米国上院は17日(現地時間)、決済処理企業「シフト4」創業者で億万長者のジャレッド・アイザックマンを第15代米航空宇宙局(NASA)長官として承認した。新任のアイザックマン長官は資産だけで12億ドル(約1兆6800億ウォン)に達する富豪である。宇宙工学に関する専門官僚や科学者出身ではない。アイザックマンはスペースXの宇宙船に搭乗し、民間人として初めて宇宙遊泳を行った「ポラリス・ダーン」プロジェクトの支援者である。
アイザックマンの承認プロセスは順調ではなかった。アイザックマンはイーロン・マスク最高経営責任者(CEO)が率いるスペースXと特別な関係を結んでいる。ドナルド・トランプ大統領は当初5月にアイザックマンを指名したが撤回し、今回再指名した。当時、トランプ大統領とマスクの間の不和が原因だったとの分析が支配的である。これはNASA長官の座がスペースXのマスクとの関係によって左右され得ることを示す傍証である。
アイザックマンはスペースXの有人宇宙船の開発と運用に深く関与してきた。今後もNASAのトップとして、スペースXを含む民間宇宙企業に対し数十億ドル規模の契約を発注し、管理監督しなければならない。アイザックマンはこの日の承認公聴会で「中国より先に月に行かなければならない」とし、「民間企業の競争を通じて納税者の資金を節約する」と強調した。
見た目には効率性を強調した発言のようだが、内実は複雑である。NASAは現在、月着陸船の開発を含むアルテミス計画の中核課題をスペースXなどの民間企業に依存している。長官が特定の民間企業と特別な関係を結んでいるなら、競争入札の過程で公正性を担保しにくい。ロイターは「一部の民主党上院議員はアイザックマンとマスクの親密な関係が政策決定に及ぼす影響を懸念している」と伝えた。NASAがブルーオリジン(Blue Origin)のようなスペースXの競合に属する他社の契約を評価する際に、公正性を巡る論争が生じる可能性も排除できない。
宇宙政策を担当するNASAだけではない。現在のトランプ2期政権では、商務・通商、教育、内務のように主要な規制・予算権限を担う主要部門のトップを、いわゆる超富裕層(Ultra-high-net-worth individual)が務めている。
商務長官ハワード・ルトニックはウォール街の投資銀行キャンター・フィッツジェラルドの元会長である。資産規模は30億ドル(約4兆2000億ウォン)を超える。商務省は半導体補助金の支給、対中輸出管理、関税政策など企業の生殺与奪権を握っている。金融投資が本業の人物が産業政策を総括することで、政策の方向性が特定資本の利益に奉仕し得るとの懸念が出ている。ブルームバーグなどの海外メディアは「ウォール街の大物が通商・産業政策を総括することで、『政策目標対市場の利害』という緊張の軸が形成される」と分析した。
教育長官リンダ・マクマホンも資産30億ドル以上を保有するプロレス団体WWEの共同創業者である。トランプ大統領は選挙期間中「教育省を廃止する」と公言し、マクマホン長官は就任後これを実行に移している。公教育システムを解体し、バウチャー制度などを通じて教育を市場原理に委ねようとする試みである。これは「億万長者が公共サービスを縮小して税金を節約しようとしている」との批判に通じる。『公正な税金のためのアメリカ人協会』は「トランプ内閣は億万長者のための億万長者政府だ」とし、「富裕層減税は結局、低所得層の公共サービス縮小につながる」と批判した。
内務長官ダグ・バーガムもソフトウェア事業で富を蓄積した億万長者である。内務省は連邦の土地と天然資源を管理する。バーガム長官は石油・ガス掘削の規制を緩和し、エネルギー生産を増やすと明らかにした。環境保護という公共の価値よりも資源開発という産業的利益を優先する姿である。
マスクもトランプ2期政権下で新設組織の政府効率部(DOGE)のトップとして活動した。5月末に辞任したものの、マスクは「連邦予算を2兆ドル削減できる」として規制撤廃と公務員削減を主導した。スペースXやテスラのような企業は政府の規制と補助金に敏感である。マスクがDOGEを通じて規制を緩和し、競合他社の参入障壁を高める方式で「規制の虜(規制捕獲)」を完成させたとの批判が出る理由である。政治専門メディアのポリティコは「マスクとトランプの関係がぎくしゃくしたにもかかわらず、マスクは政府政策に深く関与し莫大な利益を手にした」と評価した。
トランプ大統領と支持層は、億万長者の起用が能力主義に基づくとした。企業を成功させた経験と執行力を政府に移植し、非効率を取り除くという論理である。ルトニック商務長官は「最高水準のビジネスリーダーが政府に入り、トランプ大統領に忠誠を尽くし、政策を指揮するだろう」と自信を示した。アイザックマン長官も「ぐずぐずしている時間はない」としてスピード重視を強調した。
しかし公共政策が特定の資本家の私益追求の手段に転落しかねないとの懸念も大きい。英ガーディアンは「トランプとマスクのもとで億万長者が米国の国家安全保障に前例のない影響力を行使している」とし、「過去には政府官僚と契約業者が統制していたスパイ衛星の作戦まで、今やベゾスとマスクの手に渡った」と指摘した。