イランの経済難で火がついた抗議デモが都心部を越え、大学街にまで拡大している。西側の制裁下でイラン・リアルは最近、通貨価値が史上最安値を記録し、国民は深刻なインフレに苦しんできた。
30日(現地時間)、ニューヨーク・タイムズはテヘラン、イスファハン、ヤズドなど複数の都市で学生デモが相次いでいると報じた。現地メディアのILNA通信によると、この日デモが行われた学校はテヘラン大学、ハジェナシール・トゥースィ工科大学など8校に上る。
デモに参加した学生らは「自由」を連呼する一方で、「恐れるな。私たちは皆一緒だ」、「独裁者に死を」といったスローガンを唱和した。国立テヘラン大学近郊では軍とデモ隊が衝突する様子が映像に収められ公開されたことがある。
学生デモは、先に起きた商人主導のデモの延長線上にあるとみられる。29日、商人と住民はリアルの下落に伴う経済難に反発し、テヘラン中心部のサアディ通りと市場のグランドバザールで店を閉めてデモに出た。APによると、このデモは2022年にヒジャブを適切に着用していなかった女性が拘束後に死亡して発火した、いわゆる「ヒジャブデモ」以降で最大規模だ。
デモは西側の長年の制裁下で経済難が深刻化する一方、ドルに対するリアルの価値までもが史上最安水準へ下落するなかで発生した。デモ当日基準でイラン・リアルは1ドル=138万リアルを記録したが、これはモハンマド・レザ・ファルジンイラン中央銀行総裁が就任した2022年(1ドル=43万リアル)比で約3倍に当たる。結局、ファルジン総裁はこの件を契機に同日辞任した。
通貨価値の下落は物価上昇につながっている。イラン国家統計センターによると、今月の消費者物価指数は前年同期比42.2%上昇し、食料品と医療品はそれぞれ72%、50%の上昇率を記録した。これに干ばつによる断水、エネルギー不足に伴う停電などインフラ問題まで重なり、怒った民意が爆発したとみられる。
ただし当局が世論の鎮静化に動くなか、比較的融和的な姿勢を示しているとの評価も出ている。マスード・ペゼシキアンイラン大統領はデモ当日、X(旧ツイッター)を通じて「政府が国民の購買力を維持しようとする措置を計画中だ」とし、「内務長官に対し、デモ隊の代表者らと対話し正当な要求に耳を傾けるよう求めた」と明らかにした。
パメデ・モハゼラニ政府報道官も記者会見で「政府はデモ主催側を含む対話の場を設ける計画だ」とし、「市民が生計問題でどれほど苦しんでいるかを見て、聞いて、認識している」と述べた。過去の類似局面で強硬な鎮圧や大規模な逮捕措置に踏み切ったことと対照的である。
イラン国内の強硬保守陣営と一部の国営メディアは、デモの背後に外部勢力がいると指摘し警戒感を強めている。イラン国営タスニム通信は「シオニスト(ユダヤ人の民族主義者)のメディアと関係者が国民の要求を歪曲し、混乱と暴動を扇動している」と指摘したことがある。
政府が暗黙のうちにデモ隊の説得ではなく鎮圧に重心を置いているとの批判も出ている。イラン政府はこの日、31州のうち18州の大学と公共機関、商業施設を1日閉鎖すると明らかにしたが、エネルギー節約と寒波の安全対策を名目に掲げつつ、実質的にはデモ拡散を遮断しようとする意図が込められているとの分析も提起された。
イラン経済専門シンクタンクであるボルス・アンド・バザール財団のエスファンディヤル・バトマンゲリジ代表は「イラン指導部の相当数はこれまで国民多数の要求に耳を傾けてこなかった」とし、「その結果、政権の正当性と権威が損なわれたという事実を、遅ればせながら散発的に認識し始めたように見える」と診断した。