米国ケンタッキーのバーボンウイスキーを象徴するブランド「ジムビーム(Jim Beam)」が来年1年間、ケンタッキー州のメイン蒸留所の操業を止める。世界のウイスキー市場が過去最大級の在庫過剰と需要減速という二重苦に直面する中で下した苦肉の策である。
専門家は、バーボンウイスキー業界1位ブランドが主力工場の門を閉ざすほど市場環境が急激に悪化したと分析した。ここに今年のトランプ政権の通商政策に伴う関税リスクまで重なり、米国ウイスキー産業全般に大規模な構造調整圧力が押し寄せている。
22日(現地時間)酒類専門メディアのウイスキーアドボケイトとルイビル・ビジネス・ジャーナルなどによると、ジムビームブランドの所有者であるサントリー・グローバル・スピリッツは、ケンタッキー州クレアモントに位置するジェームズ・B・ビーム蒸留所を来年1月1日から1年間、操業停止する。ジムビーム側は「消費者需要の変化に合わせて生産水準を最適化するための措置だ」と説明した。
ジムビームのような巨大ブランドが中核生産拠点を1年も空けるのは極めて異例だ。バーボンウイスキーはトウモロコシを主原料とする米国を代表する蒸留酒である。ジムビームはこの分野で世界1位のシェアを記録している。このような象徴的ブランドが1年間蒸留を中断するのは、ウイスキー市場の好況が事実上、終盤局面に入ったことを示唆する。
現在、米国のバーボンウイスキー業界は前例のないほど多い在庫原酒で頭を抱えている。ケンタッキー蒸留酒協会(KDA)が発表した資料によれば、今年1月時点でケンタッキー州内で熟成中のバーボンのバレル(オーク樽)は1610万個で過去最高を更新した。ケンタッキーの人口がおよそ450万人であることを踏まえると、住民1人当たりウイスキー3.5樽以上を保有している計算になる。バーボンウイスキー需要が爆発する前だった20年前に比べると在庫量は3倍以上に増えた。
ケンタッキー州は毎年、蒸留所の倉庫に保管された熟成ウイスキー樽に対してアドバロム税(Ad Valorem Tax)という独特の税金を課す。酒がオーク樽の中で熟成する期間、毎年税金を支払う仕組みである。在庫が増えるほどメーカーが負う税負担は幾何級数的に膨らむ。KDAによると、今年ケンタッキーの蒸留業界が納めるべき熟成バレル税は約7500万ドル(約110億ウォン)に達する。過去5年の間に熟成税は163%急増し、メーカーの経営を圧迫している。
だぶつく在庫とは裏腹に市場需要は急速に冷えた。米国の成人飲酒量はここ数年で急激に減っている。市場調査機関ギャラップによれば、2023年基準の成人飲酒率は62%から2024年に58%へ下がった。今年は54%まで低下した。調査史上最も低い数値である。特にウイスキー市場を主導してきた35〜54歳の中年層の飲酒率は70%から56%へ大きく減った。市場に新規参入する18〜34歳の若年成人の飲酒率も2023年の59%から2025年には50%へと明確に下がった。
その結果、米国内のウイスキー販売量は2023年、20余年ぶりに初めて減少に転じた。昨年も販売量が2.7%さらに下落し、2年連続で縮小した。ウイスキーアドボケイトは「지난20年間続いたバーボンブームが事実上幕を下ろした」とし、「今や大規模な供給過剰を解決しなければならない痛みを伴う調整期に入った」と分析した。
外部環境も暗い。トランプ政権が推進する米国第一主義の通商政策は、輸出比重の高い米国ウイスキー業界に大きな脅威となっている。過去のトランプ政権1期目に欧州連合(EU)と関税戦争を繰り広げた当時、米国産ウイスキーには25%の報復関税が課され、輸出額が瞬く間に半減した。
今年は米国ウイスキーの最大輸入国だったカナダが3月の貿易紛争再燃以降、事実上バーボンウイスキーの輸入を止めた。業界では、今年のカナダ向けウイスキー輸出量が昨年より60%減ったと推定する。パンデミック後に急成長した韓国や中国など東北アジア市場も内需の低迷でウイスキー熱が冷めた。米国内で行き場を失った在庫を処理できる唯一の窓口だった海外市場の活路さえ塞がったということだ。
生き残りのための非常経営はジムビームに限った現象ではない。他の米国ウイスキー業界の巨人はジムビームに先んじて非常経営に乗り出した。「ジャックダニエル」製造元のブラウン・フォーマンは今年初め、ケンタッキー州ルイビルにあるオーク樽製造工場の閉鎖を決定した。従業員も約640人を解雇した。ブラウン・フォーマン側は工場閉鎖によって年最大8000万ドルを節減する計画だ。
「ブレット」ブランドを保有する世界最大の酒類企業ディアジオもウイスキー販売不振で収益性悪化に苦しんでいる。ディアジオは今年初め、ケンタッキーのレバノン蒸留所を一時操業停止とすることを決めた。ケンタッキー内の別の蒸留所であるスティッツェル・ウェラーの設備は全面閉鎖した。
専門家は米国ウイスキー産業が長期停滞局面に入ったと警告した。米国内の消費減速、在庫過剰に関税と輸出という変数が加わる三つの要因が解消されるまでには相当な時間がかかる見通しだ。
投資銀行TDコーウェンはリポートで「ウイスキー消費者は、より高価なプレミアム製品を求める層と、そもそも消費を減らす層の二極に分かれている」とし、「消費者が財布のひもを締めるか、より安価な代替品を探す過程で、大衆的なウイスキーブランドは引き続き軟調となる可能性が大きい」と見通した。
ウイスキーアドボケイトも「米国ウイスキー産業が前例のない強気相場を過ぎ、強力な逆風に直面している」とし、「生産中断や人員削減、施設閉鎖のように米国ウイスキー業界が打ち出す対応策が、こうした危機感を反映している」と述べた。