金と銀が史上最高値を連日更新し資産市場を揺さぶる中、国際金融市場ではスイスフランも静かに強い存在感を示している。これまで安全資産の代名詞とされた米ドルと日本円への信頼が同時に揺らぎ、行き場を失ったグローバルマネーが主要国通貨の中で最後の避難先であるスイスへ急速に流入する様相だ。
29日、国際外国為替市場でスイスフランは2011年のユーロ圏財政危機当時を想起させるほど記録的な高値圏にある。スイスフランの価値は昨年1年間で米ドルに対して12〜14%上昇した。続いて今年に入り1カ月で3%以上さらに上昇した。28日基準の為替市場でドル/フランは取引時間中に1ドル=0.7612フランまで下落した。2011年8月以来、約14年5カ月ぶりの高値だ(米ドルに対するフラン高)。
同期間に金価格が1オンス=5000ドルを超え、銀も史上最高圏に入った点を踏まえると、スイスフランは実物資産である金・銀と肩を並べる唯一の通貨資産として扱われている。フィナンシャル・タイムズ(FT)はこれについて「投資家がドルと円という代替案に疑義を抱いた結果として現れた現象だ」と指摘した。
投資家がとりわけスイスフランに熱狂する理由は、スイスが持つ政治・財政の安定性にある。米国の国家債務は国内総生産(GDP)比で120%前後、ユーロ圏(ユーロを使用する20カ国)の平均は90%前後だ。これに対しスイスは一般政府債務比率が40%水準にとどまる。経常収支もGDP比7〜10%の黒字を長期にわたり維持し、財政・対外の健全性を同時に確保してきた。これは危機局面でも通貨価値が急落しないとの信認を高めた。
グローバル投資銀行のMUFGとUBSは最近のリポートで「スイスフランは現時点で地球上で最も強力な価値保存通貨だ」と評価した。ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)は、どれだけ多くのマネーを刷るかよりも、その国の制度をどれほど信頼できるかが通貨価値を左右する核心要素になったと伝えた。
かつてスイスフランは不正資金を隠す秘密口座のイメージが強かった。しかし2018年から海外課税当局と金融口座情報の自動交換を開始し、以前のような不法資金の隠匿は事実上不可能になった。それでもフラン需要が集まるのは、ブラックマネーではなく年金基金や政府系ファンド(国富ファンド)といった制度圏の優良資金によるものだ。実際、カナダの大手機関投資家であるオンタリオ州投資運用公社(IMCO)は、トランプ大統領の政策でドル価値が不安定になると、代替の投資先としてスイスフランを公に指名した。年金専門メディアのペンション・アンド・インベストメンツは、こうした流れは個人の投機的需要ではなく、世界の大口資産家や機関による戦略的選択だと評価した。
伝統的な安全資産の競合であった日本円が役割を果たせていない点も、スイスフランに資金が向かう理由とされた。日本はGDP比250%前後に達する国家債務と、長期にわたる超低金利政策の副作用により、外国為替市場で「無リスク資産」という信頼が薄れている。円安が進むほど投資家は安全資産ポートフォリオで円の比重を落とし、その代替としてスイスフランを選ぶ流れを示していると主要メディアは分析した。フィナンシャル・タイムズ(FT)は「円の安全資産としての地位が揺らぐ中、スイスフランがグローバル投資家が選択し得る事実上唯一の通貨の避難先として残った」と述べた。
状況がこうした中で、スイス中央銀行は深い悩みに直面している。フラン高が進むほどスイス製品の価格競争力は低下し、輸出企業が打撃を受ける。結果的に物価が下落するデフレ危機が訪れる可能性がある。すでにスイスの消費者物価上昇率は0%台前半にとどまる。フラン高がさらに進めば、デフレとマイナス金利再突入の可能性まで取り沙汰される。マイナス金利とは、大手銀行が中央銀行に資金を預ける際に利息を受け取るのではなく、逆に保管料を支払わせる措置を指す。
トーマス・ヨルダンスイス国立銀行(SNB)総裁は28日のCNBCインタビューで「フラン高が金融政策の運営を非常に複雑にしている」と述べ、マイナス金利の再導入の可能性を示唆した。SNBは2015年1月から2022年9月までマイナス金利を運用した前例がある。
しかし専門家は、トランプ政権のドル政策の方向性が不透明で地政学的リスクが解消されない限り、スイスフランの独走体制が当面続く可能性が大きいと予測した。一般的に中央銀行が利下げを行えば通貨安につながる場合が多い。だがスイスのように政策の信頼度が高い場合、中央銀行の積極的な対応自体がフランの安全資産イメージを強化する効果をもたらし得る。