中国権力の中枢で軍部序列2位の張又侠(張又俠)中央軍事委員会副主席が24日に粛清された後、世界の外交・安保の専門家の視線が北京に集まっている。
人民解放軍内部が事実上転覆に近い人事の嵐に巻き込まれたにもかかわらず、当の中国国内の公式メディアは沈黙を守っている。党機関紙の人民日報など主要メディアは現在まで習近平主席に対する公式な支持声明を示しておらず、微博などソーシャルメディアでは張又侠の名前検索が制限されるなど、徹底した統制が続いている。
唯一の動きは軍機関紙の解放軍報から出た。解放軍報は最近の1面論評で「軍隊内の『大きなネズミ(碩鼠)』を必ず捕まえなければならない」とし、高強度の粛清の名分として腐敗一掃を掲げた。大きなネズミは詩経に登場する比喩で、蔵を食い物にする貪欲な官吏を意味する。
しかし専門家は、今回の事態が単なる反腐敗の一掃ではなく、習近平国家主席の独走体制を固めるための政治的決断だと分析する。
◇ 張又侠『獄中書信』が話題…「米国はすべて知っている」
3日、海外華僑圏メディアのエポックタイムズは、張又侠が連行される直前に身元不明の知人に渡したとされる、いわゆる『張又侠の手紙』を公開した。昨年12月に作成されたと推定されるこの書簡で、張又侠は自身が粛清されることを予感したかのように「主席が主席責任制を名分に軍の実務に事あるごとに介入し、軍人事の原則を無視して忠誠心だけで将軍たちを配置している」と批判した。
続いて主席が人民解放軍の専門性を損ない国家的災厄を招いていると指摘した。張又侠は手紙で「米軍当局はすでにわが軍事基地の詳細な位置や核施設の配置図、さらには指導部の地下隠匿先まで全て把握している」とし「米側は全てを監視しており、戦争で勝算がないことをわれわれに警告してきた」と記した。これは軍事の専門家に分類される張又侠が、米軍との全面戦争が『勝算のない賭け』であることを客観的に認識していたことを示唆する。
とりわけ張又侠は「自分が粛清された後、家から札束があふれ出たという類いの捏造情報が広まるかもしれないが、これは典型的な手口にすぎない」として潔白を主張した。この書簡の真偽は確認されていない。ただし専門家は真偽とは別に、書簡の内容が現在の中国軍部内部に蔓延する主席への不満と対米軍事的劣勢への懸念を反映したと分析した。エポックタイムズは「書簡が偽造であった可能性も排除できないが、その中に込められた主席と軍部の間の戦略的亀裂の様相は非常に具体的で説得力がある」という評論家の見解を付け加えた。
◇ 腐敗一掃は名分…台湾侵攻の時期・家父長的指導をめぐり軍部と衝突
香港メディアのアジア・タイムズは、今回の粛清の本質は腐敗ではなく主席の台湾侵攻計画にあると分析した。主席は人民解放軍の建軍100周年である2027年までに台湾統一に向けた軍事的準備を完了するよう督促した。
しかし実戦経験が豊富な張又侠は、米軍の圧倒的戦力と人民解放軍の準備不足を理由に慎重論を唱えたという主張が出ている。ワシントン・タイムズは「解放軍報の報道などを総合すると、張又侠は主席が設定した建軍100周年目標の実現可能性に疑問を呈し、ペース調整を建議した」と伝えた。
張又侠は1979年の中越戦争に参戦した人民解放軍最後の『戦争英雄』であり、主席の父とも代を超えて縁を結んできた70年来の最側近である。軍事的異見と同じくらい、2人の間を引き裂いた根本的な原因として『体制の北朝鮮化』への恐怖も挙がる。張又侠は書簡で、主席が従来の『主席責任制』を事実上、無制限の『家父長的指導』へと変質させ、中国を北朝鮮式の一人独裁体制へと追いやっていると糾弾した。
とりわけ当初、三中全会(3次全体会議)で合意されていた党(蔡奇)・政(李強)・軍(張又侠)の権力分担の約束を主席が破り、すべての権力を主席自身に集中させることで不和を拡大させたとの分析が出ている。単に戦争の時期をめぐって争ったのではなく、中国という国家運営システム自体が、近代的な政党国家から前近代的な独裁王政へと後退する状況に対し、軍部の元老として最後の警告を発したという意味である。
このような軍部中心の人物すら排除された事実は、主席が自身の権威と核心計画に対するわずかな挑戦も容認しないという意思を示したものと解される。
◇『イエスマン』だけが残った中国軍…台湾侵攻の危険は一層高まったのか
ニューヨーク・タイムズ(NYT)は今回の事態をめぐり「習近平の偏執と権力ゲームが結合した結果」と診断した。主席は2023年以降、中央軍事委員会委員7人のうち自身を除く6人を事実上すべて交代させるか粛清した。この過程で専門性と経歴を備えた指揮官が姿を消し、主席の指示に無条件で服従する挙手要員で軍首脳部を満たした。
これに対する今後の見通しは分かれる。一方では有能な指揮部が崩壊し、中国は台湾侵攻を試みる気力すら持てないとみる。台湾侵攻は陸・海・空軍とロケット軍、戦略支援部隊まで動員される人類史上最も複雑な上陸作戦である。ロイターは元米政府関係者を引用し「主席がこの3年の間に中央軍事委員会委員7人のうち6人を入れ替え、作戦の連続性が完全に損なわれた」と指摘した。
とりわけ現代戦の中核であるロケット軍首脳部と装備調達を担う装備発展部の首脳部が丸ごと飛ばされた状況で、新たに任命された、いわゆる『落下傘』の指揮官たちが米軍と台湾軍を相手に精緻な統合作戦を遂行するのは不可能に近いとの分析だ。ある元米情報当局関係者はロイターに「中国軍はいま戦争準備より、自分の首がいつ飛ぶか分からないという恐怖の中で内部検閲にのみ没頭している」とし「このような軍隊では局地戦すら遂行しにくい」と診断した。
一方で、慎重論を唱えていた将軍が姿を消した場に忠誠派だけが残り、主席が誤判断を下した場合にそれを止めるブレーキがなくなったとの懸念も出ている。
張又侠のようなベテランが消えた席を、主席の個人秘書出身や政治将校が埋め、軍が専門性を備えた戦争主導機構ではなく政治的道具へと堕したとの批判である。NBCは専門家を引用し「実戦経験が豊富な張又侠は、米軍戦力を実質的な脅威とみなし、主席に『準備不足』を直言できる唯一の人物だった」と評価した。ロンドン大学アジア・アフリカ研究学院(SOAS)のスティーブ・チャン中国研究所長はNBCに「主席が勝利を確信できなくとも、周囲の『イエスマン』が見たい報告書だけを上げるようになれば、結局は誤算による戦争(War by miscalculation)が起こる可能性が以前よりはるかに高まった」と警告した。
英フィナンシャル・タイムズ(FT)は、今回の粛清で習近平体制が『不安定なリーダーシップ』を露呈したと解釈した。FTは専門家を引用し「内部の反発を抑え込むために、70年来の友であり最強の同盟だった張又侠さえ切らねばならないほど体制が不安定だという意味だ」と診断した。