランはヒズボラが勝てないことを知りつつも、降伏ではなく消滅を選ばせるよう操っている」とし、「この場合、イスラエルとヒズボラは『最後の戦争』が起こり得て、レバノンは戦争の犠牲になる」と説明した。
実際にヒズボラが中東戦争に足を踏み入れることで、イスラエルが望んだ方式で構図が形成されているとの分析も提起された。イスラエルは相当な軍事能力を有するヒズボラの存在自体を致命的な安全保障上の脅威と見なしてきたが、今回の戦争を機にヒズボラを完全に解体する適切な名分を得たということだ。
イスラエルは予備軍11万人を動員し、レバノンと接する北部国境の兵力を増強して戦闘に備えていることが明らかになった。米ウォールストリート・ジャーナル(WSJ)によると、エヤル・ザミル・イスラエル軍参謀総長は「今後到来する長期戦に備えよ」との指示を出したとされる。