欧州中央銀行発の利下げ基調と相まって、凍りついていたフランス・パリの不動産市場に資産家が戻ってきている。
30日(現地時間)フィナンシャル・タイムズ(FT)と現地不動産業界によると、ぜいたく品帝国LVMHを率いるベルナール・アルノー会長一族はこの1年でパリの超高額不動産3件を総額1億9,950万ユーロ(約3,370億ウォン)で買い集めた。
取得内容を精査すると、アルノー一族が新たに購入した不動産はパリで最も立地が優れた場所に位置している。アルノー一族は2024年12月にパリ7区のタウンハウスを5,800万ユーロ(約980億ウォン)で購入した。続いて2025年3月には同じ7区にある17世紀の邸宅を9,750万ユーロ(約1,650億ウォン)で追加取得した。5月には高級住宅地である16区のアパートを4,400万ユーロ(約750億ウォン)で確保した。このアパートは屋内庭園や大理石の暖炉など華美な設備を備えるとされる。
アルノー会長だけでなく、ルイ・ヴィトンのメンズ・クリエイティブディレクターで著名な音楽家であるファレル・ウィリアムスもパリ不動産の取得に加わった。ファレル・ウィリアムスは今年、パリ1区所在の不動産を6,250万ユーロ(約1,060億ウォン)で購入した。この邸宅はルーヴル美術館とチュイルリー庭園を見下ろす由緒ある建物に位置する。
超高額住宅市場は一般住宅市場と異なり、需要層が限られ供給は極めて少ない。アルノー一族やファレル・ウィリアムスのような大物が特定の価格帯で大規模に買い進めば、当該地域の不動産価値は盤石になる。不動産専門家は「著名人の買いは市場全体に『価格の基準点』を提示する役割を果たす」とし、「他の資産家に『今が買い時』という強力な心理的シグナルを送る効果もある」と述べた。
グローバル富裕層がパリ不動産に固執する理由は、資産効率性と象徴性にある。パリ中核地域の不動産は、いわゆる「トロフィー資産」と呼ばれる。株式や債券よりも変動性が低く、パリという都市が持つ文化的・象徴的価値が資産のセーフティネットとして機能する。希少性が極めて高く、経済危機下でも価値が下がりにくい。米国ニューヨークや英国ロンドンと比べても、パリの超高額市場は相対的に供給がさらに限定的で、価格面で下方硬直性が強いとの評価だ。
クリスティーズ・インターナショナル・リアルエステートは今年のグローバル・ラグジュアリー市場レポートで「富裕層の買い手は単に家を買うのではなく、パリという都市が提供する独特の歴史的・文化的体験を購入する」とし、「セキュリティとプライバシーが確保されたパリの大邸宅は代替不可能な資産だ」と分析した。
とりわけ今のような利下げ局面では調達コストが低下するため、こうしたトロフィー資産の中でも優良物件を先取りしようとする競争が激化する。フランス中央銀行の統計によると、新規住宅ローンの平均金利は2024年1月の4.17%から今年3月には3.2%水準まで低下した。高金利負担で様子見を続けていた大口投資家は、低コストで資金を調達できるようになると不動産市場に復帰し始めた。
金利低下は直ちに取引量の増加につながった。パリ公証人協会の資料によれば、今年第3四半期時点でイル=ド=フランス(パリを含む首都圏)地域の中古住宅取引量は前年同期比13%急増した。直近2年で四半期ベースの最も急な上昇だ。取引が活性化するにつれ価格も再び上がり始めた。フランス統計局(INSEE)は、パリのマンション価格が10四半期連続の下落を終え、今年第3四半期時点で前年同期比1.9%反発したと明らかにした。パリ公証人協会は「2026年上半期まで市場流動性がさらに改善し、取引量は例年水準を回復する」と展望した。
もちろん、楽観一色というわけではない。増大するフランス国内の政治的不確実性と富裕税をめぐる論争は、久しぶりに温まり始めたパリ不動産市場の足かせになり得る。現在フランスは純資産130万ユーロ(約19億5,000万ウォン)以上の不動産所有者に不動産富裕税(IFI)を課している。リシャール・ツィピン・バネス不動産の代表はFTに「政治的な不安と増税への懸念から、不動産資産を売却して海外へ移ろうとするパリ居住者も少なくない」と伝えた。