永世中立国のスイスが、自国を自ら守る能力を喪失したと認めた。ロシアによる安全保障上の脅威が欧州全域を覆うなか、軍の近代化と国防予算の増額を急ぐべきだという声が高まっている。
28日(現地時間)ロイターによると、トマス・シースリースイス軍総司令官は前日、現地メディア「ノイエ・チュルヒャー・ツァイトゥング(NZZ)」のインタビューで「現在スイスは、長距離から到来する脅威や国家を狙った全面的な攻撃を阻止する能力がない」と述べた。シースリー司令官は続けて「全兵力のうち、実際に有事が発生した際に全ての装備を備えて作戦に投入できる人員は33%に過ぎない」と付け加えた。
司令官は「ロシアが西側とのより大きな戦争を準備していると見ている」とし、「備える時間は多く残されていない」と警告した。さらに「歴史的にも、中立国という事実自体が自動的に盾になるという信念は崩れてきた」と述べ、「中立は武力で守るときに価値がある」と強調した。
シースリー司令官の発言どおり、中立国の地位は単に戦争に加わらないという宣言だけでは維持されない。1907年に締結されたハーグ協約など国際法によれば、中立国には自国領土が交戦国に利用されることを防ぐ法的義務がある。自力で守る力のない中立国は、敵対勢力に通路を提供する結果につながる。このため国際法は、中立国が自ら防衛する能力を有するかどうかを、地位剥奪の重要な根拠とみなす。
ユーロニュースによると、スイス政府は1990年の冷戦終結以降、大規模な地上戦の脅威は消滅したと判断した。その後、国防予算を削減し兵力を大幅に減らした。1960年代に60万人に達していたスイス軍の兵力は、いまや予備役を含めて約14万人規模まで縮小した。常備軍はこれよりはるかに少ない。装備も老朽化している。過去30年間、戦車と砲兵戦力の強化を先送りする一方、防御中心に組まれた大半の軍施設が老朽化した。これは現代戦を遂行する能力を麻痺させる結果となった。
スイスは1人当たりGDPが世界最高水準の富裕国である。しかし国防費の支出比率は主要国の中で最下位圏にある。現在スイスが国防に費やす資金はGDP比0.7%水準だ。ドナルド・トランプ米国大統領が北大西洋条約機構(NATO)加盟国に求める2%ガイドラインに比べると半分にも満たない。専門家は、NATOのような集団安全保障体制に属さない中立国であれば、むしろNATO諸国より多くの国防費を投じるべきだと指摘した。戦争が勃発すれば同盟軍の支援なしに単独で前線を守らねばならないためである。
国家レベルで防衛力強化に財布のひもを緩めると決めても、直ちに防御力を高めることはできない。過去と異なり、現代の先端兵器体系は契約を結んで実際に部隊に配備されるまで少なくとも10年を要する。防衛産業界では「調達リードタイム」と呼ぶ。例えば、スイスが導入を決めたF-35Aステルス戦闘機と新型防空システムが完全に戦力に編入される時点は、早くて2030年代後半である。陸軍の砲兵体系の近代化まで含めれば、スイス軍が目標とする「完全な備えの態勢」は2050年前後になってようやく完成する。スイス軍が現時点を「防御不可能な状態」と規定した背景には、こうした時間差があると専門家は評価した。
財政原則も足かせとなる。スイスは国家債務が一定水準を超えないようにする「債務ブレーキ原則」を憲法に明記している。国防費を数兆ウォン規模で増やすには、福祉や教育など他分野の予算を削減しなければならない。スイス政界では、国防予算をGDP比0.7%から1%へと0.3%ポイント(p)引き上げる案をめぐっても、依然として激しい攻防が続いている。直ちに支出を増やすべきだという合意は成ったが、どこから財源を捻出するかは確定していない。
専門家は、スイスが直面するジレンマが欧州の安全保障地図の構造的変化を象徴していると指摘した。安全保障専門メディアのフォシスニュースは専門家の言として「中立国であることが平和主義を意味しない点を明確にすべきだ」とし、「スイスが追求する新たな国防戦略は、悪化する安全保障環境のなかで防衛能力を強化しようとする戦略的な動きだ」と報じた。