ドナルド・トランプ米国大統領とテスラ最高経営責任者(CEO)のイーロン・マスクの間の公開的な葛藤が収束局面に入った背景には、JD・バンス副大統領の執拗な仲裁があったと伝えられている。マスクが第三党の結成可能性に言及してトランプ陣営を圧迫すると、バンス副大統領は共和党の分裂が来年の中間選挙に致命的になり得ると判断し、直接介入したということだ。
29日(現地時間)ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)によると、マスクとトランプ大統領の関係は、マスクが政府費用の削減を名分とする政府効率部(DOGE)プロジェクトを主導し、ソーシャルメディア(SNS)でトランプ大統領を公開で批判しながら急速に冷却した。マスクは連邦機関のシステムと人事に攻撃的に介入し、米国国際開発庁(USAID)の解体を推進するなど破格の歩みを続けた。トランプ大統領側はマスクのスピードとやり方に当惑を示し、葛藤は公開衝突へと広がったとWSJは評価した。
状況が悪化すると、バンス副大統領はマスクに直接連絡すると同時に、側近らにも第三党構想が現実化すれば共和党全体が打撃を受け得ると説得した。バンス副大統領は、マスクの核心関心事がスペースXと連携したジャレッド・アイザックマンの米航空宇宙局(NASA)長官指名の承認である点を把握し、上院の人事関係者を相手に支持の確保に動いた。ホワイトハウス内部でもマスクとの全面衝突を避けるべきだという共通認識が形成された。
こうした水面下の接触は効果を生んだ。マスクは第三党結成計画を事実上断念し、その後ホワイトハウスの行事に再び姿を現した。とりわけ保守陣営で影響力が大きいチャーリー・カークの葬儀で、トランプとマスクが並んで姿を見せ親しげに会話を交わす場面が捉えられ、双方の関係が急速に回復したシグナルだと解釈された。
ただし周辺では今回の和解が構造的に不安定だという評価も出ている。マスクは莫大な資金力とSNSの影響力を同時に持つ人物だが、政治的な歩みが予測不能である点がトランプ陣営に負担として作用してきた。トランプ側の参謀は、マスクの後援が単なる政治資金の支援を越え、政策の方向性や人事にまで影響力を行使しようとする性向を伴うと見て警戒してきた。
それでも、この過程でバンス副大統領の存在感は一段と浮き彫りになった。バンス副大統領はマスクと定期的に疎通し、技術中心の世界観とオンライン政治の文法を共有してきた。マスクがバンス副大統領を2028年大統領選の潜在的候補と評価しているとの観測も出た。しかしバンス副大統領は、億万長者との緊密さが自身のポピュリズム的イメージに負担となり得る点で、微妙な綱渡りを続けている。
マスクもまた教訓を得た雰囲気だ。マスクは最近のインタビューで政治を「血しぶきが飛ぶ戦い」にたとえ、直接的な政治介入を減らす意向をにおわせた。DOGEプロジェクトも中央組織は解体され、一部人員のみが連邦機関に分散配置された状態だ。
結局、今回の和解はトランプ大統領とマスク双方の利害がかみ合った選択だったという評価が出ている。トランプ陣営は選挙局面でマスクの支援を維持する必要があり、マスクもまた共和党との公開の決別が負担となり得ることを考慮したとみられるということだ.