スイスが世界の舞台での地位を失いつつあるとの警告が財界と政界から同時に出た。中立性、合意、直接民主主義に基づくスイス型システムが、急変する国際秩序に十分な速さで対応できていないとの懸念が広がっているためだ。
22日(現地時間)の英フィナンシャル・タイムズ(FT)によると、スイス最大手銀行UBSのコルム・ケレハー会長は先月の公開発言で「スイスは輝きを失いつつあり、重大な挑戦の岐路に立っている」と警告した。ケレハー会長は、グローバル資産運用市場の競争激化や米国の高関税による製薬・輸出産業への打撃、自由主義秩序と次第に食い違っているとの評価を受ける規制環境を主因に挙げた。バーゼルに本社を置く製薬大手ロシュのセベリン・シュヴァン会長も、グローバルな投資圧力と遅い政治的意思決定がスイスの競争力を脅かしているとして強い危機感を示した。
戦後数十年にわたりスイスは、分権化された直接民主主義と安定した通貨、予見可能な外交・産業構造を土台に、欧州の各種危機から比較的自由な国家と認識されてきた。だがこの1年でこうした安定性は揺らぎ始めた。中立性の意味と欧州連合との関係を巡る論争が、もはや先送りできない懸案として浮上した。これらの争点は今後の国民投票を通じて社会的分断につながる可能性も提起された。
2023年に政府主導の公的資金で投資銀行クレディ・スイスを買収したUBSは、資本規制を巡って政府と対立した。これに米政権がスイス製品に高関税を課し、関税摩擦が激化した。経済ブロックに属していないスイスの構造的脆弱性を露呈した事例と評価された。関税紛争の過程でスイス企業の幹部がホワイトハウスを直接訪れてロビー活動に動いた場面は、伝統的なスイスの外交手法にそぐわない姿と受け止められた。
ダボス会議を象徴する世界経済フォーラムのクラウス・シュワブ前会長を巡る調査や、一部大企業・プライベートバンクのガバナンス・規制を巡る論争も不安感を強めた。慎重さと静かな企業文化を重んじてきた社会において、こうした事態は象徴的な衝撃として受け止められた。
もっとも、スイスの構造的な回復力を強調する見方も根強い。スイスは世界最大の国境を越える資産管理ハブの地位を維持した。資本流入と運用資産は過去最高を記録した。フラン高と低インフレ、安定した雇用環境も経済の基礎体力を下支えした。過去の時計産業危機や銀行秘密主義の廃止後にも、産業構造転換に成功した前例が改めて言及された。
専門家は、現在の危機感は衰退というより転換のシグナルである可能性が大きいと評価した。中立性と合意、直接民主主義というスイス型モデルが、より速く変化する世界に合わせて調整できるかどうかが、今後の地位を左右する核心変数に挙げられた。スイスの根本的な強みは依然として有効だが、慢心が最大のリスクになり得るとの警告が財界と政界全般に広がっている。