米国で超低価格の中国製品を販売して大きな人気を得ながらも徹底してベールに包まれていたシーイン創業者のシー・ヤンティエン会長が24日(現地時間)、ついに公式の場に初めて姿を現した。
創業から18年ぶりに公式の場に登場した背景には、膠着状態に陥った新規株式公開(IPO)の状況と、各国政府が加える全方位的な規制圧力があると専門家は分析した。今回の行動は、企業アイデンティティを巡る不確実性を解消すると同時に、中国本土との結びつきを公式に強化しようとする戦略的選択と受け止められる。
シー・ヤンティエン会長は24日、中国の広東省政府が主催した行事に黒のスーツとえんじ色のネクタイ姿で現れた。シーイン創業後のみならず、生涯初の公開演説である。この日、香港のサウスチャイナ・モーニングポストによると、シー・ヤンティエンはこの場で「広東省がシーインのグローバルな成功に中核的な役割を果たした」と持ち上げた。シー・ヤンティエンは今後100億人民元(約1兆8000億ウォン)以上を投資し、広州にスマート供給網システムを構築すると約束した。
専門家は今回の行動が上場の推進力を蘇らせるための苦肉の策だと分析した。英フィナンシャル・タイムズ(FT)は、シー・ヤンティエンがこの日「共産党と地方政府の支援がシーインの成長に不可欠だった」と言及した事実を報じ、「最近、上場を前に難局に直面したシーインが中国国内での足場を固めようとする意図がにじむ」と伝えた。
シーインは当初、世界最大の資本市場である米国ニューヨーク証券取引所あるいは近隣の香港証券取引所への上場を目標としていた。2021年には本社をシンガポールに移し、中国色を薄める試みを行った。最近は厳格な米金融当局の調査を避け、英国ロンドン証券取引所への上場に目を向けた。FTは、シーインが英国の規制当局と中国指導部の間で新疆地域の強制労働に関するリスク開示文言を巡り折り合いがつかず、上場が難航していると指摘した。シー・ヤンティエンは中国政府に忠誠心を示しつつ、同時にグローバル企業として透明性を立証しなければならない矛盾した状況に置かれている。
今回の演説でシー・ヤンティエンは、膠着していた上場の歩みに転機をもたらし、共産党と地方政府に融和のジェスチャーを送った。専門家は、今回の演説でシー・ヤンティエンが改めて中国本土との協力を強化する意思を示したと評価した。
シー・ヤンティエンは1984年、中国の山東省淄博の貧しい家庭に生まれたとされる。その後、青島科技大学を卒業し、南京でアオダオという企業で検索エンジン最適化マーケティングの業務を学ぶなかで、電子商取引市場の可能性を見出した。2008年にワン・シャオフー、リー・フォンとともに南京点維信息技術を設立したことが、シーイン誕生の母体となった。以後、2011年にウェディングドレス専門サイトのシーインサイド(Sheinside)を開き、海外市場への扉を叩いた。このサイトが、現在のシーインが巨大ファストファッション帝国へと成長する足場になった。
シーインは他のSPA(製造・小売一貫)ブランドと同様、スピードを武器に勢力を素早く拡大した。シー・ヤンティエンは「スピードがすべて」という哲学の下、少量生産後に市場反応に応じて即座に追加生産に入るシステムを構築した。そのため2015年に本拠を南京から、衣料品製造のエコシステムが発達した広東省広州へ移した。シーインは数千に及ぶ広州近郊の中小工場をクモの巣のように結び付け、デザインから製品発売までに要する時間を数週間に短縮した。従来のファッションブランドが数カ月かけるプロセスを、リアルタイムのデータ分析で解決した結果である。広東省内の強固な物流網と製造インフラは、シーインが毎日新商品を数千点規模で投入できる原動力となった。
必然的にシー・ヤンティエン個人の資産規模も急速に膨らんだ。フォーブスによると2025年7月時点で保有する純資産は約91億ドル(約12兆ウォン)以上である。ブルームバーグの億万長者指数によれば、シー・ヤンティエンは世界80位圏の富豪だ。それでも日頃から社員でさえ顔を見分けられないほど社内では低姿勢を保っている。シーインもこれまでシー・ヤンティエンの写真を公式に配布したことが一度もない。
しかし今回の公式の場への登場により、これまで堅持してきた神秘主義の戦略にも変化が生じる見通しだ。企業価値1000億ドルに達するシーインを率いるトップとして、上場を前にこれ以上身を潜めているだけでは難しい環境である。ただ一部では、シー・ヤンティエンが広東省への大規模投資を約束して中国との一体化を示せば示すほど、ロンドン証券取引所への上場に両刃の剣となり得るとの見方もある。透明性や強制労働の問題に敏感な欧米の投資家や英国当局の警戒感が一段と強まる可能性が高いという理由だ。
すでにシーインは米国と欧州など主要市場で強度の高い規制と監視を受けている。欧州連合(EU)欧州委員会は最近、シーインのプラットフォームで子ども向けの成人用品が販売されているとの報告を受け、調査に着手した。米国でもトランプ政権が800ドル未満の少額物品に適用していた関税免除の特例「デ・ミニミス規定」を廃止しようとする動きを見せている。米国を最大市場とするシーインの収益構造に直接的な打撃が見込まれる。